赤鯱新報

【名古屋vsV三重】レビュー:肝を冷やした辛勝に、それでも得られたチームの上積み。結果良ければ次へのビジョンはそれでも広がる。

■天皇杯 JFA 第103回全日本サッカー選手権大会 2回戦
6月7日(水)名古屋 3-2 V三重(19:00KICK OFF/パロマ瑞穂ラ/5,340人)
得点者:2’野上結貴(名古屋)35’藤井陽也(名古屋)42’貴田遼河(名古屋)71’田村翔太(V三重)76’梁賢柱(V三重)
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まさかこんなにヒヤヒヤする試合になるとは、誰が予想しただろうか。JFLを相手に3点をリードし、追いつかれはしなかったものの、試合終了のその時まで延長戦を覚悟する展開にまで挽回されてしまった。「とにかくどこかで緩い部分が出てしまったのだと思う」。この日は3バックの中央でDFリーダーとして懸命に戦った藤井陽也は、納得のいかない表情で試合の流れを振り返った。長谷川健太監督とて、この試合展開に持ち込まれようとは夢にも思ってなかったはずだ。勝てばいいのが天皇杯の、しかも初戦だが、さすがにこの冷や汗のかき方は不要なものでしかない。

不測の事態もしっかりと対応し、その上で優位を取った試合のはずだった。試合前のウォーミングアップで内田宅哉にアクシデントがあり、急きょベンチスタートだったマテウスをスタメンに、ベンチ外だった甲田英將を18名に加えて臨んだ。マテウスは十分なアップを経ておらず、キックオフから身体を少しずつ温めていくような状態だったが、その不安も出会い頭の先制パンチで大きなアドバンテージをつかんで帳消しにした。開始直後の攻撃で得た敵陣右サイド、やや浅めの位置でのフリーキック。左利きの角度のセットプレーでボールの前に立ったのは河面旺成である。マテウスに無理をさせたくなかったのではなく、この日の予定されていたキッカーは彼だったことは、「狙い通りの形だった」という河面の言葉からも読み取れる。

背番号24が得意の左足を振り抜き、送ったボールは上手くDFの前に入り込んだ中央の野上結貴だった。上手く右足を合わせてゴールに流し込み、いきなりの先制点。チャレンジャーである三重にとっては痛すぎる失点であり、この時には試合を決定づけるとすら思えるインパクトのある一撃だった。その7分後にはほぼ同じ位置からのFKを同じように合わせ、同じ野上が決定機を得ており、さらには後半にも吉田温紀が同じ場所、同じ入り方でチャンスになっていたことを考えれば、三重のセットプレーの守備の穴はスカウティングによって明確になっていたことは間違いない。そこにきっちりクロスを送った河面のキックの質は大きなアピールとなったはずで、「キッカーの役割としても責任を持ってやらないといけないところ」と本人も好感触を得た様子だった。

開始早々のアドバンテージによって名古屋の戦い方は想定以上に楽になったはずだ。こうした対戦で一番嫌な展開は、なかなか点が取れずに少し無理をして、その隙を突かれて追う展開になること。その意味で喉から手が出るほど欲しい先制点が、いとも簡単に奪えたことで、あとはしっかり落ち着いて相手に対応し、追加点を狙えばよいことにもなった。そのリズムに乗じて三重はペースを取り戻しもしたが、崩しや仕掛けの局面で名古屋が個の力で上回る対応を見せたことで、勢いづくまでには至らず。「前半の途中からなかなかはまらなくて」(河面)と、守備の手応え十分というわけでもなかったが、「最後の部分でやらせないっていうところはできていた」(藤井陽也)と、ピンチは作らず攻撃へと切り替え、追加点への流れを生み出していった。

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