赤鯱新報

【名古屋vsV三重】レビュー:肝を冷やした辛勝に、それでも得られたチームの上積み。結果良ければ次へのビジョンはそれでも広がる。

緩急を大きくつけながらの前半の中で、さらに名古屋の優位を深めた得点は35分と42分に生まれている。35分はコーナーキックで、これも河面の鋭いキックをファーサイドで酒井宣福が頭で折り返し、中央でフリーになっていた藤井が難なく詰めた。ニアサイドで丸山祐市がつぶれるところも含めて、これもまた準備していた形のひとつ。展開はコントロールしていたとはいえ、相手も良さを表現しだしていた時間帯だけに、その嫌な空気を一発で変えたという点でもこのセットプレーでの追加点に効果は大きい。その7分後には右サイドのスローインからマテウスとの連係で抜け出した石田凌太郎が抜群のクロスをニアに叩き込み、貴田遼河が流し込んで3点目。「競っても勝てていない場面があった。高いボールよりは、あの間に速いボールを入れれば何かしら起きる」という石田の狙いも見事にはまり、プロ契約後初得点となった貴田にとっては、ダイレクトシュートが決まったことに大きな意味がある。コントロールしてからのシュートが多いのは彼の武器でもあるが、ワンタッチゴールが増えれば収める力、保持するプレーがより生きるようになるからだ。

3点目の直後には丸山祐市、貴田、河面と素早くつないで抜け出した左の崩しから酒井が決定機を得たが、これは相手GKの好守に遭い、惜しくも4点目はならず。しかし前半で3点リードはJFLのチームにとっては絶望的にも思える点差で、2失点目のあとに円陣を組んで仕切り直したはずが、さらに失点を重ねたという事実も三重の選手たちには重くのしかかっていたはずだった。そして3-0で折り返せたことで名古屋の選手起用には当然のごとく余裕も生まれ、無理をさせたマテウスを後半から稲垣祥にスイッチするという豪華な交代策にも踏み切れた。おそらくマテウスは森下龍矢とともに、もしもの時の飛び道具的な位置づけだったはずだ。それを頭から使わざるを得なかったことは、膠着して後半に入っていた場合、マテウスを引っ張らざるを得ない展開になっていたことを意味する。心配しすぎかもしれないが、スタメンとしてのアップをしていない選手である。リスクは普段の起用より、上がっていたのは間違いない。

“だが”、という話の展開にせざるを得ないのが、改めて感じた天皇杯の怖さだ。リーグ戦での名古屋の強さを考えた時、リードを奪った際のアラートさはひとつ挙げられる要因である。特に今季は湘南戦での痛恨事が守備陣に強いトラウマとして残っており、極端なことをしてでも守る気概が最終ラインから湧き出るようにチームへと波及している。3点リードをしているとは言え、何が起こるかわからないという警戒心はむしろ上がっていたはずで、だからこそ後半の戦いぶりには残念さがどうしたって漂ってしまう。前半で相手のやり方にも慣れ、それを下敷きにした修正案をピッチに持ち込んでいたにもかかわらず、三重にはその裏を突かれ、上回られてしまった。さすがは名将・樋口靖洋監督である。よくオーガナイズされた前半の攻撃は得点やシュートにこそつながっていなかったが、意図の連なった崩しの動きやパスのつけ方は時に名古屋の守備を手玉にとった。

さらに後半になって、三重は3人同時交代とともに4-4-2から3-4-2-1へとフォーメーションを変え、攻撃の形もロングボールを主体に強引さを押し出してくるようになっていた。それは3点を追う中で、とにかく取っ掛かりとなる1点を奪うための強攻策であり、前半から空中戦でそれほど名古屋の分が良くなかった点を考慮しての判断だったこともうかがえる。前線には屈強なセンターFWが立ち、運動量のある中盤がこぼれ球にも機敏に反応すれば、当てが外れた名古屋の守備が、しかも追加点を狙って前がかりにもなる逆をとられ、主導権を握られた。不運なことに開始4分で酒井がスプリントの際に左足を痛め、レオナルドに交代するというアクシデントまで発生した。前半から仲間のために走り、競り合い、身体を張っていた男がいなくなったことも、相手の勢いを止める上では少なくない損害をチームにもたらしたと言える。

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