赤鯱新報

【名古屋vs金沢】レビュー:順当で抑揚の少ない確実な勝利。その結果は名古屋に確かな“次の一歩”を踏み出させる。

■天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権3回戦
6月22日(水)名古屋 1-0 金沢(19:00KICK OFF/石川西部/2,959人)
得点者:51’阿部浩之(名古屋)
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前半を終えた時点で感じたのは、1点を取って平坦に試合を終わらせるイメージの試合ということだった。時折、彼らの強みを見せてくる金沢だったが、厚みと迫力が足りず、果敢な意図は良いところで噛み合いきらなかった。名古屋がそこまで順調に試合を進めているとも思えなかったが、やはりJ1とJ2の実力差は厳然としてあり、例えば相馬勇紀が仕掛ければチャンスは生まれた。「最後の質、ゴール前の質というのは、やっぱりまだまだ」と阿部浩之は振り返ったが、そこにあと少しの高まりがあれば、前半で仕留めきる試合にもできていただろう。しかしこの日にそれはならず、ただし必要な結果だけはきっちりと名古屋が手にしている。

順調な回復を確認できるメンバー構成だった。ベンチのGKに渋谷飛翔が戻り、DFには河面旺成も名を連ねた。油断ならない相手だが、連戦に対するマネジメントにも気は抜けず、かくして11人のスタメンはルヴァンカップのアウェイ徳島戦をベースとしたようなチョイスに落ち着いている。3バックを束ねるのは中谷進之介で、右のウイングバックには浦和戦で悔しい想いをした石田凌太郎が、インサイドハーフに内田宅哉が入り、試合開始後すぐに普段の3-5-2は3-4-3に並びを変え、仙頭啓矢がボランチとしての手綱を握った。控えにはレオ シルバとマテウスがにらみを利かせ、不測の事態にもとどめを刺す切り札としてもチームを支える。

立ち上がりはシンプルに背後を狙い、ややあってしっかりと試合を組み立てながらサイドを起点に攻めてきた金沢に対しては、相手のツートップとの攻防がどうかという部分に序盤の見どころは絞られた。4-4-2へのマッチアップも手慣れたもので、中谷と藤井の3バック両サイドがしっかりサイドに張り出しつつ、ウイングバックと連係しつつ金沢の攻撃の芽を摘んでいく。ボールホルダーにあまり圧力がかけられない守備が続いたのはこのメンバーでは致し方ないところもあり、ゴール前に入ってくるボールにがチアゴが良く反応できていたので大きな問題にはならなかった。豊田陽平の高さ、林誠道の速さが組み合わさった金沢のツートップは距離感も近く連動し、名古屋DFラインの背後を幾度となく狙ったが、チアゴの対人能力を前面に押し出しつつバランスを取ることで対応は完遂したと言っていい。

攻撃面では序盤はウイングバックが高さを取れずに厚みが出せないところもあったが、石田が慣れ、相馬が1対1の場面で優位性を確保しだしてからはチャンスも増えた。速攻の形でも、ビルドアップからの形でも、名古屋の縦パスは良い頻度で前線に突き刺さり、それは中谷や仙頭らの距離から柿谷や阿部の位置に入れられることでも威力を増した。たびたび見られたのがボールを奪い返してから阿部や仙頭を経由して前線に良いボールが入っていく形で、それは左の相馬の突破を促し、右の石田のコンビネーションを生み、柿谷の仕掛けにもつながった。「やっぱり後ろに阿部ちゃんだったりがいると、自分が前で勝負するだけになる」と柿谷は言い、得点にフォーカスすることでニアへの飛び込みも普段以上に切れ味を増した。前半にあった決定機は32分の石田のパス&ゴーからの柿谷、40分の阿部、相馬、仙頭とつながったシュートなど、良いパスワークと連動の質で演出したもの。ここに広い意味でのフィニッシュの精度が加われば、という場面は他にも多く、「続けていくだけだった」という柿谷の感想も十分にうなずけるだけの45分ではあった。

後半は金沢が交代カードを切って仕掛けてくるも、早々に試合の流れは決まった。49分、中盤でボールを奪うと阿部がすぐさま相馬への裏パスを選択し、これに相手のサイドバックがかぶると、相馬の突進をペナルティエリアで強引に止めてしまい、PKの判定。これを阿部が「最近あの蹴り方を練習してたので」と、キーパーの逆をつく緩やかなコントロールシュートで流し込み、金沢の出鼻と反骨心をへし折った。以降は選手交代もなしのつぶてで、ゲームを支配したのは名古屋。決定機と呼べるチャンスは名古屋にも少なかったが、守備のクオリティは相手のペースダウンも手伝ってか前半以上で、ボールを奪いきることがなくとも、攻めてくる相手を押し返すだけの緊密さは保てていた。長谷川健太監督は64分に阿部と石田に代えてレオとマテウスを入れ、ゲームの支配にさらなるテコ入れを図ると、2人のブラジル人はその個人技をもって相手を翻弄し、アドバンテージをチームに与え、クロージングに一役買った。この日奪った1点は“虎の子の”ではなく、名古屋に余裕を、金沢に諦めを感じさせるような、強力なアイコンのようなものだった。

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