【名古屋vsC大阪】レビュー:興味深さも満載の急造チームも、接戦の末に敗戦。天皇杯は終わったが、彼らの意地はそれでも見せた。
■天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権ラウンド16
7月13日(水)名古屋 1-2 C大阪(18:33KICK OFF/ヨドコウ)
得点者:7’オウンゴール(C大阪)69’マテウスカストロ(名古屋)88’為田大貴(C大阪)
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善戦と言ってはいけないのだろう。様々な状況によって選ばれた遠征メンバーは、チームの台所事情を如実に表すとともに、8人を入れ替えてなおスタメンクラスの迫力を維持したC大阪との違いを否が応でも感じさせるものではあった。プロ初スタメンの選手、トップチームデビューの2種登録、これがプロ2戦目の若いDF、そして期限付き移籍が発表されているベテラン。なりふり構わずと言えばそれまでだが、なりふり構わなかっただけの競り合った試合にできたことは一つの収穫ではある。勝てた。しかし選手たちは存分に闘った。タイトル獲得のチャンスはこれで一つ途絶えたが、すぐさま重要な試合がやってくる。ここは内容面をしっかりと見つめるべき時だ。
ターンオーバーではなく、致し方なしの選手入れ替え。中2日でつながれる3連戦という厳しい日程の中では、計画的な選手起用も当然のごとく必要になってくるが、新型コロナウイルス罹患による選手の離脱とまだ癒えぬ負傷者の状況は、そうせざるを得ないメンバー選考を指揮官に突き付けた。観る者とすれば意欲的でもあり、出場機会の少なかった選手たちにとっては好機でしかないのだが、そのバランスがどこで保たれるかは試合が始まってみないことには未知数であり、悪く言えば出たとこ勝負だ。もちろんそれが当たればいいが、外れた時のリスクは大きく、ましてや天皇杯はACL出場権確保という側面からすればかなり重要な大会だ。何かと天秤にかけるには難しく、しかし背に腹は代えられない。トーナメントのベスト16で柿谷曜一朗とマテウスをベンチに待機させ、高校2年生の貴田遼河をスタメン起用するという奇策は、やはり奇策の域を出ないものだったことは否めなかった。
前半は奮闘という印象がつきまとう試合展開だった。大幅に入れ替えてなお強烈なメンバーが並ぶC大阪は、運動量も多く球際に強く、流れの中から個の突破力がチームを加速する素晴らしいグループだった。縦パスを有効に打ち込みながら両サイドに攻撃を振り分け、パトリッキや山田寛人、山中亮輔や中原輝など突破力に優れた選手がさらに縦への圧力をかける。7分の失点はオウンゴールだったが、その直前に一度、パトリッキの縦突破に吉田晃がスピード負けして突破される場面があっただけに、修正力が問われる失点だった。この日の右ウイングバックは宮原和也で、彼ならばスピードだけでなく対人守備スキルにおいてもそう簡単に破られる対応はしなかったはずだ。スピード負けは身体能力の問題なので、一度目の突破を見てカバーリングを微調整できなかったのは名古屋の守備陣の落ち度であり、完全に優位と見たパトリッキの2度目の単独突破に吉田晃を一人で対応させた時点で、相手の決定機創出は見えていたことだった。クロスに対し、必死に足を伸ばした藤井陽也のオウンゴールは“誘発”されたものではあったが、まさしく誘われた感は強い。急造チームの弱みをしっかり突かれて生まれた先制点は、相当の重みをもって名古屋の11人の肩にのしかかったに違いない。
支配できることをある程度理解し、首尾よく先制したC大阪は当然のごとく試合をコントロールしにかかったが、そこで名古屋は落ち着くことはできても反撃には至れなかった。前線1トップに入った貴田はプロのスピード感の中で持ち味を発揮するにはまだ遠く、シュートは打ったがきっちりDFのブロックに遭った。「股を狙ったんですけど、さすがにプロは甘くなかった」。際どい局面でそれだけできれば高校2年生としては上々だが、なにぶんこの場は公式戦、天皇杯である。結果は求められてしかるべきで、ボールタッチ数が増やせなかったのは反省点の一つである。アカデミーの先輩である豊田晃大もまた以前とは見違えるようにボールタッチ数を増やし、相手のミスから持ち込んでシュートにまで至ったが、こちらは枠を捉えられず。「運べるところまでは良かったんですが」と悔やんでも、決定機をものにできるかは先輩たちにも突き付けられる至上命題だ。中盤の阿部浩之やレオ シルバとの立ち位置の関係性を使ったボールレシーブの工夫などは効果を挙げていただけに、この試合を起点として次の成長へとつなげていってほしいところではある。ただし、前半の名古屋はこの豊田のシュート1本のみに終わり、得点以外にも二度は決定機をつくったC大阪に押し込まれた。守備に重きを置かざるを得ない、自然とそうなるとは試合前の指揮官の見通しだったが、当たってほしくはなかったが、的中したことにはなる。
興味深かったのは後半の戦いで、豊田に代えて柿谷、吉田晃に代えて森下龍矢を投入した名古屋は、同じく2選手を交代したC大阪に対し、今度は攻勢に出始める。最前線の貴田が「ハーフタイムに『良かったぞ』と言われたので」とすっかり緊張から解放され、狭いスぺースで受けるとターンしながらヒールという軽やかさを見せるなど本領を発揮しだすと、50分にまずは阿部のフリーキックを藤井が頭で合わせ、GKが弾いたところをレオが詰めてゴールイン。これは惜しくもオフサイドの判定だったが、これで全体的な勢いが生まれ、試合はオープンな打ち合い、身体のぶつけ合いへと発展。55分にはC大阪がパトリッキに、57分にも上門知樹に決定機が生まれ、その傾向はさらに強まった。チーム事情でセーブしなければいけない部分はしっかり抑えつつも、あくまで勝つために大阪に乗り込んできた長谷川健太監督は、59分にマテウスと中谷進之介を投入し、守備力を上げつつ前線にタレントを注ぎ込む采配でチームを鼓舞。マテウスの投入はC大阪の選手たちに強い警戒心を与えたようで、全体のインテンシティがぐっと上がったように感じられたものだ。昨季あたりからマテウスへの対応として距離を詰めるマーキングは目立ってきたところだったが、時に体当たりのようなディフェンスに背番号10は辟易としていたのも間違いない。一度など偶発的ではあったが顔に手が入り、そこから静かに“キレた”ようなプレーが出だしたのは本人には悪いがちょっと面白いものだった。
面白いとは、マテウスは感情を爆発させることではなく、サッカーで格の違いを見せつけるようなプレーで相手に“報復”を始めたのである。激しくマークに来る相手の股を抜いてパスを出し、また動いて受けて今度はドリブルで翻弄する。そして股抜き。そして69分には距離のあるFKを、いつもの無回転の蹴り方ではなく、少しアウトにかけて、それでいてとびきり速いストレートボールでゴールに突き刺してみせた。どうだ、参ったかと言わんばかりの堂々たる一撃に、マテウスの本気を見る気がしたのは筆者だけだったか。ちなみにその後のマテウスは相手のハードマークを平然とそのフィジカルコンタクトの強さで跳ね返し、ボールをキープしてこれはファウルだろ、と自陣ゴール前でセルフジャッジをして軽くピンチを招き、このモードの危うさも見せてしまっている。やはり冷静にプレーするのが一番で、マテウスは遊び心をもってプレーしている方がクオリティは高い。だが、今回のゴールにまつわる一連の流れは、エンターテインメントとして楽しませてくれるところがあったのは噓偽りない感想ではある。
かくして同点となり、次の1点を狙いながらも延長戦を視野に入れる難しい戦いが幕を開けた。74分には名古屋が阿部に代えて稲垣祥を入れ、全体のバランスを守備寄りにとったのに対し、C大阪は67分に加藤陸次樹、74分に毎熊晟矢を入れて攻撃寄りにチームをチューンしたのは実に対照的で、結果としては後者に軍配は傾くことにはなったが、77分のマテウスのFK、84分の森下のミドルシュートなどチャンスは生み出しており、名古屋が守りに入ったということはない。むしろ中盤での攻防は名古屋の方に分があったと言ってもよく、それだけに決勝点の取られ方にはもったいなさもにじむ。88分、相手のシンプルなビルドアップの流れから、右サイドバックの進藤亮佑のアーリークロス、いやサイドチェンジに近いフィードが名古屋の布陣上空を斜めに横切ると、逆サイドから侵入していた為田大貴にボレーで合わせられた。ダイナミック極まりない攻撃には「ちょっと疲弊してきた中でスライドができなかった。その一つの隙だった」(河面旺成)と、形としては対応の術もあったが、終盤の時間帯に正確なクロスと豪快なボレーを成功させた相手を褒めるべきところもある。誰がマークにつけていなかった、と指摘するのは簡単だが、名古屋もまた決勝点を奪おうと攻撃には人数をかけていたところではある。リスクは承知で、マネジメントも考えられていた。ミスはあったが、致し方ない。終了間際にはFKから藤井に決定機も舞い込んだ。決めていればというならば、他にも決定機はあった。
もちろん今年の天皇杯がこれで終わってしまった残念さはある。しかし、今季が終わったわけではなく、このメンバーで見せたサッカーにポジティブな面が見えたのも確かなことだ。ゲーム勘が戻ってきた河面のパスの刺し方、サイドチェンジの鋭さは今後有用性を増していくだろうし、ウイングバック、3バック、ボランチと3ポジションを渡り歩いた宮原のポリバレントとコンディションの良さも重要なオプションになる。仙頭啓矢のボランチ起用は攻撃面でレオ シルバを前に押し出すバランスを示し、ビルドアップから前線への綱渡しのパターンに違う道筋も生まれた。さすがのクオリティを見せた阿部がこれで湘南へ行ってしまうのは何とも惜しいが、新天地で活躍してくれるのならば、それはそれで嬉しい。阿部のすごいプレーは、誰もが見たいものだから。
集中力を研ぎ澄ます時だ。次戦へ中2日、怒涛のスケジュールの中ではメンタルを切り替え、身体への負担を最小限に抑え、回復とトレーニングで準備を推し進める。天皇杯は終わった。次はリーグ戦だ。強敵を迎え撃つ土曜日にはこの日とはまた違う意味でチームの“見た目”が変わっているかもしれない。それもすべては積み上げてきたチームの土台の上に飾られるものであり、その点では2022年の名古屋の土台を感じさせるような戦いであったと、C大阪との戦いは言えるのではないだろうか。