赤鯱新報

【柏vs名古屋】レビュー:まさかの公式戦3連敗。スコア以上の“惨敗”に、名古屋はらしさを見つめ直す時。

■天皇杯 JFA 第103回全日本サッカー選手権大会 準々決勝
8月30日(水)柏 2-0 名古屋(19:03KICK OFF/柏/6,156人)
得点者:69’戸嶋祥郎(柏)90+2’マテウスサヴィオ(柏)
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自分たちがなぜ勝ってきたのか、その理由を忘れてしまったかのような惨敗だった。0-2というスコアに“惨”という表現は普通であれば大げさだが、良い立ち上がりから徐々に後退し、失点からさらに疲弊し嘘のような追加点まで献上し、負けた。連戦の間のターンオーバーの影響はあったのかもしれないが、負け方としてはC大阪戦と似通っているから重症とも言える。あれだけバランスの取れた戦い方で、手堅く勝点3やトーナメントを先に進める勝利を得てきたチームがなぜか、このところは安定感を欠きすぎている。あえて強い言い方をすればそれは過信にも思える。時の運にさえ左右される勝負の世界では、様々な意味で型を破ってでもつかみ取らなければいけないこともあるのだ。理想を追うための道がはっきり見えてきたからこそ、彼らは袋小路に迷い込んでいる。

立ち上がりは最高だった。それもまた事実だ。リーグ前節からスタメン7人を入れ替えて臨んだ柏との一戦で、圧倒的と言うにふさわしい内容を序盤の名古屋は表現した。酒井宣福を頂点とする1トップ2シャドーは運動量も豊富でポジショニングも良く、柏の中盤とDFラインの隙間にある“穴”を巧みに使ってボールを受け、前進した。それは特に右サイドに傾向が強く、前田直輝がファジーな位置取りで受けてワイドの久保藤次郎や酒井、ボランチの山田陸らを使ったり、酒井が力強いポストプレーで同様の形もつくった。酒井の浮き球の処理、ボール保持の仕方には迷いがなく、フリックで後ろのスペースを狙えば前田か久保が走っているという連動感もあった。試合前のアップの最後にはフィード処理を何度も繰り返していたが、ひとつフェイントを入れ、さらに頭で処理すると見せかけて胸トラップなど、“予行演習”もそのまま試合に出ていた。前線がこれだけ有効にボールを引き出し、つなげていけば勢いも出る。

そこで仕留めていれば試合はまったく違ったものになったとは、まさに後の祭り、捕らぬ狸の皮算用でもある。5分は酒井のフリックから前田が抜け出し、得意のボール上で左足をくるりと回すフェイントからカットインシュート。10分にはこぼれ球を拾って同様のシュート。結果的には、チームの1本目、2本目のシュートが最大の決定機だったのだから厳しさは増す。それでも主導権を握っている間は守備の堅実さは保てており、それは稲垣祥がDFラインのフォローも手厚くプレーし、初スタメンの久保の背後をこの日は3バック右に入った野上結貴がやはり丁寧にフォローしていたからだった。正確に言えば順番はおそらく野上の久保のケアが先で、空いたところを稲垣が埋めていたというべきか。ただし、この動きによって名古屋の中盤にはぽっかりとスペースが空くことになり、イケイケの前線と堅実なDFラインの間は広くなりがちにもなった。本来であればここは山田がゲームコントロールを引き受けるべきところ、どうにもボールを受ける数は増えていかない。久々のスタメンだった重廣卓也は「あいつ自身の球離れと、あとは周りのハルとかマルくんからのボールの引き出し方」と注文をつけたが、お礼状にどこか遠慮がちに最初はプレーしていたように見えたのが気になった。

躍動感のある立ち上がりから、じわじわとリズムが失われていく名古屋に対し、柏の動きは明確だった。まずは面白いように入れられていたハーフスペースの縦パスコースをサイドハーフとボランチで閉じ、相手陣の真ん中に空いたスペースでボールを受けて相手を後退させる。こうした時に仙頭啓矢の動きは効果的で、巧みに間のポジションをとってボールを動かし、かつ無理をし過ぎずマイボールの時間を増やした。武藤雄樹と小屋松知哉のツートップは藤井陽也を中心とした3バックで無難に対応できていた反面、ボールを奪った後に通せていたパス、できたはずの前線の起点が生み出せなくなり、単調なパス回しは高嶺朋樹の恐るべきインテンシティの前に寸断された。戸嶋祥郎、岩下航の両サイドハーフのプレスバックとパス&ゴーは時間の経過とともに増え続け、それも名古屋の中盤とワイドの動きを停滞させた一因だ。丸山祐市は言った。「うまく消そうとはしてたけど、逆にいい形で見られて、前を向かれた」。相手のツートップは常に背後で駆け引きをしており、前で奪える藤井はこの日はカバーリングにリソースを大きく割かざるを得なかった。決定機はそれほど作られたわけではないが、戦況は27分の武藤のシュートを境に、柏へと傾いていったのは間違いない。

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