赤鯱新報

【名古屋vs浦和】レビュー:背番号10を最高の形で送り出し、天皇杯は次のステージへ。強敵を圧倒した内容にチームは新たな追い風も得た。

■天皇杯 JFA 第103回全日本サッカー選手権大会 ラウンド16
8月2日(水)名古屋 3-0 浦和(19:03KICK OFF/CS港/6,975人)
得点者:25’マテウスカストロ(名古屋)75’キャスパーユンカー(名古屋)84’和泉竜司(名古屋)
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正直に言えば、出来すぎの試合である。こんなに最高な試合が生まれることはそうはないと思う。ここ4年間の名古屋を背負ってくれた男のラストゲームに、“主役”が先制点を決めて、浦和という申し分のない強敵を相手に3-0という完勝のスコアで試合を締めくくることができた。試合後の喧騒はいささか残念なことではあったが、それがマテウスの旅立ちを何ら汚すことはなく、試合終了後のピッチも、ロッカーも、ミックスゾーンもすべてが背番号10を良い形で送り出すことができた満足感にあふれていた。掛け値なしに良い試合というのは、こういうことだと噛みしめる90分間だった。

マテウスが出場するとは思っていなかったが、いざ出てきてくれると嬉しいものである。ハーフタイムで交代かも、と思っていたら時間の上では90分間以上をプレーして、途中交代でスタジアムからのセレブレーションを受けることもできた。できるだけ長く、そして花道を作ることまでやってのけた長谷川健太監督の名演出も手伝って、試合は満足度も高まった。「ピッチに入った瞬間には本当に終わってほしくない試合だっていう思いがずっと、自分の心の中にあった」と話したマテウスは、彼の魅力を十二分に、余すことなくピッチで表現し、印象的で特徴的な彼ならではのプレーを置き土産として、そこに勝利も添えていったのだから役者である。チームもまた、マテウスに勝利を、マテウスに見せ場をと動いていたのは明らかで、チームに対する献身性という以上に、マテウスのエネルギーをすべて攻撃に注がせようという想いがこの日の永井謙佑や酒井宣福には感じられた。

抜群のパワーを感じた試合だった。酒井をワントップに置く3-4-3で臨んだ戦いは、浦和の後方からの組み立てにはオールコートマンツーではめに行き、セットディフェンスでは手堅く中央を締め込む対ポゼッション用の構え。右のウイングバックに入った野上結貴は相手の攻撃の起点である関根貴大や荻原拓也に対しかなり強い寄せを見せ、それは左の森下龍矢にしても同じだった。パス回しの中心である岩尾憲には常時永井やマテウスがプレッシャーをかけ、3列目から上がってくる伊藤敦樹やファジーな動きを見せる安居海渡についてもボランチと3バックが上手く連係してその動きにボールを合わさせない。ボランチの内田宅哉は「前半から守りの受け渡しっていうのをけっこうまくできていた」と振り返ったが、確かにこの日の名古屋の守備における隙の無さは特筆もので、時に最後まで追いきる、行かずに受け渡して別のスペースに警戒をする、といった連動感は素晴らしいものがあった。だからこそ逆に3バックは果敢にも縦パスを潰しに前に出ることができ、コンパクトさを保って攻撃に移行していくこともできた。

前半はそれでも浦和にボールを持たれることは多かったが、持たせている感覚も十分にあったに違いない。一度前からマンツーマンではめ込んでしまえば、相手がどれだけポジショニングを変えてもついていき、野上が逆サイド近くまでマークを追いかけていくことすらあった。一人ひとりの対人守備の責任感が強く、はめ込めなければしっかり自陣に堅いブロックを築く。そこに躍動するマテウスの突破力が加わり、押し込んでからポゼッションという名古屋の得意な形もいくつもできた。後ろからつなぎ始めて攻撃を構築していくのは今後の課題やテーマである一方、まずは敵陣に運んでからつなぎ始めるのも有効な策のひとつだ。普段はそれをユンカーや永井のランニングプレーでやや強引にでも生み出しているところがあるが、この日のマテウスは一人で数人を相手に前進してしまう力強さとトリッキーさがあった。この一戦に、というエクストラなパフォーマンスでもあっただろうが、浦和に対して個の質の部分で優位性を取れた結果が、名古屋の攻勢の源としては欠かせない要素だったのも間違いない。

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