赤鯱新報

【名古屋vs仙台】レビュー:接戦を支えた守護神の自信と仲間からの信頼。苦戦も勝利への執念を失わず、ラウンド16への道は切り拓かれた。

■天皇杯 JFA 第103回全日本サッカー選手権大会 3回戦
6月12日(水)名古屋1-1(PK5-4) 仙台(19:00KICK OFF/CS港)
得点者:99’マテウスカストロ(名古屋)105’菅原龍之助(仙台)
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苦戦は天皇杯にはつきものだが、例に漏れずに厳しい戦いが名古屋を待っていた。CSアセット港サッカー場には午後に豪雨が降りかかり、試合前に“水かき”をしてもなお多量の水を含んだピッチで戦うことに。それ自体は相手とイコールコンディションだが、普段着のサッカーができなくて苦しむのはたいてい格上のチームである。永井謙佑曰く、「10分ごとにピッチコンディションが変わるなんて、なかなかない経験だった」という環境はボールの動きを刻一刻と変え、それが試合の難易度を上げた。決め手を欠いたのは選手個々によるところでも、選手個々の能力をダウングレードする雨後のピッチには両チームとも手を焼いた。

名古屋はいわゆる“後出しジャンケン”で試合を見極めながら戦った。ユンカー、マテウス、森下龍矢をベンチに置き、いざという時の切り札はしっかり懐に残しておく。リーグ戦からの選手入れ替えは4名ほどで、野上結貴、酒井宣福、重廣卓也、そして山田陸にスタメンとしての出場機会が与えられた。布陣は3-4-3と3-5-2の中間と言ったところで、これは仙台の出方をうかがいつつ、そしてボールの扱い方によって可変させていくような挙動が見られた。それには重廣の言う「基本は背後抜けを今日は求められていた」という部分も関連するところで、シャドーの重廣が縦に抜け、ツートップの永井が入れ替わるようにしてギャップに入る。この連動が前線を1トップ2シャドーにも見せ、かつオーバーラップの多かった稲垣祥とも相まって2トップ2シャドーにも見せた。山田はアンカー的に振る舞うことも多く、それもまた布陣のカメレオン化に一役買ってもいた。

ただし、速攻を出すにもビルドアップをするにも、前半の名古屋がプレーした側の陣地は“水害”が多すぎた。水はけの関係か、仙台の陣地はそこまで水たまりも多くなく、ボールの挙動は普通の雨の日という印象。一方で名古屋陣内はボールが止まってしまうほどの水たまりが特にサイドに点在し、DFラインからの簡単なパスつなぎですら滞る状態だった。ならばシンプルに前線へ蹴り込むのは定跡のひとつでも、受け手の状態を整えるだけの時間を作ることが、単純なパス回しもままならないピッチではできなかった。断っておくがCSアセット港のピッチ自体が悪いというよりも、台風のような豪雨がナイトゲーム前の午後に降ってしまったという致し方のない条件である。受け手の動きに合わせられないビルドアップでは相手の高さも強さも出やすくなるというもの。前線で待つ重廣はその状態を「はっきり濡れて動かないんだったら、もっと全体ももっとコンパクトにできたんですけど」と言い、つなぐのか蹴るのかはっきりしない距離感の悪さが前半の動きの悪さにつながったという振り返りには同意もできる。

思い通りにボールが運べない名古屋と、よく統制された人の動きで間を割っていく仙台のぶつかり合いは、どちらにも得点が生まれなかったことで膠着の感も出た。仙台はサイドハーフの動きに合わせてサイドバックが外回り、内寄りのポジションを選び、右のオナイウ情滋、左の相良竜之介の個の突破力を前面に押し出すことで反撃の威力を出してきた。最前線の中山仁斗は競り合いに強く、ボランチの鎌田大夢は時折ライン間を貫くスルーパスで名古屋の守備陣に脅威を与えた。決定機自体は試合を通じて数度ほどのものだったが、ピッチコンディションをものともしないソリッドな攻守で結果としても名古屋を追い詰めた。特にオナイウの突破力は試合終盤に対峙する森下をもきりきり舞いさせ、大きなインパクトを残した。90分間のうちで唯一の決定機といえた32分のチャンスをものにされていたらと思うと名古屋としては背筋が凍る思いで、しかしそのチャンスメイクとなる鋭いサイドチェンジを見せたのが秋山陽介だったことは、ちょっと惜しいと思ってもしまった。

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