赤鯱新報

爽快な前半と苦戦の後半を経て、プレミアリーグの連敗を3で止める気迫の粘勝を演出。【U-18プレミアリーグWEST:フォトレポート】

■高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2023 WEST 第15節
2023年09月24日 16:00 KickOff/トヨタスポーツセンター第2グラウンド
名古屋グランパスU18 2-1 ジュビロ磐田U-18
得点者:13’大西利都(名古屋)15’野田愛斗(名古屋)52’山本将太(磐田)
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再開後3連敗と苦しい状況で帰ってきたホームでの一戦は磐田との対戦。試合前のサポーターへの挨拶も、一際気合が入っていた。

ひとつの試合の中で二つの顔を見せることはサッカーに限らずよくあることだが、ここまで対照的な45分間を過ごすこともなかなかない。クラブユース選手権でグループステージ3連敗、その後再開したプレミアリーグWESTでも3連敗と絶不調に陥っていた名古屋U-18だが、そこから抜け出す貴重な勝利を得た一方で、まだまだトンネルは抜け出しきれていない印象も試合の後にはやはり残った。勝ったことが何より重要で、素晴らしい先制と加点の流れで奪ったリードを守りきったことは素直に喜んでいいことでも、そればかりでは次の試合に油断も生まれる。ゲームキャプテンの大田湊真が言った「耐えた後半をポジティブに捉えることもできるんですけど、やっぱり後半はすごく悔しい45分になっちゃったかなと」という言葉は、ネガティブというよりはむしろ好意的なものに聞こえた。勝って反省は常勝の証のひとつである。浮上のきっかけをつかむためにも、ここで手綱は緩められない。

追いすがるDFより一つ早く左足を振ると、シュートは先制ゴールとなって突き刺さった。

前半は見事の一言だった。立ち上がりこそ五分五分の攻防が続いたが、10分を過ぎたあたりで押し込んで即時奪回の回転率が名古屋U-18に高まり、この日の前線を形成した大西利都、西森悠斗、石橋郁弥、八色真人の4枚によるプレッシングがかちりとはまった。磐田のDFラインはGK含めて右往左往するように雑なパスを出さざるを得ない状況が続き、何とか修正しようと声を掛けるも、その変化を上回る強度で名古屋の選手たちがボールに対して圧をかけ、ボールを奪っては攻め込んだ。コンパクトな布陣でボールを保持する名古屋は大田と長田涼平を最後のフィルターとして機能させることができ、サイドバックもボランチもかなりの高さでボールにアプローチ。奪ったボールと敵陣深く、エリア内の距離感も近いため、枚数をかけての仕掛けも容易に、そして分厚くボックスを攻略に出て行くことができていた。

野田愛斗はGKの動きをよく見て冷静に流し込む。電光石火の2得点で名古屋U-18は完全にのった。

その中で13分、内田康介のフィードに大西が抜け出しこれを仕留めて先制に成功。そのすぐ2分後には左に流れた大西と入れ替わるようにして野田愛斗がエリアに侵入し、瞬く間に2得点目をかすめとる。敵陣内かハーフライン付近でボールを回収できてしまう名古屋はさらに何度も決定機をつくってとどめの3点目に肉薄したが、磐田も意地のディフェンスを見せて前半は2得点で打ち止め。まさか後半にその情勢が逆転するとは誰も思わないほどの圧倒ぶりは、2点で十分すぎると思えるほどのインパクトがあったのは間違いない。

絶対優位の前半を折り返し、当然のごとく磐田も巻き返しに来る。後半はかなりの厳しい展開になった。

かくして後半は守ってばかりの45分間になった。磐田は前半にピッチ内で修正しきれなかったプレス回避の動きを整理し、ロングボールの割合を増やし、前線からのプレスを強めて試合をひっくり返しに来た。前半と同様に立ち上がりはそれもどっちに傾くこともなく、ピッチ上の力関係は行ったり来たりを繰り返したが、開始7分となる52分にピッチの幅を使った大きな攻撃の末に右サイドを破られ、失点。策がはまった磐田の攻勢に名古屋は受けることしかできなくなり、前半とまるで逆の、押し込まれて前に出られない攻防をひたすら耐える時間が始まった。前半の調子の良さに飛ばし過ぎたのか、前線の運動量もやや落ちたこともその一因と言えるが、この場合は飛ばしたことがいけないのではなく、素晴らしい流れの中で3点目を奪い、相手の心を折ることができなかったことの方が問題点としては大きい。決定機は決められるうちに決めておかなければ、相手に”耐えた、次だ”と自信をつけさせてしまうことにもつながっていく。

防戦一方、自陣でのプレーが続き、危ない場面も多かった中で何とか耐え抜いた終盤、クリアボールのあとを何とかしようという狙いか、森壮一朗がFWで起用されたのは驚いた。けっこう様になっていたことも。

粘りの45分は疲弊も倍に感じる苦しいものだった。シュートは打てどもゴールは遠く、逆に相手はバー直撃のシュートを連発し勢いを示す。ピサノアレクサンドレ幸冬堀尾のビッグセーブがなければバーに救われた以外でも決定機は多く、ピサノだけでも3失点は防いだ。交代策でやや持ち直した感も終盤には出たが、突発的なロングカウンターばかりでは磐田のDFラインも余裕をもって守れていた。それは何かと言えば自分たちが目の前にの相手にやったことであり、相手の変化を受け入れ、判断を下すことができなかったことに大田も目を伏せる。

しかし物事は表裏一体、組織力も個人能力も何でも使って勝てばそれはひとつの成功であり成果となる。苦しい展開を打開あるいは変えられないのであれば、リードを守ってあわよくば追加点を狙えばよく、実際にこの日の名古屋U-18はその仕事を完遂した。DFラインがしつこく身体を寄せ、クロスの多さも何とか跳ね返した。交代選手たちがそのバランスが崩れた試合の中でダメ押しをできればベストだったが、それは次節以降の課題となる。前半で2点、後半1失点はかなり冷や汗をかく試合だったが、守備の踏ん張りで何とかしのいで勝点3を手に入れた。何はともあれ、勝ったことですべてがポジティブに感じられるのは良いことで、公式戦6連敗という嫌な空気もこれで一変するのは間違いない。ピサノは「ターニングポイントを自ら作る」という前向きな姿勢を防戦一方の中でも失わなかったことが大切だったと言い、3年生としての自覚と責任を自らは持ってビッグセーブの燃料としたとも語った。

また、大田は一体感が不足していると感じていたと言い、一体感を出すために「チームのために犠牲心を持ってどれだけ走れるかだったり、球際でやれるかっていう部分」に意識を研ぎ澄まし、勝因のひとつに仕立て上げている。この勝利はターニングポイントとしていい、ともピサノは言ったが、それは次以降の結果につなげていってこそ。今はただ嫌な空気が払しょくできたこと、みんなで試合後に笑えたことを喜び、あとは綿密な準備を一から始める。久々の勝利の味は格別だったことは間違いなく、だからこそ次も、次もと欲は出る。難敵との対戦しかないプレミアリーグだが、それだけに上位にも何が起こるかわからない。名古屋U-18にできるのは、とにかくディテールを詰めて見事な45分を60分、80分と伸ばしていくことのみ。まだまだ彼らは食らいついていく力とポテンシャルを失ってはいない。

reported by 今井雄一朗

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