赤鯱新報

【クラブニュース】川崎戦における保健所への誤報告に対し、Jリーグから名古屋にけん責、罰金200万円の処分が決定。

8月30日に行われた第8回Jリーグ定例の理事会において、前回報道陣から質問が出たリーグ第22節の川崎戦中止における誤報告の問題についての調査結果と名古屋への処分が発表になった。まずはJリーグより公式にリリースされた名古屋の違反行為についての詳述が以下になる。

懲罰の対象となる名古屋グランパスの違反行為
(1) 名古屋グランパスは、2022年7月16日に開催予定であった川崎フロンターレとの試合に関し、同月14日、真実は管轄保健所から指導を受けたものではなく、名古屋グランパスの対応方針を是認されたものにすぎないのに、新型コロナウイルス感染者の多発により管轄保健所から同日から3日間の活動停止の指導を受けた旨をJリーグに報告し、チェアマンをして、2022明治安田生命J1・J2・J3リーグ戦試合実施要項(以下「実施要項」という。)第13条第3項第3号に照らし、エントリー資格を有する選手はいないものと誤信させ、実施要項第13条第4項に定めるエントリー下限人数を満たさないことが明らかであるとして、Jリーグ規約(以下「規約」という。)第62条第2項第2号に基づき同試合の中止を決定させた。
(2) 本件は、後述のとおり、後日の調査によりチェアマンに誤った決定をさせたものではなかったことが判明したとはいえ、誤った報告に基づいてJリーグの最も基本的な活動である公式試合の中止を決定させたものであるから、規約第1条のJリーグの目的達成を妨げる行為に該当するとともに、Jクラブの最も基本的な義務である公式試合の日程遵守義務(規約第56条)を安易に回避したのではないかとの疑念を内外に生ぜしめたものであり、Jリーグの信用を毀損する行為にも該当し、規約第3条第2項が定めるJリーグ関係者の遵守すべき義務に明らかに違反するものである。

このことにより名古屋はJリーグからけん責と罰金200万円が課された。今回の調査は試合中止の決定にかんしての影響はなく、リーグ中止決定における名古屋の報告が故意に為されたものなのか、あるいは真に誤った認識だったのかという部分についてのものだったとしている。Jリーグは弁護士も入れた第三者による名古屋グランパス、川崎フロンターレ、そして豊田市保健所への聞き取り調査を行ない(保健所についてはコロナ対応ひっ迫のため書面による調査)、客観的な情報を収集。その結果を取りまとめ、裁定委員会に諮問し、最終的にチェアマンが懲罰を決定したというのが今回の流れ。
懲罰量定については長くなるのでリーグからのリリースをご参照いただきたいが、Jリーグからは補足して以下のようなことも発表されている。

「故意であったかというところにかんしては重要なポイントであって、重点的に調査をしてきました。調査を通じて故意とは認められなかったという結論に達しました。故意かどうかの確認については、どのような経緯でJリーグへ報告されたかというところを確認したところ、チーム側からチーム内で増大する陽性者の発生に対し、チーム活動を停止した方がいいか、という確認をしたことが確認されました。話をした方はチームの誰かに指示をされて、活動の停止を促したかどうかを関係者による聞き取りによって確認をしましたが、そうした形跡は見られませんでした。その他、保健所とのやり取りにかんして、組織として名古屋グランパスがチームに活動についての指導を求める指示を行なった形跡を確認したところ、それらの行為は認められませんでした。調査は川崎フロンターレや保健所に対する聞き取りの結果にかんしても相違はありませんでした。また、当時の陽性者数の人数に照らし、チーム側からチーム活動の停止を保健所に確認するにあたり、シビアな状況であったかというと、過去、他クラブにあった保健所によって指導された例からも、規約に定める選手の健康管理義務などの観点から、チーム内の感染拡大を防ぐためにチームが取りうるであろう行動から大きく外れることはないと判断をしました。これらのことを踏まえ、故意に行なったとは認められない、という結論に達しました。
補足の二つ目ですが、違反について。故意ではなかったから何もないのか、ということではないと判断しました。試合の開催可否に影響する決定的な情報を結果的に誤って申告し、それを最終報告としたこと自体が、たとえ故意ではなかったとしても、また今回はたまたま中止の判断が覆らなかったものの、正しい情報を伝えることを組織として誤った結果、もたらされた違反だと捉えています。具体的には名古屋グランパスが申告後、リーグの担当者や会議等の場で複数回にわたって『本当に保健所の指導で間違いないか』という問いに対し、クラブの中で再確認することも保健所に確認することもなされていませんでした。こうした状況で後になって『指導はなかった』と訂正をすれば、故意に試合を回避したという疑念がわいてしまうことは当然であり、正しく申告することで客観性と迅速な決定をしながら成り立ってきたこれまでのコロナ禍での試合開催に影響が生じ、Jリーグの信頼にかかわると判断しました。よって記載の通り、規約第3条第2項のJリーグ関係者の遵守すべき義務の違反とし、けん責と罰金200万円の懲罰となっています」

これを受けて野々村芳和チェアマンは「故意ではなかったにせよ、クラブとしての活動を怠った上で、試合開催の可否が軽んじられたということ自体が大問題」と厳しい言葉で指摘し、一方で処分の重さについては「現状の事実認定の中で法的な現場から課すことのできる最大の事実決定」とし、ある程度の妥当性を示した。試合中止の決定自体が覆ることがなく、また故意性も認められなかったことで懲罰は有無そのものについても議論される幅のある裁定になったというが、いずれにせよ名古屋は「Jリーグ関係者の遵守すべき義務」について反省する必要がある。それほどまでに大きな決定を、誤認が元になってしてしまったということに、やはり責任は大きいと見るべきだ。

これを受けて名古屋グランパスの小西工己社長は「Jリーグの裁定につきまして」というリリースを発表。「このたびは、川崎フロンターレに関係する皆さま、グランパスファミリーの皆さま、Jリーグに関係する皆さま、そのほか関係各所の多くの皆さまに多大なご迷惑をおかけしましたことを、あらためて心よりお詫び申し上げます。今回の事案におきましては、安易に日程遵守義務を回避したとの疑念を他のJクラブの皆さまやサポーターの皆さまなどに抱かれかねず、Jリーグの信用を大きく毀損するものであったことを真摯に受け止め、クラブとして二度とこのようなことが起こらないよう再発防止に努めてまいります」と謝罪。再発防止に向けては「緊急・重要な事案が発生した際に、対応チームの組成・対応プロセスの検討・社内外の情報集約・進捗管理などを組織的に対応できる体制を再構築する」とし、システムの整備を急ぐ。記者会見では7月時点では声出し応援ができなかったが再試合では可能という点に不公平性はないかとの質問も出たが、これについてはチェアマンも「その時の条件ということは気持ち的には十分わかる」としつつ、何かの指示となるような発言は避けた。名古屋側の判断はどの場合においても尊重されるもので、今後の決定には注目しておきたいといったところ。
しっかりとした調査の元に故意ではない、という部分が証明されたことはひとつ胸をなでおろすことができる部分で、今後の名古屋はチーム運営、試合運営になお一層の気合も入ろうというもの。罰金は安くはなく、けん責という事実も重く受け止めるべきもので、一連の問題に区切りがついたことを良い薬として、真摯に次の試合、次の戦いへと向かっていってほしい。

以下は理事会後記者会見における野々村チェアマン、およびJリーグからの質疑応答骨子。
○野々村芳和チェアマン
「名古屋の件ですが、実際に裁定委員会の中では、結果として中止の判断は変わらなかったので、難しかったのは事実です。逆にやはり感情があるものだし、相手側からすると疑念を抱くということを踏まえて、いろいろな意見が出ました。僕としては故意ではなかったにせよ、クラブとしての活動を怠った上で、試合開催の可否が軽んじられたということ自体が大問題であると思っています。いろいろな専門家のなかでもいろいろな意見がある中で、この罰金という形を取りたいということになりました」

Q:名古屋の裁定についてですが、裁定委員会の中ではこれより重い懲罰をという意見もあったのでしょうか。
「はい、先ほども少し触れましたが、そういう意見があったことは事実です。あとは懲罰規定と事実からここまでは問えない、という意見もありました。かなり幅はあったと思います」

Q:明らかな名古屋の瑕疵があったということになると思いますが、みなしで川崎の勝利とすべきという意見については。
「現場でその議論があったかというと、あれですが、裁定委員会の中ではそこまでの話はあったかといえば。これが故意となった時のペナルティは計り知れないということで、その場合の結果はもしかしたら変わるという。現状の背景として間違った報告をしました、ただし13名はいませんでした、という確認はできていたので。今おっしゃられるようなことを決定にするにはというところです」

Q:保健所からの指導による活動停止の判断についてのやりとりはどうだったのでしょうか。
(広報)「保健所としては事業活動の停止、試合の停止。試合を中止しなさい、ということではないと明確にクラブに伝えていました。試合を中止しなさい、ということは一切伝えていないということでした。名古屋グランパス自体が練習をする、しない、活動を停止する、しない、ということにかんしては、名古屋側から感染が拡大している中で、例えばサーキュラーを増やしなさいなどといくつかの指導を保健所から言われている中で、3日間ほど停止するということは、感染拡大防止なるのではないかという、チーム側から保健所に対する話がありました。それに対して是認されたということを確認していますので、これをJリーグに伝えたということで、これが『活動停止の指導』と名古屋グランパスが感じたということになります」

Q:試合の中止すべきだと保健所から明確に言われたわけでないことを、名古屋はしっかり理解していたのでしょうか。
(広報)「はい、そこは理解しています」

Q:その上でリーグから複数の確認があったにもかかわらず?
(広報)「試合の中止を判断したのはチェアマンだということは理解していたのだと思います」

Q:罰金規則の運用について、これならいくら、という具体的なものがあればサポーターなども違和感なく罰金の裁定も受け入れられるのかなと思いますが、運用上の難しさをどう感じていますか。
「これは司法の専門家が入って裁定委員会をやるので、リーガル的な観点から入ると、例えばある一定の事実だけでは難しいので、となりがちです。委員会は今までそういった司法の方々を中心にやっていたのですが、今の裁定委員会はフットボールのマインドも含めて現場の感覚をもってその委員会に入ってもらっている方もいるので。おっしゃる通りサポーターの感情とかも、議論のテーブルに載せて話をできるようにはなっているんですね。ただ、懲罰となると何らかの根拠と事実があって裁定を下すということになるので、もしかすると今までだったら今回のものなら法的には問えないよね、というような話に落ち着いちゃうかもしれないところを、いろいろな背景もわかってもらえる人を入れることで、ある程度バランスの取れた裁定ができるようになっているのではないかとは個人的に思っています。ただもっとわかりやすくするために、懲罰規定を少し変えていくとか、ということは当然ながらあっていいと感じています。いずれにせよ今までこうやって来たからこれでいいよね、とは僕自身思っていないので、今の質問をご提案と受け取って前向きに変えられるものは変えたいなと思います」

Q:法的な専門家の方々との意見の違いがあるということは、逆にフットボール的な部分での上乗せも懲罰に加えられる恐れもあるのでは。

「サッカーの人が入ると上乗せされるという可能性を危惧されているが、逆もあると思うんです。結果的にはしっかりとしたルールに則った懲罰をと考えていく中で、こう考える人もいる、という部分を裁定委員会に持ち込んで今やれているのは、むしろそのバランスはうまく取れているのではと思っています」

Q:13人に満たないという連絡は、保健所の指導の前でしょうか。後でしょうか。
(広報)「後になります」

Q:試合開催の可否が軽んじられたということでしたが、それで罰金200万円というのは少ないのではという見方もあるかと思いますが。
「先ほど申した通りですけど、僕の個人的な思いというのは置いといて、もっと重たくなってもおかしくないということも、裁定委員の方々から出たのは間違いないです。とはいえ、故意であることが認めたられない、結果的には12人だったということなど、場合によっては懲罰を課すこと自体が難しい可能性もある、というそれぐらい幅のあるマターの議論だったわけです。その中でもまわりの人たちに与える感情的なもの、それからリーグのこと、試合開催可否が軽んじられたというところ、こういったことも含めて、現状の事実認定の中で法的な現場から課すことのできる最大の事実決定だということを理解していただきたいと思います」

Q:9月14日の代替開催についてですが、声出し応援については開催クラブが希望すればできるという状況にあります。7月の当初はこの試合は対象ではなかったわけですが、これは名古屋が希望すれば声出しで開催できるのでしょうか。
(広報)「これについてはクラブが希望すれば声出しは可能な試合となります」

Q:今の質問につながるのですが、川崎側からすれば再試合で条件が変わるのは不公平感を感じてもおかしくないと思いますが。
「川崎の対応については担当した者に後でということで、僕の感想というか想いですが、今は広報は声出し応援のルールが変わっているからそれでと言いましたが、ただその時の条件ということは気持ち的には十分わかるかなとは思います。ただ、とはいえ、それを…今回の件とは違うかもしれませんが、今シーズンはいろいろ出てきているわけですよね。数十試合が中止、延期になっている中で、想いの中には、アカデミーの選手を使ってでもやろうよということが、3年前の話ではあった。そうしてくれればできたのに、と思っているクラブまたはファン、サポーターは絶対に多いと思うんですね。そういう想いも含めてゲームの決定や再試合の決定は考えていかなければいけないぐらいの、ある種の混乱が起こっているのは事実ですので。それをどこまで考慮できるかみたいなことは、当然ながら決めるところにはクラブとリーグとでやるので、そんな話を受けながらやれればいい。ただこれは明確な判断は答えはないだろうと思っています」
(担当者)「フロンターレさんに説明をした時には、フロンターレサイドからは今の質問と同様のことはいただいています。リーグとしてはタイミングの問題もありますが、8月15日以降は希望するクラブはできるということで、そのルールに当てはめて考えていますので、開催は可能ですということでお伝えしました。その受け止めにかんしては何かをおっしゃったわけではありません」

reported by 今井雄一朗

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