「川崎フットボールアディクト」

鬼木達監督の会見を受けて、考えたいこと【#オフログ】

■筋の通った憤り

鬼木達監督が見せる憤りには筋が通っていた。試合を止めない。そしてJリーグをより良くしていきたい。その思いが憤りの根底にあった。

きっかけは、名古屋の虚偽申告。

手続き上のミスだとは言われているが、保健所からの指導を受けたと偽って申告した時点で十分疑わしい。だからか鬼木監督は、下された懲罰の内容が明らかになった際、選手に対し「到底納得のいくものではない」と伝えていたのだという。憤りの対象は名古屋の意思決定者だ。

前提として鬼木監督は「名古屋の、選手とかスタッフとかサポーターとか、そういう人たちが別に悪いわけではない」と言い切っている。その一方で、「やっぱり中で起きていること。クラブのところで起きていることだと思う」と指摘し「クラブの姿勢とか、そういうものにやっぱり疑問を持つところもありますけれども」と話していた。

本当に13人用意できなかったのかは結局のところわからない。コロナ陽性者に加え、ケガ人も出ていたとも言われているが、それらが虚偽であることの証拠が無い以上、裁定委員会からの懲罰には限界がある。

■より良いものにしたいという思い

今回の件について説明する鬼木監督が、憤りの軸のひとつに据えていたのが、Jリーグを、より良いものにしていきたいという思いだった。

「Jリーグに所属している身として、ずっと選手に、リーグを引っ張っていこうと。やっぱりいいリーグを、もちろん優勝とか、そういうものもそうですけども。魅力あるもの、そういうものをしっかりと見せようという中でやってきている」

そうやって尊重してきたJリーグの公式戦が、手続き上のミスとされる疑惑で止められたということに憤りの根源がある。だから今回の件については「戦いたくないとかではない」とも述べている。3-0の不戦勝にしてほしくて言っているわけではないのだ。

そもそもコロナに関しては、鬼木監督の元に「いろいろなサッカー関係者の人から、これでいいの?っていう話はすごく来て」いたという。しかし「当事者にならないと、声を上げられない」という実情がある。また「そういう人たちの声っていうのは、じゃあどこに届けるんだって言ったら、たぶん届け方もないと思うんですよね」とも述べている。

今回、鬼木監督は指揮官としてコロナによる試合日程変更の影響を受けた当事者となった。だから、口に出して思いをぶつけた。

「本来はどうするべきかっていうのは迷うところがありましたけども。でも、あくまでJリーグに所属する身で、Jリーグをよくしようとしている立場なので。やっぱり自分の立場は、声を上げるべき時は上げる必要があるのかなというふうには思っています」

Jリーグをより良いものにするためにも、間違ったものを正す仕組みの整備は取り組んでほしい部分だ。

■サポーター

Jリーグをより良くすることの目的のひとつが、サポーターの満足度の向上であるならば、この名古屋戦に関しては、そうならないのは確実だ。試合が中止になったことで、名古屋に旅行しただけのサポーターは少なくない。また代替開催された結果、平日の夜19時半のキックオフになったことで、川崎から現地観戦するにはハードルが高くなってしまった。声出し応援対象試合になってしまったのも現地に行けないフロンターレサポーターの不利益のひとつと鬼木監督は認識している。

「自分たちのサポーターも、7時半というのは、やっぱりなかなか行きづらい環境になったりとか。今まで、その前では声出し応援じゃなかったのがそういうふうになったりとか」

ちなみに鬼木監督は、声出し応援があたりまえに行われる試合環境への回帰を望んでいるということは明記しておく。

かなりの時間を使い、今回の名古屋の件について話してくれた鬼木監督だが、そうすることがいいかどうかはわからないとも述べていた。

「今、自分がこうやって話していることが正しいのかどうかも、チームにとってプラスになるのかどうかというのも、正直思うところはあります」

ただし鬼木監督が一言物申せる立場にあるのは間違いなく、間違ったことを言っているとも思えない。この件についての鬼木監督の姿勢については、全面的に賛同する立場だということは書き記しておきたい。

なお、鬼木監督は、今回の疑惑と試合とは別問題で、試合に向けて集中したいと話していた。

すなわち、色々な感情はあるにせよ、それらを「しっかりと押し殺してというか、ゲームに集中する方が大事なのかなと思ってます」ということ。怒りに任せ、絶対に負けられないのだと試合に臨むのは違うということ。よりよいサッカーを見せ、リーグの価値を高めたい。その思いについて、鬼木監督に迷いない。

■私見

今回名古屋は没収試合も取り沙汰されていた。保健所とのやり取りに虚偽申告があったためだが、実際にそれができなかったのは選手を13人用意できなかったとの申告が虚偽なのかどうかを示す証拠がないからだ。

本件、例えば鬼木監督は、ベンチにGK3選手を入れてもなお16選手しか登録できなかった23節の浦和戦を引き合いに「当日もまた陽性者が出たりとかして。非常に難しい状況の中で、ただ、人数的にはギリギリいたりとかで、そこホントに、変なやり方をすれば、もしかしたら飛ばすことなんてのも出来たのかもしれない」と述べて、やりようはあると述べている。ただし、「やっぱり自分の中では、それをやったらもう没収試合だなとは思っていたので。そういうことはできない」と試合に臨んだのだとしている。没収試合に言及しているが、それと同時に、正義感や倫理観などが複合的に働いた結果だったはず。

いずれにしても、フロンターレはそうしなかったが、クラブ側がどうにかして試合を飛ばすことは不可能ではないのだ。そしてそれを検証する術をJリーグは持たない。

であれば、コロナによる中止を申請する側のクラブが13人集められないことを証明させるのが筋なのではないかと思う。具体的には試合に出られない程度のケガをしているとの診断書を用意させるということ。Jリーグはクラブとのやりとりを性善説で行っているが、それが機能していないのではないかとの疑念が生じた時に、信頼関係はこわれてしまう。そしてすでに名古屋の件でそうした状況が生まれてしまった。

コロナに関連して、実際に没収試合になった浦和との違いは、証拠のありなしで、そうであれば証拠を提出させるのが一番だろうと考える。もちろんそれでもなお、虚偽申告させられる可能性はあるが、だからといって現状のままでいいとも思えない。そのあたりはリーグには考えてもらいたい部分だ。

いつまでもコロナに引きずられてばかりはいられないということと合わせ、リーグをより良いものにする方法を考えていきたい。

(取材・文・写真/江藤高志)

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