赤鯱新報

【名古屋vs仙台】プレビュー:油断を排除し全力で挑む一発勝負。チームとしての表現に、彼らの本質を見たい。

■天皇杯 JFA 第103回全日本サッカー選手権大会 3回戦
6月12日(水)名古屋vs仙台(19:00KICK OFF/CS港)
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“試す”の意味合いが、これまでとは少し変わるのかもしれない。若手の積極起用が叶ったルヴァンカップとも、明らかな格下を相手にミックスメンバーの起用が是とできた天皇杯2回戦ともまた違い、日曜日のリーグ京都戦へ向けたトライアルのような観点も仙台との一戦には含まれる気がしている。「サマーブレイクに入るので、そこはもう頑張ってもらおうと思っている」。長谷川健太監督は全力を強調したが、そのベクトルをどこに向けるかはやはり普段のリーグ戦とは変わってくるはずだ。

まず、極端なターンオーバーはないとしても、起用できる選手とそうでない選手が当然いる。横浜FM戦で負傷交代した米本拓司の状態は不透明で、試合翌日にはリカバリーにすら出てこず治療に専念した。ここは無理をさせるタイミングではなく、そうなれば内田宅哉の出番がすぐには想像されるが、「頑張ってもらう」にしてもここで大きな負荷もかけたくはないのが本音だろう。同じく京都戦が出場停止の永井謙佑は逆にここは使い時であり、ユンカーを温存すると考えればマテウスとのツートップも考えられる。「そう簡単に勝たせてはくれない」とするJリーグ勢との戦いは油断大敵、ミスから受ける傷の大きさは2回戦の比ではない。そういったことを踏まえれば、この試合はターンオーバーをプランニングされた交代によって生み出していくような戦いになることが予想される。

そう考えると交代を予定したいポジションはおのずと絞られてくる。DFラインは基本は90分を想定したいところで、3バックの一角は河面旺成から野上結貴にスイッチされる可能性はあるが、フル出場が基本。これまでの傾向からすれば稲垣祥の負荷はコントロールされるので、ここに山田陸らを準備する。ウイングバックは和泉竜司と森下龍矢を使ったとして、どちらかは途中で石田凌太郎を使うことで疲労を調節し、永井は酒井宣福か貴田遼河、インサイドハーフの2枚を内田、長澤和輝、重廣卓也で回していく。これで交代は4枚。あとは状況に応じて起用を考えればいい。豊田晃大や吉田温紀、ターレス、レオナルドらトレーニングでアピールを続ける選手たちもみたい気はするが、一発勝負のレギュレーションはここからさらにシビアになっていく。苦戦は疲労も倍増させる。

つまりは前半は京都戦をある程度見据えたメンバー構成で戦い方を確かめる。一つ下のカテゴリーの相手を見くびるのではなく、しっかり闘って自分たちの力を示し、確認する。その45分である程度試合を決めてしまえれば御の字だが、三重との戦いを考えるにセーフティリードなるものは天皇杯には特に存在しないと思っておいた方が良い。長谷川監督が策士と称した仙台の伊藤彰監督の作戦や戦略に対抗するためにもスタートの11人は対応力に長けたメンバーを揃えておきたいところで、そこで力の差を見せつけ、後半の交代策へと良いジョイントを用意する。交代出場のメンバーには三重に喫した2失点をしっかり復習してもらい、緩みのない試合運びを心がけてもらう。交代を重ねながら質も強度も落とさないことは昨季からも継続して指揮官がチームに求めてきたことであり、欲を言えば交代出場には試合の流れを変えるほどのインパクトが理想だ。それができればたとえスコアが動かないまま後半に入っていたとしても、試合結果をつかむ力は生まれる。

個人的には山田のプレーに期待をしている。ルヴァンカップの広島戦で大立ち回りを見せ、リーグ東京戦では納得のいかないパフォーマンスに終始した。その後の体調不良も本人からすれば不本意だったはずで、それもあってか練習での彼の表情は今まで以上に明るく、楽しそうに見える。横浜FM戦で使われなかった理由には様々考えられるところだが、メンバー入りをしている以上は彼を使うシチュエーションが想定されていたということでもある。山田が出せるのはビルドアップやゲームメイク、ラストパスであることは周知の事実で、不足しているのが攻守における強度であることは判明しているのだから、彼はここで見せる必要があるのは自明の理。ユース時代からの恩師である仙台の伊藤監督の前でのプレーに気合が入るというならば、それも期待値のひとつになる。

チームはとにかく強度を、とりわけ継ぎ目のない、油断を排した強度の表現に力を入れる。長谷川監督はリスク管理について横浜FM戦での一例を挙げ、「前線の選手がオンサイドにしっかりと戻れるかどうかというところも非常に大事」と語ったが、これはまさに試合翌日のリカバリー組以外のメンバーにも徹底してリマインドされていたことだった。3対2のシュート練習はまずはクロスからのシュートを狙い、次にコーチから出されるパスを受けてもう1回攻める形で行われたが、そのセカンドチャンスでしっかり攻撃側がDFラインの“オンサイド”に戻って追加攻撃を仕掛けることは口酸っぱく言われていた。試合に出るメンバーだけでなく、チームの共通理解として、名古屋の動きとして問われるディテールを含んだインテンシティは、それだけでどんな相手に対してもアドバンテージとなり得る強固な軸の部分である。

一方で「地の利を生かして戦いたい」とも長谷川監督は言った。これは間違いなく暑さのことを指していると思う。仙台も日本全国どこも暑いが、ここ数日熱中症アラートが出ている名古屋の方が暑いに決まっている。海沿いのスタジアムは湿度も高いことが予想され、もちろん名古屋の選手とてそれが平気というわけではないだろうが、それを知っていること、体感的な慣れはそれでも大きな差にはなる。その点においては仙台がポゼッションを強調してきたとして、どこまで追い回すのか、持たせて反撃を狙うのかなど判断の部分も問われるが、最初から引くことを考える集団では名古屋はもはやない。激しく、厳しく相手に対峙し、飲み込んでいくような戦いこそが彼らの信条として確立されつつある今、「横浜FM戦で得たものをしっかり引き継ぐ2試合」としての内容面、そして確実な結果を目指すのが、この戦いの肝である。

彼らはサッカーの最小単位である球際で闘い、その積み重ねを勝利へと構築していく集団だ。その表現に、そして誇示に期待を寄せて試合を観たい。

reported by 今井雄一朗

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