赤鯱新報

【名古屋vsV三重】プレビュー:とにもかくにも結果が重視される天皇杯初戦。チームとしてのチャレンジは、あくまで勝利から逆算される。

■天皇杯 JFA 第103回全日本サッカー選手権大会 2回戦
6月8日(水)名古屋vsV三重(19:00KICK OFF/パロマ瑞穂ラ)
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シーズン3大会目の開幕を前に、我々は少し感覚を元に戻す必要があるのかもしれない。天皇杯の初戦となる2回戦の相手はJFL所属のヴィアティン三重。“J4”相当のチームに対しては、どうしても選手を大きく入れ替えての試合構成を想像してしまいがちになる。ましてや今季はルヴァンカップでフルターンオーバーまで目の当たりにしたばかりでもあり、瑞穂ラグビー場のピッチに立つメンバーに同じような期待感も抱く。だが、長谷川健太監督は冷静に、そしてきっぱりと言い切った。「試すことはない。勝てばACLにつながる大会で、勝負にこだわる」。日程への不安も少ないこの一戦は、現実的な意味での底上げが主眼に置かれることにはなりそうだ。

つまり、参考にすべきはルヴァンカップの第5戦ではなく、第3戦までのマネジメントということになる。まして相手は1回戦でJ3の鳥取を破ってこのステージに来たチームである。油断大敵どころか苦戦も予想しなければいけない戦いで、こうしたカードにおいては一番の安全策である先手必勝をまずは狙っていくことになる。実力差はあるが、90分いっぱいで勝とうと思うと足はすくわれやすく、土曜日のC大阪戦のごとく、前半である程度勝負をつけてしまうぐらいの戦い方がやはりベターだ。先に失点することのリスクはJ1リーグの戦いよりも危険度が高く、逆に相手が狙ってくるのはその展開というのも想定できる話。昨年の同志社大のような学生相手ならば玉砕覚悟の真っ向勝負も挑んでこようが、ジャイアントキリングを目論むJFLチームはもっと堅く闘うはず。

それらを踏まえて天皇杯初戦を見渡せば、軸となるポジションにはスタメンを残して戦うことは濃厚と言える。GKはランゲラックか武田洋平の二択で、これはどちらが出ても遜色なし。DFラインは最近の出場機会を考えれば、野上結貴を軸に藤井陽也まで入れるかどうかというところ。河面旺成の調子も良く、行徳瑛にチャンスを与える判断まで行くかどうかはひとつの注目点だ。吉田温紀をどこで使うかも含め、守備のポジションでは主力2+1なのか、1+2なのか。もちろん中谷進之介、野上、藤井という組み合わせも十分に考えられるところで、ここのチョイスには三重の攻撃陣への警戒心がダイレクトに表現されることになるだろう。

中盤は体調不良から復帰した長澤和輝を軸に、稲垣祥と米本拓司の45分間入れ替えが試合の安定感を出すための方策として適当か。ここに内田宅哉や山田陸、吉田らが絡み、2列目には豊田晃大が選択肢に入れるかどうか。ウイングバックも試合での負荷を考えれば少なくとも時間を制限して起用したいポジションで、森下龍矢はルヴァンカップ同様にベンチの切り札として待機させるのが面白い。その隙を突くように石田凌太郎や甲田英將らが結果を残すことができれば、チームの運用はより頼もしさを増していく。「途中出場で点が取れていない」という指揮官の悩みは「始めから後出し」という一つの答えが出ているが、この試合ではそういった保険を利かせつつ、数人を入れ替えたスタメンの活躍によって“後出し”に使える選手の数を増やしたい。

そして最も活躍を期待されているであろう前線は、酒井宣福やレオナルド、貴田遼河らの得点にのみ注目が集まる。永井謙佑、ユンカー、マテウスらの中ではマテウスに最も起用の可能性は高いが、コンディショニング優先のほか2人については試合に対する保険という意味においてもメンバー入りする必要性はあまり高くない。それよりは3トップ以外のFWにリーグ戦で得点がない状況を鑑みても、実戦でしっかり得点を取ってチームを勝たせる成功体験をつかんでほしい気持ちの方が強いのではないか。このゲームが好機であるという意識は練習の中からも感じられ、特にレオナルドの気迫は非常に強く伝わってきた。スタメン、ベンチ入りの状況は当日になってみてのお楽しみにはなるが、FWとワイドに切り札となる選手を監督が欲しているのはこれまでの発言からも明らかであり、そもそもが結果で評価されるポジションの男たちの執念を感じられればと思う。

先手必勝を決めるためには文字通り、試合の立ち上がりを良くすることが不可欠だ。それはリーグ戦をたたかう主力たちにも共通する課題であり、C大阪戦のような入りの悪さを見せてしまえば、アップセットの確率をむやみに上げてしまうことにもつながっていく。三重のスカウティングも練習を見る限りは進んでいるようだが、相手はいろいろなフォーメーションを使い分け、試合展開によって姿を変える厄介さも併せ持つ。これもまたC大阪戦の反省点だが、想定と違う相手に戸惑いを感じていては、修正できるまでには大きな隙を晒すということ。そうならないための臨機応変さ、状況をつかんで発信し直し、迅速に立て直す調整力もこうした試合においてはいつも以上に求められる。それは個人の能力で何とかできてしまう場合や、相手の精度によって事なきを得ることもままあるが、状況のクリアの仕方としてはより高いレベル、スマートなやり方で行なっておきたいところだ。

繰り返すが、重要なのは勝つことで、最初から最後まで一発勝負の積み重ねである天皇杯には乱暴に言えば内容は必要ないとも言える。チームの積み重ねとしてそこを求めたり、誰が出てもクオリティを出すという部分を考えれば必要ないとは言えないかもしれない。ただ、場合によっては取り返しもつくリーグ戦やホーム&アウェー方式のトーナメントに比べれば、天皇杯のシビアさは改めて強く映りもする。勝てば続き、負ければ終わる。名古屋にとっては一つの大会がここから始まるわけだが、いきなり終わる可能性は決して低くはない。その怖さに対して、できる限りの全力を尽くすというのはやはり当然のことだ。控えや若手の出番を期待したくとも、ACLへの挑戦権を含んだタイトルへの歩みを、軽んじるようなこともできない。

しっかりと戦うことである。アバウトな言い方に聞こえるが、それでリーグの上位を争う地力を積み重ねてきたのが今季の名古屋というチームだ。球際に強く、縦に速く、試合を攻撃でも守備でもコントロールしようと積極的にボールに関わる。それが正しく表現されれば、いわゆる“格下”と呼ばれる対戦相手は圧倒できて然るべきであり、多少の選手の入れ替えがあってもやれるはずなのが強いチームである。厚みと強み、そこにできるだけ多くの“可能性”を含みつつ、大会を次のステージへと進める。その理想が叶えば満点だが、勝つだけでも十分なのが、この試合の要点である。

reported by 今井雄一朗

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