「川崎フットボールアディクト」

4得点の成果と苦しんだ内容。そして、手にした決勝のチケット/天皇杯準決勝 vs福岡【レポート】

天皇杯準決勝
10月8日(日)(15:30KICKOFF/等々力/18,547人)
川崎 4 – 2 福岡

■反省必至の勝利

勝って兜の緒を締めなければならない試合だった。喜べるのは結果のみで、内容は精査が必要だった。その一つが前半の試合展開。試合後の公式記録から見えてくるものがある。

問題なのはそのシュート数。1-1で折り返した天皇杯準決勝前半のフロンターレが打てたのは、わずか2本に留まった。山村和也の1本と、レアンドロ・ダミアンの1本だった。

攻撃的なサッカーを標榜するフロンターレに対し、福岡は堅守を特徴としている。それはたとえば鬼木達監督が試合前に福岡の印象を聞かれ口にした言葉からも明らか。

「(福岡は)やっぱり変わらず堅い守備と、あとはアグレッシブな前からのプレスもありますし」

それぞれのチームがそれぞれの武器を手に真っ向勝負した結果、フロンターレはセットプレーからの2本しかシュートを打てなかったということになる。やりたいサッカーの内容を考えれば、前半は圧倒的に福岡のペースだったと脱帽するするしかない。また、前半は福岡にペースを握られていた時間帯もあっただけに、開始5分の山村の先制点の意味は大きかった。

その山村の頭での一発をアシスト脇坂泰斗は、自らの手柄を強調することはせず、福岡のウィークポイントを指導してくれた戸田光洋コーチに感謝していた。

「練習通りというか。コーチのミツさん(戸田光洋コーチ)が、毎試合毎試合いろいろやってくれているので。その通りに僕は蹴るだけなので。それがうまく決まって良かったです」

先制後、勢いに乗るフロンターレがある程度握る時間帯を作りもしたが、結果的に前半の流れの中からのシュートはゼロ。福岡の堅守を崩せなかった。

試合前、鬼木監督は福岡について「隙のないチームだなっていう風に思ってますので。まあそこを何とか自分達からこじ開けていきたいなっていう思いではいます」と展望していたが、前半はその思いを果たせず。そんな難しい試合だからこそ、山村の先制点は大きかった。

■ショックな1失点

フロンターレはその後、福岡の攻勢を受けて防戦。そんな38分にカウンターから決定的なチャンスを作り出す。

きっかけは福岡の前からのプレスをうまくいなした瀬古樹。2枚がかりでの守備を受けた瀬古がこれを外して家長昭博に展開。その家長からのパスを受けた脇坂も体の向きを作りつつマーカーからのプレスを回避。裏に走り込んだマルシーニョへのラストパスを通した。

ドウグラス・グローリが伸ばした足のわずか前方を通過したボールをマルシーニョがコントロール。ペナルティエリア内に入り、村上昌謙のファールを誘った。

ここでVARが入ったのは、マルシーニョの裏への抜け出しがオフサイドのチェックを受けたため。それほどまでに際どい場面だった。村上の接触自体は議論されなかった。

このVARチェックをクリアし、獲得したPKをキッカーのダミアンは失敗してしまう。湘南戦で蹴り直しになったPKを含め、直近3回のPKを2本外したストライカーの悩みは深かった。

試合の流れが悪くなったのは、このPK失敗の直後の42分に失点を喫したため。フロンターレの守備陣を攻略し、攻め崩してのゴールは2つの意味でフロンターレにショックを与えた。

2-0になるはずの試合が1-1のタイスコアに。そしてフロンターレボールのスローインをロストし、サイドを割られ、攻め崩した上で奪われた得点だったからだ。

■ハーフタイムの切り替え

試合後の会見で鬼木監督に、ハーフタイムにロッカーで選手たちに喝を入れたのではないかとの質問が出るほど流れは悪かったが、チームはうまく切り替えていた。

ちなみに喝について聞かれた鬼木監督の回答は「基本的に喝はそんなに入れていないです」というもの。入れて無くもないということだと判断したが、怒鳴り散らすようなことなかったということであろう。それは「自分自身もとにかく冷静にならないといけない」からだ。努めて冷静に選手たちに戦況を伝え、後半のピッチに送り出した鬼木監督の言葉は「しっかりとやらなくてはいけない」ということだったという。

なお、ハーフタイムのロッカーについて橘田健人は次のように振り返っている。

「チームの中でもちょっと雰囲気は良くないかなって思ったんですけど。ハーフタイムでもオニさんから、まずは自分たちがしっかりと、自分たちらしいサッカーしろと言われて、それで切り替えて後半から出来たのが良かったのかなと思います」

また脇坂泰斗は、「追い付かれてしまうとやっぱり、ネガティブな部分があると思うんですけど」と指摘しつつ「またここからスタート、0-0の気持ちで意思統一できたっていうのは大きかったです」と話す。そして90分間で勝てるのがベストで、そういう意味で「そのままゲームを進めるんじゃなくて、やっぱり2点目。3点目を取りに行く姿勢っていうところを合わせて後半入れたので。良かったです」と述べていた。

鬼木監督のリーダーシップもさることながら、ハーフタイムに冷静さを取り戻し、試合に向けて気持ちを切り替えられるという意味でチームとしての成熟度が垣間見える部分だといえる。

ちなみに90分で勝つと息巻いていたという脇坂に対し、チョン・ソンリョンは一人腹をくくっていた。前半の悪い流れを振り返り「それがトーナメント、天皇杯だと思います」としつつ「ゴールされても(後半の45分間)十分に時間があったので。PKまで行ったとしても、本当に無条件に絶対に上がるという、準備をしていました」。

そんな守護神の開き直りはチームに安定感をもたらす効果はあったはずだ。

■先んじた後半

後半の立ち上がり。試合の行方を決めたのが53分の橘田健人のミドルシュートだった。

「ずっと練習はしていたので。入ったのはたまたまかもしれませんが、しっかり枠にも飛んでたし、練習の成果は出せたかなと思います」

左サイドで作っていたフロンターレが、マルシーニョのゴール前への動き出しと、それに連動した瀬古の縦パスでスピードアップ。登里享平からの高速クロスへと繋げた。

スローなペースを切り替える一連の流れで福岡を揺さぶり左サイドを攻略したのが1つ目のポイント。さらにGKのクリアボールをダイレクトで叩く橘田の判断も良かった。結果的に奈良竜樹の足への当たり方という運もあったが、シュートを打つことの大事さを改めて認識できた2点目だった。

「流れはあれで変わったと思いますし、そういうゴールを決められたのは嬉しく思います」

そう話す橘田は得点で結果を出してきたが、守備での献身性と機動性、そして危機察知能力が戻ってきた感がある。そうした守備面の質問に対し橘田は、求められている部分だとして、もっとやりたいと前向きだった。

「そこ(守備)を求められて使われてると思いますし。そこでは他の選手よりもやらないといけないことだと思っているので。よりもっと、やりたいですけど。少しずつ良くなってきていると思うので。これからも続けていきたいなと思います」

苦しんだキャプテンのシーズン終盤の復調ぶりを改めて証明する2点目だった。

■ダメ押し点

先行したフロンターレではあるが点差はわずかに1点。当然前に出てくる福岡に対し、フロンターレはそうさせないと鍔迫り合いが続く。

そんな中、70分にマルシーニョの3点目が決まる。福岡のCKを防いだあとの流れで、チョン・ソンリョンからのロングパスを受けたマルシーニョが村上を頭上を越すループシュートを放ち、これがゴールネットを揺らした。

福岡は65分に湯澤聖人、鶴野怜樹を投入した2枚替えによりペースアップを意図しており、徐々に福岡にペースが移りつつある時間帯の追加点だっただけに、効果は抜群だった。

ちなみにアシストのソンリョンは「マルちゃんが前に残っていたのが見えた」とこの場面を振り返りつつ、自らのストロングポイントであるキックの飛距離を生かせたと話す。

「僕もキックが飛ぶというストロングポイントがあるので」

そしてボールを回すだけでなく、カウンターにも強さがあることを示せたとしていた。

「僕らもボールを回すことだけじゃなくて、カウンターで速いというのがストロングポイントだと思うので。そういう攻撃のパターンというのが、ちょっと確信を持てたのかなと思います」

ダメ押しの4点目を決めたダミアンはあまりの嬉しさにユニフォームとアンダーシャツを脱いでゴールパフォーマンス。前半にPKを外していただけに汚名返上の一発となった。

ちなみにこのダミアンのゴールもアシストした脇坂は「ヤマくんがいることのメリット」との言葉で山村和也が居たからこそのゴールであり、その山村の存在感を谷口彰悟になぞらえて説明していた。

「去年なんかはショウゴさん(谷口彰悟)がいて、ショウゴさんが一番最初に動き出したところに釣られて、他が開いてくるとか、そういった得点が多かったんですけど。今年は少し、1番目の強いところがあまりいなかった分、ちょっと釣られるのも少なかったってのもあるので。それをヤマくんが担ってくれたっていうのは大きかったです」

■課題

課題があるとすれば、最後に1失点を喫した守備ということになるだろう。マルシーニョの得点後、74分にジョアン・シミッチと瀬川祐輔を投入すると、さらに後半ATの90+2分に高井幸大、90+5分に山田新を投入して後ろを3枚に変更し、前からも追える体制にしたにも関わらず90+6分に1失点。負けたら終わりのカップ戦準決勝ということで福岡が捨て身の攻撃に出ていたという背景はあるにせよ、アバンテが歌われる中での被弾はやはりいただけない。ロングパスを頭で繋がれた事故的な失点だとも言えるが、失点は失点だ。ゴールを決めた鶴野怜樹の上手さを称賛しつつ、修正してもらいたいと思う。

ちなみにこの失点について橘田は「相手も結構高さのある選手や強い選手を入れてきて、ロングボールも入れられて。そこはしっかり中を固めながらやろうと言ってた中で最後失点してしまったのは、やっぱ反省しないといけない」として、相手の狙い通りの攻撃を受けてしまったと悔しそうだった。

「ヘディングでそらして、抜け出すっていうのは相手が狙っていたのは分かってたので。そういうところはもっと、最後まで集中してやらないとなと思います」

最後の失点で後味の悪い勝利になってしまったが、とは言え勝利は勝利だ。フロンターレが福岡を下し、決勝進出を決めた。

■余談
・KOM

最後に余談を。この試合2アシスト以外にドリブルで運び、パスも出して自らゴール前に走り込み、また守備でも運動量を見せて試合を回していた脇坂泰斗は、文句なしにマン・オブ・ザ・マッチ級の活躍を見せていた。その脇坂に試合後のテレビのインタビューはなし。得点者が4選手いて話題豊富だったという事情では仕方ない。

ということで、アディクトではこの試合のキープレーヤー・オブ・ザ・マッチ、KOMとして脇坂泰斗の功績を称えたいと思う。代表に選ばれて不思議ではないレベルでナイスプレーでした。

(取材・文・写真/江藤高志)

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