「川崎フットボールアディクト」

狙い通りの対応と、想定を超えられたときに出た課題/天皇杯2回戦 vs栃木シティ【レポート】

天皇杯2回戦
6月7日(水)(19:03KICKOFF/等々力/5,325人)
川崎 3 – 1 栃木シティ

■立ち上がりの攻防

立ち上がりにラッシュを掛けた栃木シティは、そうするのが最善手であるとの認識で試合に臨んでいた。フロンターレとの対戦を前に取材に応じた田中パウロ淳一が話していた。

「試合は最初の10分、15分でめっちゃボコボコにしたいです」

田中パウロ淳一「栃木シティを知ってもらえるチャンスですし、何人かの選手のキャリアの分岐点にもなるんじゃないかなとは思ってます」/天皇杯2回戦【インタビュー】

そんな意識で臨んだ試合後、パウロが振り返る。

「相手がすべてがうまくいくわけではないと思ったので。やっぱり相手の隙を探すために、リトリートじゃなくてどんどん行くべきだという感じでした。だから前からどんどん行ったんですが、そういうので、かわされるところはかわされて。という感じです」

行くには行ったが、うまくかわされた印象があったとパウロ。また栃木シを率いる今矢直城監督はゲームプランどおりに行かなかった試合を次のように説明してくれた。

「前半15分で点を取りに行こうとはしていました。やっぱりそこの失点が今年フロンターレさんは多いのと、なかなか今年は、今までと言ったらあれですが、絶対王者だったときと比べると、ひっくり返す試合っていうのが少ないという中で、できれば前半15分自分たちも1点、できれば2点取ってもっと驚かせるというか、焦らせるということができれば良かったんですけども」

そんな栃木シの前からの圧力に対し、フロンターレはうまくいなす試合運びができていた。たとえばアンカーで先発した小塚和季は相手の矢印を折れたのではないかと言う。

「相手が前から来るのは分析でも分かっていたことなので。そこで逃げるのではなく、相手の矢印を折ることが、あの前半はできてたのかなと思います」

フロンターレに対する過剰なリスペクトを排除していた栃木シが仮に先制点を奪えていたとしたら、試合は厄介な展開になっていたはず。そういう意味で彼らが勝負を掛けていた15分までを無失点で乗り切り、その直後の18分に遠野大弥が決めた先制点の意味は大きかった。

こぼれ球をダイレクトで蹴り込んだ遠野のシュートは見事だったが、きっかけを作ったのはアンカーで先発していた小塚。センターフォワードのレアンドロ・ダミアンへの縦パスを狙ったこの場面を小塚が説明してくれた。

「やっぱりダミアンがあそこに居る意味って言うか。やっぱり、どっしり構えててくれるので。ゲーム前からあそこは狙っていこうと思っていたので。まあ、相手には読まれてしまいましたけど、あそこを狙う事によってやっぱり他の選手が空いたりするので。結果的にゴールに繋がったのかなと思います」

またゴールを決めた遠野は自分の特徴を出すべく「足を振ってみた結果」だったと胸を張った。

ゲームプランが壊れた栃木シの今矢監督は「前半、いい場面もあったと思いますけれども、ただ多くの時間は、相手の時間だったかなと思います」という時間を過ごした。そういう意味でフロンターレには追加点が必要で、その点については小塚が「1点取った後、2点3点。もっと4点5点て、どんどんゴールを目指さなければいけなかったなと思います」と反省していた。

■偽サイドバック

栃木シの戦いで面白かったのが、右のサイドバック、野田卓宏が偽サイドバックとして動かしていた部分。今矢監督が2018年に横浜FMの監督に就任したアンジェ・ポステコグルー監督の通訳を務めていたという背景もあるのだろうが、地域リーグレベルで先端的な戦術を取り入れているチームがあることが新鮮だった。

ちなみにそんな栃木シの戦いぶりについて山村和也は「マリノスのやり方に似てるので。少しやりづらさは感じましたけど」と指摘。その上で「やっぱりスピードのある選手だったりとか、そういった選手が裏に走ってくるというのは、やっぱりディフェンスとしては、すごく嫌なシチュエーションになるので。そこで後手を踏まないように対応するのも意識してました」と振り返る。そして実際に「決定機も何回か作られてしまったとので。そこは反省かなと思います」としていた。

野田と対峙する形になった遠野大弥は、その野田の動きについて「やっぱ外に出させる部分で、中を締めて、っていうやり方ですけど。そこは後ろと連携して。そうですね、うまく対応できてたかなと思います」と話す。中盤を分厚くしてきた栃木シではあるが、フロンターレとしては中央を抜かれることはなく、そういう意味ではうまく対応できていた。

■ペースアップへの対応に課題

課題があるとすれば、栃木シの最初の交代采配によるペースアップに対し、対応が後手を踏んだということ。

栃木シの54分の最初の交代でピッチに入ったのは、藤原拓海と関野元弥の両選手。この交代について今矢監督は「背後を取りたかった、というところで藤原選手を入れて、そのためには出し手が必要なので、関野は、パスを出すのは上手なので。出し手と受け手の組み合わせのところで」とその理由を説明。フロンターレの左サイドの裏を取れそうな印象があったのだという。この交代から11分後の65分に栃木シは、サイドを突破した藤原からのクロスを、戸島章が合わせ同点に。 今矢監督の狙い通りの展開となる。

なお、サイドを突破した藤原について小塚は「相手の交代で入った選手が速かったのは多分、みんな知らなかったですし」と述べつつ「そういう特徴がある選手をやっぱりすぐに、ピッチの中でみんなで解決して、ああいう失点にならないように、今後気をつけていかないとなと思います」と特徴に応じた対応をするべきだったと反省している。

■突き放す

1−1に追いつかれたフロンターレではあるが、71分に遠野がこの日2点目の得点を決めて勝ち越し。さらに89分にはフロンターレにとっての交代出場選手である脇坂泰斗を起点に、大南拓磨、宮代大聖とつなぎダメ押し点の3点目。一度は追いつかれた試合をしっかりと勝利に結びつけている。

それにしても栃木シは偽サイドバック野田を筆頭によく走るチームだった。試合前にパウロに取材した際に「チーム全体でよく走ってます。13〜14kmも走る選手がいて」と話していたが、実際に戦える選手たちばかりだった。今矢監督はそんな選手たちについて「フィジカルのところに関しては、そうですね。強度のところは物凄く練習中から意識してやってるところですので。そこは素晴らしい相手と互角以上にやりあったことは、誇りに思います」と自チームの選手たちを称賛していた。

試合終盤に質の違いが出た形ではあったが、それでもよく走る栃木シの選手たちに、時に押し込まれながらも、フロンターレが手堅く勝利したという一戦だった。

(取材・文・写真/江藤高志)

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