「川崎フットボールアディクト」

村井満チェアマン「これがJリーグが言う地域密着」中村憲剛映画についての私見【えとーセトラ】

村井満チェアマンが、Jリーグというもの存在理由を語り始める。

「Jクラブはサッカーをするというよりもサッカーを手段として捉えて地域に貢献する。地域のために存在するのが一番重要で、これはもうJ創設のときから一貫して曲がっていない話ですよね」

そのJリーグの理念を身を以て体現しているのがフロンターレで、そのあり方はこの映画を通してわかるものだと、村井チェアマンは言葉を続けた。

「これを身を以て体現しているチーム。これがJリーグが言う地域密着だと。この映画を見ればわかる。そういう映画だと思います」

地域密着の一例として村井チェアマンが上げたのが川崎市内に配布する算数ドリルと、その撮影のために選手たちが協力しているということ。当然中村憲剛も関わったこの活動は、教育という形で地域に貢献し、それがフロンターレの存在理由を示していた。

なおこれはフロンターレの地域貢献活動の一例で、多摩川の清掃活動や震災復興支援活動など、Jリーグの基本理念を、主体的かつ積極的に現実化したのがフロンターレというクラブだった。

そんなクラブに中村憲剛が加入したのは2003年のこと。ようやく昇格したJ1を1シーズンで追われ、2001年にJ2に降格したフロンターレにとって3年目のシーズンのことだった。

そもそも中村憲剛という選手は決して才能に恵まれたサッカー選手ではなかったが、挫折混じりの経歴の中村憲剛は、自分をより良くしようと努力を続けたことでフロンターレと出会う。そして、川崎に根付き川崎を良くしていこうと活動を続けるフロンターレの存在理由と交わることになる。

圧倒的な強さでJ2を通過し、J1に定着することを目標としていたクラブは、次第に強豪クラブへと成長。コンスタントに優勝が狙える力を蓄えていく。そのフロンターレ成長の軌跡には、常に中村憲剛という選手の姿があった。振り返れば、あっという間の18年間なのだろうが、その間、悔しい思いを何度となく味わいながら、ようやくたどり着いたのが、2017年の初タイトルだった。

信じれば報われるのではない。信じて、そしてやり続けること。それが成功の条件だということ。人生には運が巡ってくるタイミングが必ずある。その運を掴めるのは努力を重ねた人だけ。逆に言うと、運が巡ってきたときのために努力はあるという事でもある。

川崎に根付いたフロンターレの今の姿と、タイトルを手に現役を引退した中村憲剛の姿は不可分なものとしてダブって見えた。

個人的に興味深かったシーンの一つが、中村憲剛がチームメイトの前で引退を告げる場面だ。クラブハウスの内部で行われてきたその儀式は基本的に門外不出の出来事で、そうした貴重な場面が見られるところにもこの映画の意味を感じた。ちなみにあの場面。中村憲剛は選手を前に実に簡潔に引退を告げるのだが、事前に内容を知っていた小林悠と目が合ってしまい、そのボロボロに泣く様子を見て、全て吹っ飛んでしまったと話していた。

「予め準備してたんですが、劇中でも話しましたが、ぼくはずっと見送る側だったので。あの前に立った時に自分の処遇を話す時に何が話せるんだろうとずっと考えていて。けど前に立ってて、小林悠と目が合って、あいつがボロボロ泣いてたので。もうダメでした。ほんとんど考えてたことは飛びました」

このシーンでもう一つ印象的なのが鬼木達監督の監督としてのスタンスであろう。

「選手の前で泣きたくはないんだけど」との言葉は戦いがまだまだ続くからで、選手たちの精神を一区切りにしてしまいたくないから。その鬼木監督は「憲剛のため」では負担になる。だから「やることは変わらない」のだと。そして「憲剛と一緒に優勝する」のだと選手たちに呼びかけるのである。そんな様子から、今のフロンターレの強さを説明する鬼木監督のチームマネジメントの一端が透けて見えた。

クラブハウスの内部で行われていたそんな場面すら見せてしまうこの映画は、資料的な意味で貴重でもある。

なお、このクラブハウスでの場面は映画の告知動画として使われていてもったいないと思ったが告知動画のシーン以外にも見どころがあるので、ぜひ映画で確認していただきたいと思う。

最後になるが、中村憲剛とクラブの成長を流れるようにまとめたこの映画については、中村憲剛が簡潔にまとめている。

「僕らは最初J2でしたから。どういう思いを持って、どういう人が関わり合って今の川崎ができたのかは見に来てくれた方々もそうですし、それこそ村井さんがおっしゃっていただいたように、いろんなJクラブ、各都道府県にありますが、その方々も見て何かを思ってもらえたら良いなと、思っているので」

この映画はきっかけで、そこから色々なメッセージを受け取ってもらいたいと思う。Jリーグが全面的に協力した、Jリーグ公認のこの映画がより多くの方に届けばいいなと感じた。

ONE FOUR KENGO THE MOVIE、特別先行公開&舞台挨挨拶【ニュース】

(取材・文・写真/江藤高志)

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ