山梨フットボール

無料記事 “Jリーグ30年 中堅クラブの挑戦@日本記者クラブ”「野球場建設は反対が少ないがサッカースタジアム建設は反対が多い」【主夫の部屋】

「海野一幸(ヴァンフォーレ甲府元社長)、眞壁潔(湘南ベルマーレ代表取締役会長)、木村正明(ファジアーノ岡山オーナー)鼎談」

鼎談参加者 左から眞壁潔湘南ベルマーレ代表取締役会長、海野一幸ヴァンフォーレ甲府元社長、木村正明ファジアーノ岡山オーナー、司会はスポーツ報知の名取広紀さん(右)。

 

Jリーグ30年目の年である2023年の6月23日(金曜日)に日本記者クラブ(東京都千代田区)で行われたJクラブの社長経験者による鼎談。3人のゲストはヴァンフォーレ甲府元社長で昨季限りで全ての役職を退き、今季からはボランティアとしてクラブを支える立場に回った海野一幸さん(ヴァンフォーレ甲府元社長)、湘南ベルマーレ代表取締役会長の眞壁潔さん、ファジアーノ岡山オーナーの木村正明さんの3人。地方クラブ躍進の先駆けといえば2005年に約6億7千万円の予算規模でJ1初昇格(大木武監督/現・熊本監督)を決めた甲府の社長だった海野さんの名前を挙げる人が多いだろう。剛腕でもあり、アイデアマンでもあり、勘所のいい経営者でもあり、”地方の小クラブでもやれる”という道を切り開いた。その後は首都圏、関西圏をはじめとする都市部のクラブの規模が年々拡大するなかで地方では大きな責任企業を持たない新興Jクラブが数多く生まれ、情熱と献身とアイディアで愛され地元に根付き、特にJ2、J3は群雄割拠となった。現在はJ1からJ3まで60クラブに増え、クラブ数は47都道府県の数を超えており、全ての都道府県にJクラブが誕生する流れは加速中だ。

カデミーから育成した選手の代表格として遠藤航(日本代表/シュトゥットガルト)がクラブの誇りでもある湘南の眞壁会長、ゴールドマン・サックスの執行役員から転身し、急速にクラブを成長させてクラブ初のJ1昇格に手が届く環境と陣容を作り出してなお前進する岡山の木村オーナーは現役経営者としてフットボール専用スタジアム建設に向けても進んでいる地方クラブの雄。海野元社長は現役を退いたが、3人共に21世紀の荒野を開拓してきた。多くの取材を受けてメディアに何度も登場する3人なので既出の話の割合が多いかもしれないが、各々ストロングポイントを持ち、独自のやり方で道を切り開いてきた3人の掛け合いは新鮮。

「地域で盛り上がれる場所を作るかどうかは、僕は、一言でその地域のプライドだと思います」(木村正明ファジアーノ岡山オーナー)

談で出てくる話のなかで時期やデータの裏取りができない部分はゴニョゴニョさせざるを得ないが、印象的な言葉、気になる言葉をいくつかピックアップして、その部分の鼎談にフォーカスして紹介する。1回目は山梨県で総合球技場建設(フットボール専用スタジアム)を求める声があるなかで、6月の定例山梨県議会の一般質問に対して県の担当者が「持続可能性なき建設であり、不適当であると考えております」と答えた映像が夕方のニュースで流れたので専用スタジアムにフォーカスする。議会を傍聴していないので切取り情報になるが、テレビのニュースで担当者のこのコメントを聞いて・字幕を読んで冷水を浴びせられたような気分になった。

司会「地方クラブの大きな目標であり、高い壁が専用スタジアムだと思います。岡山、湘南は現在(新スタジアム)構想が具体的に進んでいる最中でありますが、一方、甲府は自治体のトップが専用スタジアム構想をぶち上げたんですが、ちょっとトップが変わって少し沈静化した感があるんですけど、海野さんは専用スタジアム構想はどんなお考えをお持ちですか?」

海野一幸(ヴァンフォーレ甲府元社長)「私は常々”野球は野球場”、”水泳はプールでやる”、”武道は武道館”、自転車競技場もありますね。なのに何でサッカーを陸上競技場でやらないといけないのか、ということで…どなたかが言っていましたが、ピッチの真横で(サッカーを)見られる専用スタジアムで見られたらいいのに、(最前列の席でも陸上トラックがあると)何十メートルも先のところ(ピッチ)の試合を見るのは如何なものか。”オペラを体育館で観るようなものだ”と言われました。甲府も2014年にラグビー、アメリカンフットボールの関係者と一緒にーー80万山梨県民の10万人分の署名を集めてーー知事に陳情、お願いして話が進みました。基本計画として15,000人収容規模で今のグラウンド(JIT リサイクルインク スタジアム)の近くの県立の公園内に造ることが決まっていたんです。約100億円の事業規模でtotoの補助として30億円が出ることも内定していました…。ちょうど選挙がありまして…知事選で、(後藤斎前知事から長崎幸太郎新知事に)知事が変ったものですから…次の知事(2019~)さんが、”将来山梨県の人口が減るので年間の財政負担を考えると民間の資金を沢山入れないと行政としては(建設費を)出せない”ということで凍結になってしまい、今は完全に止まっています。確かに箱物行政と言われることに対して慎重になるのは事実ですが、新しいスタジアムを造って地域振興や地域活性化の核にする考え方は私は必要だと思います。天皇杯(第102回)で優勝しても甲府(小瀬スポーツ公園の陸上競技場ではACLの設置基準の背もたれのある個席5000席を満たしていない)では試合ができず、ACLのグループリーグのホーム3試合は国立競技場を借りてやることになります。今、リニアは色々あって(建設が)止まっていますが5~6年後には開通すると思います。そうなると品川駅から(新)甲府駅まで約20分ですよ。アッという間ですよ。(品川から)浦和や鹿島に行くよりも近いんですよ。そこで(新)甲府駅の近くに専用スタジアムがあって、甲府(山梨県に)にいいチームがあれば地域活性化の核になると私は思いますが、残念ながら今、止まっています…」

司会「どうしても建設費の問題が出てきます。そのためには自治体の協力、理解は必要だと思いますがなぜかサッカーのスタジアムに関してはーー野球場よりもーー箱物批判がついてまわるように受け止めています。木村さんは建設に向けて動かれていますがどう思われますか?」

海野一幸ヴァンフォーレ甲府元社長。

木村正明ファジアーノ岡山オーナー

眞壁潔 湘南ベルマーレ代表取締役会長

木村正明(ファジアーノ岡山オーナー)「私が調べたときに日本に野球場は610あって、このとき反対運動は起こってないんですね。サッカー場(専用スタジアム)は当時十幾つか。そこから増えていますが、例えば剣道場や武道館の建て替えなどはすんなりいっています。サッカー場となるとこれが途端に反対運動が起こりやすい。どうしても”地域が元気になる”という観点でいかないと…野球場でペイしている施設はドーム球場以外は日本に1つもありません。コンサートホールもそうなんですが、地域が元気になったり、そこに住んでいることを幸せに感じるーーWBCのような舞台を地域に持ってくることはできないがーー地域で盛り上がれる場所を作るかどうかは、僕は一言でその地域のプライドだと思います。当時はサッカー場は少なかったですが10年経って名古屋より西で言うとフットボール専用スタジアムが数多くできて大きく変わり始めています。各地域で色々な考え方がありますから首長さんが”やるぞ”となったときに”よくやった”あるいは”反対がある程度収まった”となるかは全て民意。地域の事情は違うが野球場やフットボール場は世界中でペイしてないですからその街のプライドの話になってくるので簡単にはいかないが、その街の活性化や人口流出を考えるときに必要だと思います。私が小学生の頃にカーペンターズが岡山に来てめちゃめちゃ岡山が盛り上がったんです。スタジアムに関係がないですが、例えば地元で(岡山県出身の)B’zの稲葉(浩志)さんや藤井風くんがライブができる場所があってもいいんじゃないか、など地元で楽しめる場をどう作っていくのかという議論が広がっている。前は、巨人や阪神に来て欲しいというのが当時野球場(建設)が広がった理由の一つ。当時と違うのは地元のチームが定期的に試合をすることは想定してなかったので県知事には『もしできたとしても宝の持ち腐れにはならないだろう』と(言って貰えた)。(岡山の専用スタジアム建設については)まだ本当の意味での民意が形成されるかどうかはこれからだと思います。

のあと湘南の眞壁会長からヨーロッパ、遠藤航選手がいるドイツのシュトゥットガルトのスタジアム改修の資金調達や考え方の話があったが、山梨県議会で県の担当者がフットボール専用スタジアム建設について「持続可能性なき建設であり、不適当であると考えております」と答えた視点、行政の立ち位置とは全く違うもの。(当社理解的に)ものすごく詳しく話された訳では無いが、「シュトゥットガルト市はメルセデス・ベンツの本社があるので税収は多いと思うが、約80億円掛かるスタジアムの改修費用は市が全額出して、市の発展のためにクラブは金利を払うだけでよくて、不良債権にならなければいい」ということ。他には「娯楽施設ではないので同じにはならないが、公立の病院を建てるときや消防署を建てるときに『ペイしますか』とは言わない…」などの比喩的な話もあった。

天皇杯優勝の実績とパッションは素晴らしかった。

タジアムとサッカーに対する社会的な見方・評価、歴史の積み重ねが違うことを強く感じるが、今の長崎知事が最初の知事選のときにヴァンフォーレ甲府のネクタイを締めて選挙運動をしている映像を見たことがあるが、それはヴァンフォーレ甲府の影響力を一定以上認めているからこそだったのではないかと思う。毎年のリーグ戦とカップ戦でJ2なら年間25試合前後ホームゲームがあり、アウエークラブの選手・関係者、ファン・サポーターが甲府市(山梨県)に来て、何割かは宿泊、飲食、観光をしてくれる。これはヴァンフォーレ甲府がなければゼロの部分。それに昨季の天皇杯優勝で山梨県民、ファン・サポーター、県外・国外の県出身者にもたらせた活力、インパクトは計り知れない。山梨ローカルのNHKの視聴率は山梨学院高校の春の甲子園決勝戦よりもヴァンフォーレ甲府の天皇杯決勝戦の方が数パーセント上回っていたという話も聞いた。昔は茶髪、チャラいイメージでサッカーを毛嫌いしていた人は少なくなかった思うが、もうそういう時代ではないし山梨県においてヴァンフォーレ甲府は矜持だし、最強の県民盛り上げコンテンツ。「他に通年で山梨県民の郷土愛、矜持を刺激するもの、ことはありますか?」と聞きたくなる。昨季のようにJ2リーグ戦18位と結果が出ないときもあるけれど、天皇杯優勝という超超超特大ボーナス付きのシーズンーー吉田達磨監督との契約を延長しないことを決勝戦の前に決めていたことは今でも受け入れられないがーー他のクラブよりも明らかに少ない予算規模で3度のJ1昇格、通算で8シーズンJ1リーグ在籍。常に県民、ファン・サポーターの矜持であり続けてきた。

季は9月からJリーグを代表してアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)を戦う責任と名誉。ACL用のユニフォームの袖には日の丸が入る。選手・スタッフ、クラブ、ファン・サポーター、ボランティア、スポンサーが連綿と努力をし続けてきて県民に活力をもたらせてきた。分かりやすい数字にはならないが確実に大きなエネルギー、パッションである部分を天皇杯で優勝しても正しく評価してサポートしてもらえないことは本当に残念。パッションの熱や価値も尊重して評価して欲しい。

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