ニイガタフットボールプレス

☆☆☆無料☆☆☆「新潟は、『これ、ちょっとどうしよう?』となっている間に失点を重ねてしまった」【頼もう!感想戦 feat.北條聡】~第25節vs鹿島アントラーズ.vol.1~

攻守ともになかなかかみ合わない前半の内に2点を奪われ、完敗を喫した今季4度目の鹿島戦。「ネガティブになっても仕方ない。新潟がもっと強くなるために糧とするべき試合」だと北條聡さんは捉えています。まずは、今回いったい何がうまくいかなかったのかの検証から。vol.1は、無料でお読みいただけます。

■60分あたりでモードが変わった

――今回もよろしくお願いします。

「いやあ、どうでしたか、“大中ダービー”は。かつてサッカーマガジン時代に新潟、鹿島の両方を担当していた身としては」

――鹿島の2トップは、ちょっと反則だと思いました。

「特に垣田裕暉選手の存在感ね。垣田選手は、鹿島が4連敗して迎えた第9節の新潟戦で今季初先発して、鹿島初ゴールを決めて勝利の立役者になったじゃん」

――そうでした。

「チームは新潟戦から5連勝して9戦負けなし。一気に上昇気流に乗ったよね。それでこの間、岩政大樹監督と2時間くらい、じっくり話をする機会があったんだよ。雑誌『ナンバー』のインタビューで。

その中で9節のメンバー変更の話になったわけ。垣田選手のほかに仲間隼斗選手、名古新太郎選手を中盤で起用して、それが正解だったと岩政監督は話していたね。

どういうことかというと、仲間選手と名古選手は飛び抜けた武器を持っているわけではないし、何かのスペシャリストというわけではない。だけれど、周りがうまく機能するように潤滑油的にプレーできるタイプなわけ。

それまでのメンバー構成は、スペシャルな武器を持った選手にちょっと偏っていたところがあった。そこで仲間選手、名古選手を起用することで、チーム全体がつながるサッカーができるようになったというんだね。

垣田選手と2トップを組む鈴木優磨選手は、相手と競るのが必ずしも好きではないらしいんだよ。競り合いに強いんだけれど」

――そうなんですか。

「垣田選手が出てくると、その仕事を肩代わりしてくれる。だから鈴木選手も生き生きとプレーできる。

そういう組み合わせの妙ってあるよね。たとえば鈴木選手は、普段、荒木遼太郎選手とめちゃめちゃ仲がいいらしいんだよ。だけどプレーは全然、合わなくて。それは感性が似ていて、同じスペースを使いたくなっちゃうから、動きがかぶりがちで。

垣田選手と組む場合、そういうジレンマが起きにくいというんだね。新潟がしてやられた2トップには、そういう補完性がある。鈴木選手があまり積極的じゃない仕事を垣田選手がやる分、鈴木選手は他の仕事ができる。それで、すごくうまく回っている、という構図だね」

――まさに、2人にやられてしまいました。

「でさ、夏の酷暑もあるんだろうけど、鹿島の“店じまい”がまた早かった。前半で2点取って、“後半はそこまで攻撃にパワーを使わなくていいだろう”となったんだろうね。60分過ぎからは『どうぞ、新潟のみなさんボールを持ってください』というモードに切り替わったように感じられた。若い選手を入れて、彼らにどんどん走ってもらいつつ、うまく試合を締めくくられた印象は強い」

――『本日のスープはなくなりました』と、ラストオーダーの時間前に店がしまる、みたいな。

「そうそう」

――後半、新潟もボールを動かしてチャンスをつくれるようになりましたが、まさに鹿島がギアを落とし始めてからで、それがなんとも悔しいです。

「何せ前半、2点リードするまでの鹿島は6割くらいボールを握っていたからね」

――そうなんですよ。そこに少なからずビビりました。

「鹿島ってさ、前線にターゲットになる選手を置いて、『結局、そこにロングボールを当てるんでしょ?』的な刷り込みがみんなあると思う。だけど、今の鹿島はけっこうつなげるんだよ」

■フリーの選手が、そこかしこに

――めちゃめちゃ、つながれてしまいました。

「それについても、この間、岩政監督と話をしてさ。そこは、あまり意図はしてなかったんだって。だけど、もともと鹿島のやり方だから、まあできるでしょう、という。

第23節の試合では、名古屋が鹿島に勝った。だけれども、名古屋の稲垣洋選手が、『攻めてくる鹿島の選手を捕まえにくかった。だから割り切って、撤退してブロックを組んだ』という話をしていたんだよね。

新潟も鹿島にボールを動かされて、なかなか取り返せないままに、ポン、ポンと2点取られてしまった。で、試合後の三戸舜介選手のコメントが守備についてのものだったんだよ。『うちはマンマークではないから、捕まえきれなかった』という話で。

それって鹿島対策ではないけれど、自分たちが準備してきたもので対応しきれなかったということなのかな、と思わないでもない。結局、インサイドにポジションを取ってくるサイドハーフを誰がどう見るんだ? というところが解決されないまま、失点を重ねてしまったからね」

――樋口雄太選手、仲間選手のポジショニングは、実に厄介でしたね。

「さらに、そこに鈴木選手がトップの位置から下りてくる。 高宇洋選手、島田譲選手という新潟のボランチ2人の両脇に、常に鹿島の選手が複数いて、誰かがフリーになっている。そんな状況だったんだよ」

――新潟のサイドバックが中まで付いていったら、今度は鹿島のサイドバックが高い位置に出てこられるし。

「それによって新潟のサイドハーフが守備で引っ張られて、ボールを奪い返しても攻撃に出て行くパワーが削がれる、という悪循環にもなっていたよね。三戸選手が『ちょっと迷いのようなものがあった』と言うんだから、もう少し事前に整理しておく必要はあったかもしれない。

これも、岩政監督と話したことなんだけど。今の鹿島って、2022-23シーズンのポルトガルリーグで優勝して、欧州チャンピオンズリーグでもベスト8まで行った、ドイツ人のロジャー・シュミット監督率いるベンフィカと同じやり方なんだよ。

今さ、偽サイドバック流行りだから、どうしてもウイングを使うことになる。そうすると攻撃するとき、肝心な相手ゴール前のセンター部分で人手不足になりかねない。前半の新潟にも、ちょっとそういう傾向が見られたんだけれど。

鹿島はセンターバックやボランチがボールを持ったとき、常にライン間に少なくとも3人はいる。この前の試合でいえば樋口選手、仲間選手、それから前線から下りてきた鈴木選手ね。で、彼らがマークされて当てられないのであれば、奥の垣田選手を狙いましょう、という構えになっている。常にセンターを取れる状態なんだよ。さらに自分たちの時間がつくれれば、大外からサイドバックが上がっていきますよ、と。

パスの当てどころがたくさんあるんだよ。しかも数的優位になりやすい。みんな、ライン間を取るのがうまい選手たちだし、新潟からすれば、『ここも、そこもフリーになっているけど、どうするの?』となっちゃったんじゃないかな」

■後手になってしまった前半

――がんばってみんな戻ってきてはいるんですが、人を捕まえきれませんでしたね。

「だから、思い切ってどちらからのボールサイドに寄せていかないと。中途半端に中で対応しようとすると、常にフリーの選手が出てきかねないからね。ボールサイドにガーッと寄せて、『反対側の選手はマークを外してもいい。ボールサイドで人を捕まえよう』という守り方をしないと、すぐにフリーの選手ができちゃうし、どんどんパスをつながれてしまう。

以前の鹿島であれば、センターバックの植田直通選手もバンバン前に蹴っていた。だけど今はつなげるから、無理する必要がないんだよね。だからといって前からプレッシャーに行ったら、バーンと蹴られて、垣田選手に収められる、という。

プレッシャーに行けば蹴られるし、行かなかったら下でつながれる。今、鹿島と対戦する相手は、そこが問われることになる。新潟も、『これ、ちょっとどうしようか?』というままに時間が過ぎていって、失点してしまった形だよね。

1試合平均でいくと、鹿島のボールポゼッション自体はそんなに高くはない。だけど、点を取りに行くときは自分たちでボールを動かせるし、リードを奪ったら手堅く、コンパクトにして失点回避の確率を高めましょうという戦い方を、今の鹿島はできちゃうんだよ。

対戦相手はそこを壊していかないと、鹿島に押し込まれ、失点して、堅く守られて……という流れにはまってしまう。だから前半が勝負を分けたよね。鹿島がエネルギーを掛けて攻めてくる時間帯でどう守り、どう攻めるのか。そこでちょっと後手になったのが、この試合だったんじゃないかな。

結果的に、新潟がサッカーをやらせてもらえたのは60分過ぎからだった。鹿島も後半の最初は3点目を取りに行っていた感じだけれど、交代カードを切りながら、『新潟を引き込んでカウンターで仕留めればいいか』というモードになっていった。

そのあたり、流れが変わったのは暑さの問題や、交代で人が変わったことによる影響もあったと思う。ただし、新潟も後半はチャンスをつくっていたよね。高選手がクロスバー直撃のミドルシュートを打ったり(64分)、高選手のパスを高木善朗選手がワンタッチでつないで、小見洋太選手が抜け出してシュートしたり(81分)」

――どちらかが決まっていれば、少しは鹿島を慌てさせられただろうし、もつれる展開に持ち込むこともできたのでは、と思います。

「だから新潟からすれば、試合が進んで残り30分くらいからの話ではあるけれど、鹿島に対してもしっかり懐に入り込んでチャンスをつくれるというのを示すことはできたんだよ。

ただ、それが0-2というスコアになってからというのも、また現実で。0-0、0-1のときに、ああいう攻めを見せたかったよね」

■外周するばかりでは…

――前半に見せつけられた現時点での力の差は、率直に受け止めるしかないです。受け止めて、日々のトレーニングによって差を埋めていくほかに道はない。

ですが、こと勝負に関していえば、0-2になってもしぶとく1点取って、何とか『勝点1でも、新潟に持ち帰ろう』というところまで持っていきたかったのですが……。

「そうだね。新潟が1点返せば、ムードもまた変わっていただろうね。ただ、ちょっと俺には分からないんだけれど、新潟の選手たちは鹿島に対してリスペクトのようなものがあるのかね?

前半の鹿島の攻撃に対して、新潟の守備がはまらなかったという話をしたんだけれど、新潟ボールのときにも気になったことがあった。60分以降はいいとして、それまでの戦い方だよね。ブロックの中に、なかなかボールが入っていかなかったんだよ。受け手がみんなブロックの外側でさ。それだと、なかなか攻められないじゃない。

新潟の良さ、強みは、『いや、ブロックを組まれても、僕らは中でしっかりボールを受けられますよ』というところでしょ? 厳しいところでも、中にいる選手たちがしっかりボールを受けてくれる。だから前進できるし、相手を困らせられる。

だけど鹿島戦は、60分くらいまで、なかなかそういう戦い方ができなかった。厳しいところでボールを受けられないし、ボールを入れられない。そのどちらもあったと思うよ。それは、すごく気になったね。

鹿島は中断開けから、よりコンパクトな3ラインを組むようになってるんだよ。岩政監督が修正をかけて、守備になったら3ラインでコンパクトな陣形にする。ライン間が狭いから、本当にタイミングを合わせて縦パスを入れないと食われるというリスク、プレッシャーを新潟の選手も感じていたんだと思う。だけど、それでも中に入れていかないと、ボールが外回りになるだけでは厳しい」

――外周した揚げ句にクロスを放り込んでも、ただはじき返されるばかりですし。

「鹿島がコンパクトに守るのであれば、背後を取る動きを入れないと、なかなか打開できないと思う。下がってボールを受けに来る選手がいてもいいんだけれど、それと入れ替わりに、逆にラインの背後に抜けようとする選手もいないと。

新潟は、下がってくる選手ばかりだったんだよ。ライン間から、みんな出てきちゃった。長倉幹樹選手にしても、高木善朗選手にしても、ラインの手前、つまり鹿島の2トップの後ろくらいまで下りてきてボールを受けていた。だけど、結局はセンターバックに戻すくらいしかなくて、なかなか前進できなかった。

ボールが入ってこなかったというのはあると思う。だけど、何とかライン間で我慢して待ちながら、入ってきたボールを受けて、前向きの中盤に落とすことができれば、進んでいくことはできたんだろうけれど。

ライン間を狭めて守られたとき、どう崩すかという話でいくと、鹿島がやられるパターンの一つにサイドチェンジを織り交ぜられたときがあるんだよね。鹿島のブロックは縦も横もコンパクトだから、どちらかに寄せられて、一気にサイドを変えられて、その折り返しから失点するというケース。

ただ、そのあたりはチームの特徴にもよる。たとえばミシャ(ペトロヴィッチ)監督の札幌は、バンバン、サイドチェンジをかましてくる。だけど新潟は、頻繁にサイドを変えるというより、どちらかといえばコンビネーションを使ってゴール周辺から細かく突破するイメージが強い。今回の試合でも、鹿島のスライドが間に合わなくなるような攻撃が、なかなかできなかったところはあるね」

(つづく)

【プロフィール】北條聡(ほうじょう・さとし)/フリーランスのサッカーライター。Jリーグ元年の1993年にベースボール・マガジン社入り。ワールドサッカー・マガジン編集長、週刊サッカーマガジン編集長を歴任し、2013年に独立。古巣のサッカーマガジンやNumberなどに連載コラムを寄稿。2020年3月からYouTubeでも活動。元日本代表の水沼貴史氏、元エルゴラッソ編集長の川端暁彦氏と『蹴球メガネーズ』を結成し、ゆる~い動画を配信中。同チャンネル内で『蹴球予備校』の講師担当。2021年3月から”部室”と称したオンラインサロンも開始。もう何が何だか……。

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