【コラム】【いしかわコラム】vol.4 合わせようとしないから、合う!?車屋紳太郎とクロスの話
ちょっとしたきっかけで、それまでぶつかっていた壁をひょいと乗り越えてしまう。
長くサッカーを見ていると、若手選手のそんな瞬間を目の当たりにすることがあります。
7月になってからの車屋紳太郎が、まさがそんな感じでした。
チームでは左サイドバックとしてレギュラーの一角を担っていました。しかしエースストライカー・大久保嘉人へのアシストがなかった。サイドをえぐって折り返したクロスの質とタイミングが、大久保嘉人の求める動きと合わないのです。
それまでも麻生では、車屋の居残りクロス練習に大久保が付き合っていました。しかし、いざ試合になると、得点に結びつきません。車屋に限った話ではないですが、サイドからのクロスが点に結びつかない現状に関して、大久保嘉人は「合わせなきゃ、と思い過ぎて合わない」と指摘していました。
「合わせなきゃ、と思い過ぎて合わない」
どういうことなのか。レベルの高い話なので、少し突っ込んで大久保に聞いてみると、丁寧に説明してくれました。
「意識しすぎている。緊張してるなとわかるし、合わせないといけないから、顔をあげる。そうなると、もう遅い。ディフェンスが戻ってくるし、その一歩でオフサイドになる。俺の顔を探したり、俺の顔は見なくていい。あのへんにいるなと思って、あそこに出してくれれば、こっちが合わせるから。自分の顔を見られると、『どうする?』って逆に思ってしまう。だから逆サイドにシュートを打ってくれればいい。レナトとかそうだったじゃない?それで自分は合わせられるから。でも合わせようとすると、こっちも難しくなる。もったいないよね。セカンドステージはそこをあわせていきたい。そうすればもっと勝てるようになるから」
3年連続得点王であるストライカー・大久保嘉人の求める世界が垣間見れると思います。クロスを出す味方が顔を上げて、目があった瞬間に、自分にクロスを出したのでは、相手にも読まれてしまうのですでに遅い。そういう次元の話だというわけです。
大久保が例として挙げていたのは、レナトが出していたシュート性のクロスです。覚えている方も多いかもしれませんが、確かに、あれはクロスというよりもシュートのようなボールでした。大久保からすれば、「自分に合わせて欲しい」ではなくて、「イメージして出してくれれば、そこに自分が合わせるから」というわけです。逆なんですね。合わせようとしないから、合うようになる。
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