「川崎フットボールアディクト」

【コラム】【いしかわコラム】vol.4 合わせようとしないから、合う!?車屋紳太郎とクロスの話

そんな中、7月9日の2nd第2節名古屋グランパス戦で、ようやく車屋紳太郎のクロスから大久保嘉人のゴールが生まれました。GKチョン・ソンリョンを含めたチーム11人がボールに触りながらビルドアップし、大久保嘉人からボールを受けた車屋紳太郎が中央にクロス。走りこんでいた大久保嘉人が流し込んだ、鮮やかなゴールでした。

「シンプルに入れておけば、誰かスペースに走るこんでくれるかな、と。2、3人は見えていました。矢野選手の右足がかなり前にあったので、そっちを通すのは厳しい。股抜きを狙う感じで速いボールを通して、それがうまくいきました」
 
アシストを振り返った車屋紳太郎の談話です。映像で確認してみると、大久保嘉人の姿を見ないで折り返していますし、本人の証言通り、イメージだけで出したクロスだったのでしょう。そしてそれがうまく合いました。

これでコツを掴んだのか、車屋紳太郎はその後の試合で自信を持ってクロスを上げるようになっていきます。続くアルビレックス新潟戦でのロスタイムには、左サイドから仕掛けから、味方と相手が届くかどうかわからない難しいポイントに、クロスを配給。そのこぼれを小林悠がヒールで流し込み、劇的な決勝弾となりました。またも車屋紳太郎の左の配給からゴールが生まれました。

クロスが味方に合うかどうかについては、もちろん技術も必要ですが、感覚的な要素も多いはずです。その意味で、車屋紳太郎がその感覚に自信をつけ始めたのは間違いないようで、新潟戦の試合後は、納得の表情で振り返っています。

「前回の試合もアシストできましたが、その流れが続いていますね。自信がついてきた部分もあるけど、蹴るときのタイミングがだんだんわかってきました。今は良い状態できている。味方の選手も信じてくれているので、もっと精度をあげていきたいですね」

そして第5節のFC東京との多摩川クラシコ。

小林悠の決勝ヘディング弾を呼び込んだのは、またも車屋紳太郎の左足でした。面白いのが、あの場面ではやっぱり中の状況を確認せずにクロスを上げていたことです。

試合後のミックスゾーンで、「あのクロス、中を見てないで上げてますよね。感覚ですか?」と本人に聞くと、「感覚っす。感覚であげた感じです」と笑ってましたが、完全に自分なりのコツを掴んできたということなのでしょう。もはやチームの武器と言ってもよい状態になってきました。頼もしい限りです。

「クロスは合わせようとしないから、合うようになる」

なんとも逆説的な話ですが、きっとそういうものなのでしょう。この7月は、車屋紳太郎にとって、サイドバックとしての壁をひとつ越えた一ヶ月だったに違いありません。

(取材・文/いしかわごう 写真/江藤高志)

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