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【2019紫熊の戦士】大迫敬介/無邪気な確信からの成長

 大迫敬介は出遅れていた男である。キャンプ直前で体調を崩し、タイキャンプのスタートに間に合わなかった。

 2018年シーズン、大器とうたわれながら1試合の公式戦出場も果たせず、紅白戦ですらプレーできなかった。広島の未来を考えても、彼自身の将来を見据えても、2019年シーズンはどうしても何らかの成果を記したい。しかし、その大切なスタートで、大迫は出遅れた。体調不良は不慮の事故。仕方がないという一面はある。しかし、プロサッカーの場合は、ケガや体調不良などの事情を考慮されることはない。デジタルにパフォーマンスで判断される。特に今年の場合、経験や年齢を考慮して「可能性を買う」「実績を考慮する」という考えは指揮官にはない。それは、キャンプから城福浩監督は明言していた。

 だからこそ、彼の出遅れが気になった。真っ青なタイの空の向こうに、果たして大迫敬介の未来はあるのか。GKチームは新任の澤村コーチのもと、新しいスタートを切っている。そこに最もアピールしないといけない昨年までの「4番手」がいない。彼の不運を思い、胸が痛くなった。

 しかし。

 遅れてタイにやってきた大迫敬介は、満面の笑顔だった。

 「楽しみです」

 別メニューでのトレーニングを終えた彼がそう言って笑ったことを覚えている。

 他の選手だったら「いやいや、楽しみなんて言っている場合ではないだろ」と考えてしまうところだ。しかし、大迫の場合は、なんというか、そういう発想にはならない。「彼がそう言うんならば、大丈夫だろう」と思わせてしまう。まだ、何の実績もないのに、不思議な説得力が彼にはある。

 「2番手の位置をまず、つかまないとね」

 この日、筆者はそう質問した。4番手だった大迫に対して、この問いかけは適切なレベルだったと今も思う。しかし、若者は笑って言い放った。

 「いえ、1番手を狙っています」

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