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【チームの未来】本当のゲームメイカーがいなくなる

 8試合勝ちなしで6連敗。もし、これがシーズン当初の戦績だったら、間違いなく城福浩監督の進退問題に発展していただろう。だが、これだけ負け続けても2位。いかに前半の快進撃がすさまじかったか、逆説的に証明することになった。

 物事はすべからくポジティブにとらえないと、次への発展がない。だが一方で「なんとかなるさ」的な、ケ・セラセラという空気では検証もなおざりになりがちである。物事の結果が出た時はまず「なぜこういう現象が起きたのか」を冷静に分析し、感情などを排して改善策を提示しないといけない。その上で、前を向く態度が必要である。なんでもかんでも「ポジティブ」は違う。

 さて、たとえば名古屋戦での逆転負けは、このチームの課題が見事なまでに露呈してしまったと言っていい。1つは、チームのリズム。もう1つは、ストライカーである。

 同点シーンを振り返ると、ジョーにポストプレーをさせてしまったことは仕方がないが、そのボールを受けた小林裕紀を止められなかったことが大きな要因。だが、それよりも問題なのはやはり2失点目だ。それもゴールの局面ではなく、その前のボールロストが問題なのである。

 馬渡和彰が相馬勇紀に強引なまでのプレーでボールを奪われた。それは致し方ない。ファウルと判定されてもいいような場面でもあった。だが、問題は馬渡にあるのではなく、その時のチーム全体のリズムである。確かに失点した。だが、同点だ。1-1のままでハーフタイムを迎えても、大きな問題は何もない。名古屋は攻撃も守備もうまくいっていない印象で、広島がボール保持をしていても組織として奪えない状況にあった。だがうまくいっていたはずの広島は、同点にされた後に落ち着かなくなり、無理矢理にでも前に行こうという空気がチームを支配していた。馬渡のボールロストは、その延長線上にある。

 もちろん、その時はカウンターを許さなかった。だが、そこからボールを奪い返すことになく、ロングボールを起点に失点している。城福監督も最近、よく口にしているのだが、守備の局面を少なくしないとインテンシティーの高い集中したプレーは表現しづらくなる。ボールを持てる時は持っていればいいのだ。失点しないのだから。リズムをあえて落とす。そういう判断ができていなかった。

 そしてもう1つの課題は、ジョーをみれば明白だ。1点目、一瞬の動きだしからDFを置き去りにして、クロスを胸で落とし、腰の回転を利用してシュートを決める。もちろん、シュートの技術もすごいが、何よりも素晴らしいのは「ゴールをとれる」と判断した時の戦術眼。一歩目の運び、DFの対応の予測、GKの位置、クロスの呼び込み。全てを折り込んでの計算づくなプレーであり、ゴールへの物語をつくっていた。そういう判断を一瞬で実行に移せるストライカーは、残念ながら広島にはいない。

 この課題は何も、名古屋戦で噴出したわけではない。前半の快進撃段階から、実はゆらゆらと流れていたものだ。それがこの6連敗で一気に表面化してたといっていいだろう。そしてここはポジティブに考えるべきところで、もし前半のような力でねじ伏せる形の勝利が続いていたら、優勝という美酒に酔えたかもしれないが、課題の解決が遅れ、来季は降格の危機に瀕したかもしれない。もちろん、優勝して資金を得られたことで、いろいろな改革に着手しやすくなるかもしれないが、漂っていた大きな課題を、監督は理解していたにしても、チームとしてクラブとして見逃していたかもしれない。

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