ニイガタフットボールプレス

☆☆☆無料記事☆☆☆「信念が伝わってくる」【レディース】~WEリーグ第7節・セレッソ大阪ヤンマーレディース戦リポート~


(写真提供:アルビレックス新潟レディース)

ファイナリストとなったWEリーグカップに続き、リーグ戦でも内容と結果が伴って、年内最後の試合に勝てば暫定首位で年越しする可能性もあったアルビレックス新潟レディース。いったい、どのような強さが構築されつつあるのか。直接、触れられることを楽しみに取材に臨んだ結果は試合終了間際に失点しての黒星に。それでも前向きになれる、その理由とは。この記事は、無料でお読みいただけます。

■勝負に出た、その先に

2023年の試合取材はヨドコウに始まり、ヨドコウで納めとなった。6年ぶりにJ1を戦うシーズンが幕を開けたセレッソ大阪戦から10カ月後の12月30日。再びヨドコウ桜スタジアムに向かったのは、公式戦6試合負けなしと好調のアルビレックス新潟レディース(以下、新潟L)の、WEリーグ第7節・セレッソ大阪ヤンマーレディース(以下、C大阪)戦を取材するためである。

ここまで6試合を終えて2位、勝てば暫定で首位に浮上する可能性もある新潟L。リーグに先んじて行われたWEリーグカップでは準優勝と、今シーズン、着実に結果を出しつつあるチームの試合をスタジアムで実際に見るのは初めてとなる。師走とは思えない暖かい晴天ということもあり、ヨドコウを目指す足取りも軽い。FC今治の指揮官時代を取材した橋川和晃監督が、新潟Lでどのようなサッカーを構築しようとしているのか。これも実に楽しみなポイントだった。

14時に始まった試合は、前から勢いよく奪いに来るC大阪に対し、新潟Lがどう応戦するかという展開となる。C大阪にタイトに寄せられ、ボールを引っ掛けられると、前線のスピードを生かすパスでたびたび背後を突かれた。

8分にはC大阪の2トップの一角、田中智子に抜け出されるピンチに。リーグ戦では今季初先発となったGK高橋智子が勇気を持ってペナルティエリアを飛び出し、スライディングで止めようとする。これはかわされてしまうが、全速力で戻った守備陣の1人、センターバックの三浦紗津紀が田中のクロスをヘディングでクリア。窮地を脱した。

思うようにビルドアップできず、攻撃でリズムを作れない新潟Lは、徐々にC大阪にボールを動かされるようになる。しかし、4-4-2のコンパクトな守備陣形を取り続ける新潟Lも、簡単に崩れそうな危うさは感じられない。

新潟Lは、決して防戦一方ではなかった。それがよく表れていたのが、25分の決定機だ。上尾野辺めぐみが右からクロスを挙げると、相手のクリアが流れ、逆サイドでサイドバックの園田瑞貴が折り返す。ファーサイドでフリーの石淵萌実が詰めたシュートは枠を捉えなかったものの、ひとたびチャンスになると見るや、ゴール前に何人も入っていく今季の新潟Lらしいダイナミックな攻撃を目の当たりにできた。

56分、上尾野辺から川村優理に交代し、ボールを奪って前に出ていくパワーがチームに再注入されると、戦いのギアもうまく上がった。77分には、自陣右サイドの混戦で19歳のサイドバック、白沢百合恵が川澄奈穂美にボールをつなぐ。川澄がドリブルを開始した次の瞬間のことだ。三浦、浦川璃子のセンターバック2人以外のフィールドプレーヤー全員が、一斉にC大阪ゴール前へと走りだす。“1点勝負”の気配が濃くなっていく中で、チームは試合を仕留めにかかっていたのだ。

しかし後半アディショナルタイム、C大阪陣内からのロングフィードで抜け出した矢形海優にゴールを決められてしまう(90+1分)。アディショナルタイムは4分で、失点直後の90+3分には白井ひめ乃のクロスからブラフ・シャーンがクロスバー直撃のヘディングシュート、さらに山本結菜が強烈なロングシュートと、85分に同時投入された3選手がパワー全開でゴールに迫ったが、ネットを揺らすには至らず。試合終了を告げるホイッスルが響いた。

見ごたえや見どころがたっぷりで、さまざまなストーリーの端緒を感じ取れたのは、やはり現場ならでは。足りなかったのは結果のみ。そんな風に前向きでいることが、決して負け惜しみでないと確かめるために、試合後の監督会見、ミックスゾーンでの取材に臨んだ。

■相手にプレッシャーを掛けられても

90分間の攻防で何より印象的だったのは、新潟Lがラインを高く保ち続けていたことだ。C大阪は執拗に背後を狙い続けたが、ブレることはなかった。テクニカルエリアで戦況を見つめていた橋川監督が、初めて大きなアクションを交えてピッチ内の選手たちに指示を送ったのは30分過ぎのこと。メッセージは“下がるな。ラインを高く保て”だった。

前半からたびたび背後を突かれ、試合終了間際に喫した失点も同様の形ではあったが、橋川監督は「それでピンチになっていたとは思わない」と振り返った。

「なぜなら、走られてもうちの選手たちがしっかり戻っていたからです。みんなよくカバーしていたので問題なかったし、逆にあれで下がってしまったら、自分たちがやろうとするサッカーができなくなる。最後の失点も、こちらが点を取りに行った結果ともいえる。サッカーでは起こることです」

高く保たれたラインは、自分たちのボールになったとき、選手が次々と沸き上がってくるようなダイナミックな攻撃の推進力を生む。自分たちのボールにするために、勢いよく間合いを詰めるコンパクトさにも直結する。まさに、攻守に渡って土台となるべき根幹だ。

序盤から、なかなか思い通りにゴールに迫れないもどかしい展開ではあった。ピッチの中で何とか解決しようと奮闘した上尾野辺も、目指すサッカーを崩さずに戦った上での結果を受け止めていた。

「紙一重の勝負でした。相手が前から来るからといって、大きく蹴ってばかりでは自分たちのサッカーはできません。相手のプレッシャーに慣れるのに時間がかかりましたが、自分たちのサッカーを貫こうと最後までみんな努力しました。それは相手も同じで、最後に失点したけれど、“やられるならああいう形だろう”と思っていました。その意味で、今日はC大阪に上回られました」

前からプレッシャーを掛けられ、背後を狙われる。上尾野辺は、どう修正しようと考えながらプレーしていたのだろうか。

「相手が前から来るということは、ロングボールが増えるだろうと考えました。だから、どれだけ自分たちのボールをつないで、落ち着かせられるか。そこを意識してプレーしていました。

プレッシャーを受けても、そこで逃げないことが自分たちには大事で、橋川監督がやろうとするサッカーにおいても重要になります。でも、まだまだチーム全体にミスが多い。練習で精度を上げて試合で発揮できるように、年明けからまた頑張ります」

取材して、目指すサッカーを貫こうとする信念が強く伝わってきたからこそ、試合後も前向きでいられたのだ。変わりつつある新潟Lは、まだまだ強くなる。誰よりもチームを知る上尾野辺も手応えを感じているようだ。

「みんなが同じ意図を持っているのが、プレーをしていてよく分かります。ボールを持つと、周りで分かりやすくどんどん動いてくれる。それだけうまくパスがつながっていくんです」

2023年、最後のゲームで喫した0-1の敗戦は、2024年の強さへのプロセス。その予感が、視線を前へと向けさせる。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ