ニイガタフットボールプレス

☆無料☆「シーズン前半の新潟とは明らかに違う」【頼もう!感想戦 feat.北條聡】~第21節vsコンサドーレ札幌.vol.1~

退場者を出し、押し込まれる時間が長くなりながら、混乱することなく勝ち切った札幌戦。チームの守備強度が確実に上がっていると北條聡さんは前半戦からの変化を指摘します。選手個々のプレーぶりも、ほとんど手放しの褒めっぷり。北條さんの絶賛が止まらない今節の感想戦のvol.1とvol.2を一挙更新します! vol.1は無料でお読みいただけます。

■ひたすら耐える、というわけではなく

――今回もよろしくお願いします。

「いやあ、勝ちましたなあ」

――勝ちましたねえ。両チームのスタイル、両監督のフィロソフィーを考えると、互いに攻め合うスペクタクルなゲームが期待されました。しかし天候とピッチコンディション、さらに新潟の新井直人選手が一発退場と予想外の展開の末、ウノゼロで新潟が勝利しました。

「ピッチコンディションは間違いなく両チームの戦い方に影響していたね。その上で、互いに自分たちの良さを出そうとしていたのがよく伝わってきた。前半は札幌がけっこうエネルギーを使って、ハイペースだった。逆に後半は新潟がギアを上げる。そんな試合展開で。

先制するところまで、新潟にとって理想的な試合だったんじゃないかな。そして新井選手が退場して展開は大きく変わってしまったけれど、そこからの戦いぶりを見ていると、シーズン前半の新潟とは大きく違っていると感じさせる試合になった。

今の新潟は、守備の強度が前半戦と比べると大きく変わっているよね。それは札幌戦に限らず、快勝した広島戦(第19節○2-0)でも感じられたことで。

広島はけが人などの関係で、前半戦(第2節○2-1)で対戦したときとはチーム状況が異なるというのはあったと思う。それを差し引いても新潟の守備強度は確実に上がっていて、広島に思うような攻撃を許さなかった。

新潟の守備の強度が上がった理由は人選もあるけど、これまで出ていた選手も切り替えや寄せの部分がかなり変わってきている。しかも、試合の状況がそういう部分を引き出しているのではなく、どんな相手、試合でも発揮されているわけだから、継続してトレーニングしている成果に他ならない。特に2列目の若い選手たち、三戸舜介選手や小見洋太選手を見ていれば、それがよく分かる。

でさ、前提としてあるのが後ろのトーマス・デン選手、渡邊泰基選手のセンターバック2人の存在なんだよ。彼らは安易にラインを下げない。だから、コンパクトな状態を維持して戦える。しかも前がすぐに切り替えてボールを追ってくれるから、カウンタープレスがシーズン前半より良くなっていると感じる。

札幌戦は新井選手が退場して、1人少なくなってから守備がどうなるかと思った。だけど、混乱したり崩れる気配はまるでなかったよね。

シーズン前半にも似たような展開があったじゃない。先制したけれど、退場者を出して……という試合が」

――名古屋戦(第6節●1-3)ですね。太田修介選手のゴールで前半、先制しながら、直後に舞行龍選手が退場して、耐え切れずに逆転負けを喫しました。

「そうそう。あのころと比べると、チームの安定感がまるで違う。1人少なくなって、押し込まれて攻められる時間が長いという点では同じでも、打たれるシュート数が違っているんだよ。

名古屋戦では36分に舞行龍選手が退場して、後半は15本ものシュートを打たれている。61分に新井選手が退場した今回の札幌戦は、後半打たれたシュートは8本。相手が異なるから単純な比較は難しい。だけど、チームのポジティブな変化だと捉えてもいいはずだよ。

もちろん札幌戦でも危ない場面はあった。でも、ひたすら押し込まれてシュートを打たれまくったというわけではなかったし、枠内シュートも非常に少なかった。札幌にとっては『どうしようか……』と攻めあぐねる展開、一方、新潟は1人少なくなったけれど『そうそうやられることはなさそうだな』という印象を受けるほど安定していた。

後ろで耐える状況で、マイボールになったときどうするかという手立ても明快だったよね。特に、交代で出てきた長谷川巧選手ね。

パスをつなぎながら押し返すというのも新潟らしいかもしれない。だけど1人少ないわけだから。その状況で1人で敵陣深くまで運んでくれる長谷川選手の推進力がすばらしかった。(松橋)力蔵さんも、そこを見込んでピッチに送り出したのだと思う。

小見選手や、後半頭から出てきた太田選手も、運べるときは自分で運ぼうという姿勢が顕著だった。彼らがドリブルで時間をつくってくれたのは大きな意味があったし、とりわけ長谷川選手の交代出場は大きかったね。

昔話になっちゃうんだけどさ。(イビチャ)オシムさんが率いていたユーゴスラビアが1990年のイタリア・ワールドカップのベスト8でアルゼンチンと対戦したとき、退場者を出しちゃったんだよ」

■選手同士のつながりがとてもいい

――またずいぶん古いところを引き合いに出してきましたね。

「サバナゾビッチが退場になってさ。『どうするんだろう?』と思って試合を見ていたら、オシムさんはサビチェビッチを入れたんだよ」

――守備の選手ではなく、アタッカーを。

「そう。その件について、俺はオシムさん本人にずっと聞きたかった。で、あるとき質問する機会を得られた。オシムさんは『あのとき、前でボールをキープできる選手がどうしても必要だった』という話をしてくれて。キープ力を発揮してくれることによって、2人分の仕事をしてくれるんだ、と。

札幌戦では長谷川選手がドリブルによってそういう働きをしたといえる。だって自陣の深い位置にあったボールを、あっという間に相手陣内深くまで運んで、しかもファウルをもらうんだから。

もちろん長谷川選手の投入は、そもそも守備力を期待されてのことだと思う。それに加えて、攻撃でも貢献してくれた。しかも単にドリブルで時間をつくるだけじゃなく、『何なら俺、点取りますけど?』という雰囲気たっぷりで」

――だから札幌の選手もたまらずファウルで止めていたのだと思います。

「長谷川選手のプレーは非常に大きかったよね。

札幌戦は、チームがJ1の強度に慣れてきていると感じられた試合でもあった。三戸選手が前半だけで交代となって、小見選手をトップ下に置いたじゃない。小見選手が、またいいプレーを見せてくれたよね。それは札幌戦に限らず。

最近の小見選手がとてもいいと感じられるのは、立ち位置の良さもあるんだけれど、インサイドに入ってボールを受けて仕事をすることが非常に増えているところなんだよね。サイドから狭いところにどんどん入っていってプレーできるのは、それだけ彼がJ1の強度に慣れたからだろうし、やれるという自信も付いてきたからだと思う。札幌戦でトップ下に入ってからは、ボランチをサポートするために落ちてボールをピックアップする意欲も見られたし」

――足元でボールを受けて、お!? というターンもありました。

「あった、あった。でさ、去年の後半、新潟が良かったときって、小見選手が中に入ってきて伊藤涼太郎選手(現シントトロイデン)と好連係を見せて、というシーンが多かったじゃない。それに似た場面を、涼太郎選手が移籍した後も見せられるようになってきたんだよ。

今シーズン前半の小見選手も、インサイドに入ってくるプレーがなかったわけじゃない。だけどサイドに張ってボールを受けて、そこで仕事をしようとする方が多かったと思う。

今は彼が中に入ってきてくれるから、周りの選手もより絡みやすくなってると思うんだよ。札幌戦でいえば、たとえば鈴木孝司選手だよね。小見選手、三戸選手がすぐ近くにいるから、鈴木選手もワンタッチでポン、ポンとパスを交換しながらプレーできていた。

今の新潟は選手同士のつながりがとてもいい。ひところは、どうしても涼太郎選手に頼っちゃうという面が出てきていたけれど」

――それは致し方ないところでもありますよね。

「もちろん。だって、涼太郎選手がいたわけだから。

そして涼太郎選手が移籍した今、改めて攻撃が回っている。それは前の選手だけじゃなく、センターバックを含めていろいろな面でチームが良くなってきたからこそだよ。

札幌戦は新井選手が退場したあと、確かに押し込まれる時間は長かった。だからこそ新潟の守備の強度が上がっていると実感できたし、しっかりそれを証明できた試合でもあったよね」

(つづく)

【プロフィール】北條聡(ほうじょう・さとし)/フリーランスのサッカーライター。Jリーグ元年の1993年にベースボール・マガジン社入り。ワールドサッカー・マガジン編集長、週刊サッカーマガジン編集長を歴任し、2013年に独立。古巣のサッカーマガジンやNumberなどに連載コラムを寄稿。2020年3月からYouTubeでも活動。元日本代表の水沼貴史氏、元エルゴラッソ編集長の川端暁彦氏と『蹴球メガネーズ』を結成し、ゆる~い動画を配信中。同チャンネル内で『蹴球予備校』の講師担当。2021年3月から”部室”と称したオンラインサロンも開始。もう何が何だか……。

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