ニイガタフットボールプレス

【頼もう!感想戦 feat.北條聡】~第10節vsFC東京vol.1~「まともに受けたカウンターアタック」

 

現在の新潟スタイルの礎を築いたアルベル監督率いるFC東京と、アウェイで激突した第10節。伊藤涼太郎選手のすばらしいFKでの得点はありましたが、2失点して敗れたこの試合を、取材をするために味の素スタジアムに足を運んだ北條聡さんと語り尽くします! Vol.1は、無料でお読みいただけます。

■そこまで押し込んだのであれば

――負けました。

「負けちゃいましたねえ」

――北條さんの、『FC東京との試合は押し込む時間をけっこう作れるかもしれないけれど、その分、カウンターアタックのリスクにさらされるかも』という、試合前の見立て通りの展開になってしまいました。

「新潟の良さと弱点の両方が出た試合だったよね。まあ、しょうがないかな。そう言っちゃうと、身もふたもなくなっちゃうんだけど。まあ、アルベルに花を持たせた、ってことなのかな。

俺は今季初めて、新潟の試合を実際にスタジアムで見たんだよ。で、球際、切り替えの速さで負けちゃった印象がどうしてもある。そこは東京が一枚上手だったかな。逆に言うと、東京はそこで勝負にきたのかもしれない。

去年、新潟がJ1昇格するとなって、俺はずっと強度のところを言ってきたじゃない」

――そうでした。

「トランジション、切り替えのところで、強度って一番求められると思うんだよね。攻めていてボールを失ったとき、どれくらい素早く切り替えられるか。もし遅れたとしても、コンタクトして相手の攻撃を食い止められるか。そこでのいろいろなバトルのところで、東京との差が出ちゃったよね、この試合は。

やっぱり失点場面、特に1失点目かな。“ボールを持つチームはカウンターに気をつけないと…”みたいなことは、よく言われるよね。だけどクライフは、『いやいや、敵陣深くまでボールを運んでしまえば、そうそうカウンターは受けないでしょ?』ということを言っていて」

――1失点目は、まさに新潟が深い位置までボールを運んでいました。

「ペナルティー・エリア手前までボールを運んで、伊藤涼太郎選手のパスをカットされたところからのカウンターだった。

“そこまで押し込んだのであれば、そうそうカウンターは受けない”というのがクライフの理屈なんだよ。だけど実際、新潟はそこから持っていかれてしまった。

でさ、あのとき誰よりも早く切り替えなきゃいけなかったのは、涼太郎選手だと思うんだよね。ボールの一番、近くにいたのは彼だったから。

同じく近くにいた高宇洋選手は、ボールを受けようとする東京の選手をマークしに行った。それは当然だと思う。

だから、涼太郎選手が切り替えてアタックしに行くことが、まず一つ。それから縦パスを受けた仲川輝人選手が堀米悠斗選手に競り勝って、渡邊凌磨選手に落としところ。さらに、渡邊選手に藤原奏哉選手が寄せたんだけど、スコーンと外されちゃったところ。何度かカウンターを止めるチャンスがあったんだよ、新潟には。だけど結局、捕まえきれずにシュートまで持っていかれてしまった。

クライフは、いかにも彼らしい表現をしている。だけどやっぱり、押し込んでサッカーをしようとするチームにとって、カウンターをどう阻止するかは大きなテーマなんだよね。そのために、奪われたら素早く奪い返しに行くカウンタープレスが重要になってくるわけで。カウンタープレスを実装して初めて、ボールを持って攻めるモダンフットボールが有利になる。

そういう話の流れでさ。だからペップ(グアルディオラ)のバルサ以降、カウンタープレスをみんな実装するようになった。敵陣に押し込んで失ったとき、すぐにカウンターをさせないためのプレスをね。

ボールを『貨幣』だとする。ボールを保持して、簡単に失わないとなれば、価値が担保されて持てば持つほど黒字が期待できるぞ、という話にもなる。だけど、たびたびカウンターを受けてしまうようだと貨幣価値は一気に下落。ボールを持っていても赤字になっちゃいますよ、というイメージかな。1失点目は、そういう場面だったんじゃないかな。

後半、途中出場した小見洋太選手が、東京陣内で一度、仲川選手を止めに行ったんだけど、ドリブルで運ばれて、追いかけてファウルで止めたシーンがあったんじゃない」

■その状況で、どうボールを動かす?

――小見選手にイエローカードが出た場面ですね。

「ファウルだし、警告を受けたし、褒められることではないんだけれど、とにかく止めるという作業は、やっぱりやっていかないといけないと思うんだよ。そうじゃないと、失点を避けるのはそれだけ難しくなってしまうから。

今シーズン、J1に上がってきた新潟が、コンタクトプレーで劣勢に回るシーンがどうしても多くなってるよね。鹿島戦(第9節●0-2)の後、(松橋)力蔵さんも『転んでいるのはオレンジのユニフォームを着た選手たちばかりだった』ということを言っていたけれど、現状、そこが新潟の弱点であるのは否定できない。そして、それを克服していかない限り、カウンターをしっかりと防ぐことは難しい。

カウンターを止めることについて、攻撃するときの立ち位置も関係してくると思うんだよ。ボールをいかに効率よく運ぶかということで、立ち位置の話になる。でも、『失ったときに、すぐにみんなでボールを奪いに行ける態勢を整えて攻めましょう』という、攻撃と守備の両方の意味を持っているからね。

なかなかスペースがない中で、どうやってボールを運ぶかとなると、やっぱりいろいろポジションを移動しながら、隙間を探して、となる。だけど、攻めるときに自分たちの立ち位置があまりにも崩れすぎちゃうと、“囲めるところで囲めきれない”という現象が起こってしまう。

ある程度、立ち位置が決まったら動かず、ある意味、止まった状態になって、ボールを受けるタイミングのときだけ動く。それが一番、いいんじゃないかと俺は思うんだ。

三笘薫選手がプレーするブライトンを例にすると、彼らがビルドアップからフィニッシュに至るとき、基本的にそれぞれが立ち位置で止まっているんだよね」

――逆に。

「そう、逆に。所定のポジションで止まる。だから当然、相手もマークに付く。で、マークに付かれた状態でもボールを動かしますよ、というのが、デ・ゼルビのサッカーなんだよ。

それで『同じ話だな』と思ったのが、味スタで東京対新潟を取材して、帰宅してから見たマリノス対名古屋だった(第10節・横浜FM1-1名古屋)。

名古屋は、マリノスに完勝した札幌(第4節・札幌2-0名古屋)と同じことをやってきた。マリノスに対して札幌は、完全にマンツーマンで付いて、前線からガチハメしてきた。で、名古屋も札幌と同じことをやってきた。それでマリノスは、全くボールを前に運べないという状況に陥ったんだよ。

ポジショナルプレーってさ、要は空いてる場所を探しながら、相手を見ながら立ち位置を取るということだよね。だけどマンツーマンで付かれると、立ち位置の優位性はなくなっちゃうわけ。

『そういう状況で、どうやってボールを回すの?』というフェーズに移っているんだよ。ヨーロッパのトップレベルでは。背後にマークに付かれて、それでもボールを動かすためにはどうするんだ? という。

ブライトンは、むしろ『どうぞどうぞ、マークしてください』的な状態になる。それでどうスペースを作るのか、空いている人を使うのか。デ・ゼルビのサッカーは、そういうところに行っちゃってるんだよね。

マリノスも、湘南戦(第8節・湘南1-1横浜FM)あたりから、ブライトンのやり方を取り入れ始めているのが感じられるようになってきて、続く神戸戦で逆転勝ち(第9節・神戸2-3)した。

で、名古屋戦では前半で失点してしまったんだけど、さすがの名古屋も後半までは体力が続かなくて、マリノスがしっかり押し込めるようになった。そして、同点にするところまで行ったんだよね。だけど前半のマリノスは、敵陣にうまく入り込めないまま終わってしまった」

(つづく)

【プロフィール】北條聡(ほうじょう・さとし)/フリーランスのサッカーライター。Jリーグ元年の1993年にベースボール・マガジン社入り。ワールドサッカー・マガジン編集長、週刊サッカーマガジン編集長を歴任し、2013年に独立。古巣のサッカーマガジンやNumberなどに連載コラムを寄稿。2020年3月からYouTubeでも活動。元日本代表の水沼貴史氏、元エルゴラッソ編集長の川端暁彦氏と『蹴球メガネーズ』を結成し、ゆる~い動画を配信中。同チャンネル内で『蹴球予備校』の講師担当。2021年3月から”部室”と称したオンラインサロンも開始。もう何が何だか……。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ