ニイガタフットボールプレス

【笑門来福2023feat.北條聡】~vol.1~「イントロは壮大に」

今年もやります、北條聡さんの新春蹴球放談。今回は「カタール・ワールドカップというマクロな視点から、J1、そしてアルビについて語ってください」とリクエスト。しかし、予想通りといいましょうか、話はどんどん逸れていって…。壮大なイントロダクションの初回です。

■それはカルチョの革命だ

――2023年もよろしくお願いいたします。

「よろしくです!」

――ネタバレになってしまうので誰かは明かせませんが、某雑誌向けに元日本代表のレジェンドインタビューを控えてお忙しい中、今年も蹴球放談に応じていただきありがとうございます。

「その彼にはさ、今まで何度もインタビューしてるんだよ。だから、今さらあまり聞くことがないかもしれない、っていう。『カタール・ワールドカップ、つまらなかったね』みたいな話になるのかな」

――えっ!?

「いや、その元日本代表のレジェンドからすれば、つまらなかっただろうな、と。以前にも『何だか最近のフットボールは意外性がなくなってきてるよね』という話になって。

もちろんエムバペとかメッシとかすごいんだけど。ワールドカップでいろいろ試合を見ていても『うわ、このパスすげえ!』みたいな感動が以前ほどなくてさ。予定調和的というか。だけどしょうがないよね。今はそういう風に教えられてきちゃってるから」

――ワールドカップレベルの選手たちですら。

「効率重視で。とっさのひらめきで変てこなキックをしようもんなら、『そんな確率を下げるプレーはやめなさい』って即座に言われちゃう。

でさ、ワールドカップのアルゼンチン対オランダの試合中に、解説していた岡田武史さんが急にそういう話をし始めたんだよ。海外の指導者が集まるフットボールカンファレンスで、ここ最近は戦術の話ばかりだったのが、この間は『決められたことだけをやるのがいいことなのか?』という話になった、みたいな。試合の展開に関係なく、いきなりぶち込んできた」

――自由ですね。

「岡田さん的には、オランダの選手たちがファン・ハールの決めたことだけをやっているように見えたんじゃないの?」

――しょうがないじゃないですか、監督がファン・ハールなんだから。

「まあ、そうなんだけど。選手のイマジネーションとか余白みたいなものが、最近はますます発揮されにくくなってきているのはあるわけで。そういうところこそ、サッカーの面白さなんだけど。

だから岡田さんが『だけどアルゼンチンはそうじゃない』みたいな方向に話を持って行くのかと思ったら、アルゼンチンはスルーだった」

――ああっ…。

「でも実際、アルゼンチンとオランダは水と油のような試合だった。アルゼンチンにメッシがいたにせよ、型が決まっているオランダと、『型? そんなもんは後からついてくるんだよ』というアルゼンチンと。

それでメッシがファン・ハールに向かって、リケルメのゴールパフォーマンスを見せつけて」

――やってましたね。しかし、よくメッシもあの場でファン・ハールとリケルメの因縁を持ち出してきましたね。

「メッシからすれば、ファン・ハールに対して『お前なんぞにリケルメの良さは分からんだろ』というのがあったと思うよ」

――リケルメがバルサのトップチームで冷遇されていたとき、メッシは下部組織でしたからね。リケルメ兄さんの苦労を目の当たりにしていたんだ。

「そうそう。で、俺が思うのは、今回のワールドカップである意味、メッシがようやくアルゼンチンの選手っぽくなった、ってことなんだよ」

――ほほう。

「メッシは長年バルサでずっと右ウイングをやらされていたわけだけれど、結局、アルゼンチン流のフリーロールが一番いいじゃん、っていうさ。

メッシを型にはめたって仕方ない。そうそう型にはまるような才能じゃないわけだし」

――そうですね。

「確かにメッシはバルサ育ちではあるんだけれど、別にバルサが生み出した怪物じゃない。むしろ、バルサにいたことが良くなかったんじゃないか、とすら思う」

――ええっ!?

「これはメッシじゃなくてマラドーナについての話なんだけど、俺はずっと『マラドーナは強いチームにいても仕方がない』と思ってきたんだよ。すべての力を発揮しないと勝てない、みたいなチームにいてこそ、マラドーナは輝く。

メッシはずっと違ったじゃん。振り向けばイニエスタ(神戸)もシャビもいるんだからさ。黙っていても自分のところにボールが来る。最高のプレー環境だったわけで。

だけどメッシの本当のすごさを引き出すには、イニエスタもシャビもいない状況でしょ、っていう話でさ。そうなればマラドーナみたいに自分でボールを拾いに行って、作って、決めて、と全部やらなきゃいけなくなる。一番、強いチームにメッシがいても、何も面白くないじゃない。

マラドーナが面白かったのは、当時、最強だったミランに対して、ナポリのような田舎町で荒くれ者どもを束ねてゲリラ戦を仕掛けて、ついに倒しちゃったところでさ。もうチェ・ゲバラの世界だよね。マラドーナがやったことは、いわばカルチョ界のキューバ革命だよ」

■ミスすることをどうする?

――話がどんどん展開していきますね。大丈夫かな…。

「メッシは最悪だよ。ただでさえ強いバルサ帝国のダース・ベイダーみたいな位置にずっといたわけだから」

――いまはPSGという新たな帝国ですね。

「そう。似たようなことをペップに対しても思ってる」

――え?

「ハーランドを連れてきても勝てないじゃん、あなた本当に名将ですか? という」

――いや、それはいくらなんでも…。

「今、俺が一番、好きな監督はグレアム・ポッター。今シーズン、チェルシーに行っちゃったけど、彼が率いていたときのブライトンはすごくいいチームだった。あれこそ、日本代表がモデルにすればいいのに、と思ってる。チームに大した選手はいない。だけど、みんなにヒップホップダンスを踊らせて、『ミスをしても恥ずかしくないんだよ』という意識を浸透させたり。その発想が面白いじゃん」

――戦術とかじゃないんだ。

「いや、日本人ってさ、ただでさえ不安傾向の強い遺伝子を受け継いで生き残ってきての現代なわけ。それなのに、よく解説者が試合中に言うじゃない、『リスクを恐れるな』、とか。だけど脳科学の世界では、日本人はリスクを恐れる傾向にあることが立証されているわけで」

--そうじゃないと、島国で生き残るのは簡単ではなかったでしょうからね。

「そうそう。同調圧に関しても、へたにルールからはみ出すやつがいたら、一族が全滅しかねなかった。『逃げるぞ!』となったとき、ボーッとしている仲間がいて、みんなで助けに行ったら全員が討たれました、みたいな。そんな環境の中を生き抜いてきた子孫なわけで。現代の日本人は」

――2000年以上にわたって。

「東アジアが、そういう遺伝子の傾向にあるらしいんだよ。未知のことに対して備えなければ、という。それでIQも高い。その代わり、不安傾向が高い。

で、南米はいわば正反対というか。トライしない人生の何が人生ですか? みたいな。リスクを冒して死んでいくやつもたくさんいるんだけど、それでも生き残ったのが現代の南米人ということになる。

日本人みたいなやつばかりだと、食料がなくなったとき、毒見する人間がいなくなる。『これを食って、当たって死んだら…』とみんなが思って誰も手を出さなかったら、結局は餓死するのを待つだけでさ。だからといって『俺、食ってみるわ』という人間ばかりだと、毒に当たって全滅しかねない。どちらも必要なんだよ、生き残るには。

日本人は『俺は食わない』というタイプが多い。環境的にも、遺伝子的にも。だから結局、ワールドカップでもディフェンシブな戦いで成果が出る、ということなのかなとちょっと思ってるんだよね、正直」

――おお、サッカーの話に戻ってきましたね。

「だからJリーグの解説とかで、『リスクを冒さないと』みたいな話を聞くと、遺伝子が嫌だと言ってるのに、難しいでしょ、って思っちゃう。それを踏まえた上で、どうしますか? ということを考えなきゃいけないのに。そうするとポッターがブライトンでやったみたいに、『ミスをしても恥ずかしくないですよ』というところからになる。

日本のスタジアムだとさ、トラップミスだのシュートミスだのすると、すぐみんな『ハアーーー』ってため息ついちゃうじゃない。そんなところも、遺伝子的にトライして成功することより、失敗しないことの方が価値が高いからなのかもしれない。不安傾向が高いから。だけどそうなっちゃうとさ、なかなか難しいよね」

――サッカーはミスのスポーツですからね。

「遺伝子に従えば、ミスすることを嫌がる、ミスしなくて済む選択をする能力が強調されていくわけ。だけどブライトンではさ、お世辞にもスマートとはいえない不器用そうなセンターバックが、ポッターのおかげでダイレクトで縦パスを付けられるようになってるんだよ。そういうことをやらないと。

そういう意味では、新潟はアルベル監督(現FC東京監督)を呼んできて新しいサッカーにトライして、いいよね、となる」

――まさかここからアルビの話題につながるとは!!

「ただ、『さて、これからJ1でどうなりますか?』ということなんだけどね」

(つづく)

【プロフィール】北條聡(ほうじょう・さとし)/フリーランスのサッカーライター。Jリーグ元年の1993年にベースボール・マガジン社入り。ワールドサッカー・マガジン編集長、週刊サッカーマガジン編集長を歴任し、2013年に独立。古巣のサッカーマガジンやNumberなどに連載コラムを寄稿。2020年3月からYouTubeでも活動。元日本代表の水沼貴史氏、元エルゴラッソ編集長の川端暁彦氏と『蹴球メガネーズ』を結成し、ゆる~い動画を配信中。同チャンネル内で『蹴球予備校』の講師担当。2021年3月から”部室”と称したオンラインサロンも開始。もう何が何だか……。

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