【頼もう、感想戦!feat.成岡翔】~明治安田J2第29節・徳島戦vol.3~「突き動かすもの」
ピックアップしたゲームを選りすぐりの論客と語り尽くす、この企画。今回は激しい攻防の90分の末、スコアレスドローとなった第29節・徳島戦を、成岡翔さんと徹底的に語ります!
■あのキャラに似ているのは…
――大一番の徳島戦とかけて、『鬼滅の刃』と解く……。たとえば本間至恩選手を鬼滅の主人公、竈門炭治郎に見立てると、戦いを支え、引っ張ってくれる「柱」的な存在は誰になるでしょう? 団体競技のサッカーで、一人で相手を倒すことは非常に難しいわけで。
「左サイドでいえば、(早川)史哉と舞行龍の存在は、やっぱり至恩にとって大きいと思うんですよ。で、俺は前から主張していることなんですが、今のチームのサッカーを考えると、至恩と組むのは史哉がいい。さらにその後ろに舞行龍がどっしり構えていて、史哉にも至恩にも気を使いながらプレーしているという関係性が。そういうところが、徳島戦でもはっきり見えたんじゃないかな。
あれだけ至恩が仕掛けられるのは、後ろのフォローがあるからこそ。至恩がサイドに開けば史哉は中に入っていくし、至恩が中に入るなら、史哉は後ろ目でサポートをする。徳島戦ではさらに、至恩がボールを奪いに行った後に史哉が連動して、協力しながら何度も潰しに掛かれていた。史哉も、自分の背後を舞行龍と島田(譲)選手がカバーしてくれるから、思い切って行ける。そんな史哉の存在を背中に感じながら、今、至恩はプレーできていると思うんですよね」
――至恩選手を後ろから支える意味では、堀米悠斗選手が左サイドバックに入るユニットも強力です。左サイドバックが史哉選手の場合と、ゴメス選手の場合の違いは何でしょうか?
「ゴメスが左サイドバックに入ると、より攻撃的になると思います。ゴメスはより高い位置で至恩に絡むし、自分でもどんどん仕掛けてクロスもある。史哉も縦に行けるときは行きますが、基本的には後ろから至恩をフォローし、自由に仕掛けさせるニュアンスがより強まる。それが至恩と史哉が組んだときの特徴です。ゴメスがサイドバックなら、より攻撃的な左サイドになる」
――今のチームで、例えば高木善朗選手、鄭大世選手、舞行龍選手といった、「柱」的に図抜けた存在感ある選手がプレーすることによって、若い選手たちも勇気を持ってプレーできていると感じます。
「よく『精神的な支柱』という表現のされ方をしますけど、実際、チームにおけるベテラン選手というのは、若い選手たちにかなりの影響力があるんですよ。今の新潟でいえば、テセさん、舞行龍は特にそうだと思います」
――ピッチ外で難しい状況が起こったり、チーム最多得点の渡邉新太選手が長期離脱したり、メンバーが本当に限られています。それにもかかわらず、アウェイで徳島相手に弱気にならず、堂々と勝ちに行った。そういう戦いができたのも、出場こそありませんでしたが田中達也選手含め、先輩たちの存在が大きいですよね。
「今、大中さんに言われて、『あ、そうだった』と俺も気づくぐらいでしたからね。確かに新太はけがしているし、ファビオももういない。だけど、そんなことをまったく感じさせない、いい戦いができていますよ」
――なかなか鬼滅で解くところに着地しないですが(苦笑)。うーん……。成岡さんが好きなキャラクターに一番近いのは? それに似ているのは、徳島戦ではこの選手! という方向に持っていきましょう!
「俺がいいな、と思う鬼滅の登場人物は、我妻善逸です。ビビりで技も一つなんだけど、それを究めていて、集中したときには強烈じゃないですか。かっこいいな、こいつって。好きなんですよねえ」
――職人タイプですね。
「そうそう」
――越後の善逸……誰でしょうね。ビビってる選手はもちろんいないですけど、一つを究めて、それで勝負する職人。
「マウロかな。器用なタイプではないし、スピードがあるCBというわけじゃないけど、対人は抜群に強い。それですべての局面を解決しちゃう」
――確かに! マウロはビビりではないし、足下の技術がないわけではないですけど。一本気ですよね。
「ぶっちゃけ、相手はみんな新潟の右サイドを狙ってくるじゃないですか。マウロをつり出そう、そこから崩してやろう、って」
――いろんな形で揺さぶってきます。
「だけどマウロは局面で慌てないし、弱い部分を出さず、強みである対人のところを生かしながら守っていて。徳島戦でも良かったですよ。効いてると思ったし、『え?』という場面もなかった。守備でもビルドアップでも、彼のいいところがどんどん出るようになってきています」
■メッセージ
――もう一つ、今回うかがいたいことがあるんです。徳島戦がとても面白い試合だったということは、とても良い内容の試合だったと言い換えることができると思います。ですが、今の自分たちの順位や立ち位置を考えると、結果もとても重要じゃないですか。その意味では、本当に手痛い引き分けだったわけで。
「痛かったですね。自分たちより上位のチームと自力で差を縮めるチャンスでしたからね」
――負けたわけじゃない。だけど、とてもショックを受ける引き分けだった。もちろん、徳島と引き分けて昇格の可能性が消えたわけではないし、ここであきらめるわけにはいかないです。今、成岡さんからアルビのサポーターに伝えたいこと、メッセージを聞かせていただけますか?
「やっぱり残留争いもそうだし、昇格しようというときもそうなんだけど、ものすごい緊張感の中で結果を出していかなきゃいけないんですよ。チームはすごく難しい戦いを続けている。だからあえて、どんどん選手たちにプレッシャーを掛けてほしいですね」
――えっ、予想外のメッセージなんですけど!?
「昇格するときや残留するとき、選手たちは、これまでにないくらい高い壁を越えていかなきゃならないわけです。それを越えられるのか、どうか。『今、いいサッカーをしてるよね、悪くないよね』という感覚のままでは、なかなかこの壁は越えられないです。
だから、あえて応援しているみなさんには、チームにプレッシャーを掛けてほしいんです。選手たちがここからもうワンランク、ツーランク、パワーアップして、その高い壁を乗り越えるために」
――そのプレッシャーの掛け方というのは、「何やってるんだよ、もうダメじゃん!」ではないですよね?
「そうです。今の状況がダメなわけでは全然ないから」
――どういう掛け方ですかね……?
「例えば今回、大一番で徳島に勝てなかったじゃないですか。望んでいる試合結果ではなかったとき、ショックは大きいし、悔しいし、応援する立場からすれば、腹も立つと思います。その上での、頼むよ、という後押しかな。『次、勝ってくれよ。頼むぜ』という」
――なるほど!!
「何て言えばいいのかな。『いい試合だったよ、次は勝ちましょう』というテンションのままでは終わらせない感じというか。『頼む、次こそ勝ってくれ!』という、より強い気持ちをチームにぶつけてほしいです。
そこのサポーターの力の入り具合っていうのは、選手も感じるものなんです。どれくらい自分たちが応援されているのか、結果を求められているのか。そして、それがゆくゆくはチームの力になる」
――「お前たち、何やってるんだよ!」というストレスをぶつけるのではなく。
「そうそう。だけど結果が出なかったとき、選手たちは慰めがほしいわけでもない。引き分けだったけどナイスゲーム、じゃなくてね。状況を考えれば、新潟は勝ち続けなきゃいけないわけで」
――本当にその通りです。
「ここでグッと、チームを後ろから押してあげる。そういう応援というのが、今は余計に必要なんじゃないかな」
――この状況だから、なかなか直接、声に出して応援することは難しいですが、絶対にチームに伝わるはずですからね。熱の入り具合というのは。
「壁を乗り越えるために、選手たちもパワーを必要としていますから。力みは禁物だけれど、試合ごとにチーム全体に力をみなぎらせて挑んでいかなければならない。
難しいところです。徳島戦がそうだったように、内容はどんどん良くなっています。だけど、そこに甘えるわけにもいかない。ここでさらにグッと力を入れて、壁を越えて行かなきゃいけない。
今、チームにはJ1昇格の可能性があります。その中で、良いサッカーをしています。俺はそんなアルビに、ここからグッと行ってほしい。勝つことで、選手たちには自信が付きます。自信と皆さんの応援が、体を動かしてくれます。勝つことが先につながっていく。今シーズン残り13試合、そこに期待しています」
(了)
【成岡画伯の鬼滅画コレクション】
娘さん(7歳)のリクエストで成岡さんが描いた「鬼滅の刃」の登場人物たち。詳しいいきさつはvol.2に。
【プロフィール】成岡翔(なるおか・しょう)/1984年5月31日生まれ、静岡県島田市出身。藤枝東高校から2003年、磐田に加入。11年に福岡に移籍し、13年、完全移籍で新潟に加入した。サイドハーフ、ボランチ、そしてFWでたぐいまれなサッカーセンスを発揮し、新潟で最初のシーズンは全34試合に先発出場。在籍した5シーズンでリーグ戦113試合に出場し、10得点を挙げ、17年にはJ1リーグ通算300試合出場を達成した。18年、J3のSC相模原に移籍。19年、J3の藤枝MYFCに加入し、11月5日に同年シーズンでの現役引退を発表した。今年はサッカースクールSKY(https://www.sky-soccer.net/)での指導が主になる。