「川崎フットボールアディクト」

奈良竜樹のこだわりと、孤独にさせなかった福岡【えとーセトラ】

奈良竜樹が泣いていた。

人目も憚らず、号泣していた。

アビスパ福岡のキャプテンとしてルヴァンカップ決勝に臨んだ奈良は、試合終盤の浦和の猛攻を耐え抜いた試合後の涙の理由を、家族だと説明する。

「やっぱり家族。福岡の妻と子供二人と、おかゆ(愛犬)もいますし。今日はうちの奥さんのご両親と、うちの母親も来てくれたので、北海道から。感謝というか、しっかりこうやって、そういう人たちの前でプレーできて、優勝できた。そういうのも、試合終わった後のああいう、涙が出てきた一つの要因かなと」

そう話す奈良は「結構いろいろ迷惑かけたこともあったし。『奈良』って検索したらね、色々大変なことが出てくるような、そういう選手の親族というか。近い人はつらい思いもたくさんしたこともあるだろうし。それでも常に支えてくれてね。自分の味方でいてくれたっていうのは、やっと、いい『奈良』のニュースがお届けできて。嬉しいです」

家族への思いが涙になったと知って、彼の心の奥底にある優しさを思った。その一方で、試合では妥協を許さない厳しさのある選手でもある。それが、『奈良』の検索結果にも現れているが、キャプテンとしての奈良に妥協はなかった。

「僕は、昔から嫌われ者というか、孤独でもいいと思っています。でも、孤独を感じずにここまでやってこれたなと。周りの人は僕を孤独にしなかった」

そう話す奈良は、自らを排除しなかった福岡というチームに対し「だからそういう意味でも、感謝、そういう思いしかないかなと思います」と口にしている。常に勝利への強い気持ちを示し続けてきた奈良の基準は、馴れ合いの中でプレーしてきた選手には異質なはず。そんな奈良の基準に福岡の選手たちが合わせたことが、優勝という結果に繋がったのは間違いない。

ちなみに表彰式でルヴァンカップを掲げた奈良にそのことを聞くと、意外な答えが帰ってきた。

「いやー、あんまりなんか、そういうことを想定してやっていなかったんで。とにかく勝ちたいっていう、そこだけで。だからキャプテンだからカップ掲げただけで。僕はそんな、なんだろう。覚えていないというか、そこに思い入れが、ないって言うと、ちょっと失礼なのかもしれないですけど。僕はそれよりも、このね国立で。国立での試合が初めてなので。そこでこうやって、たくさんの人の前で試合できて、勝てて。それが一番嬉しいですね」

実に奈良らしい言葉だなと思った。

なお、フロンターレ時代に奈良は2度、ルヴァンカップ決勝を経験しているが、2017年は退場のため出場停止。2019年はベンチに座ったままで出番がなかった。そんな奈良にとって初めての決勝の舞台はどういう場だったのか。

「国立に着くまでは緊張してたというか、いろいろ、ありましたけど、実際にもっと、もっと赤だと(浦和サポーターが多いと)思った。でも、結構(福岡サポーターが)来てて。それで結構、ふっと消えました、緊張みたいなものが。来てくれてるなと思って。で、レッズの応援も、何か高ぶりましたね。逆に。すげーなと思ったし、純粋に。試合始まったらみんなそんなに緊張してる感じもなかったかなと思います」

初めてのルヴァンカップ決勝は、もっと少ないと思っていたという福岡のサポーターから力をもらっていたと話す奈良だった。

ちなみに試合後、フロンターレの選手からお祝いのメッセージをもらい、嬉しかったと笑顔を見せた。ただ、その選手に迷惑がかかるのも本意ではないので、名前は伏せておいてくださいと言われた。

実に、奈良らしい配慮だと思った。

(取材・文/江藤高志)

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