SIGAMCLUB9月号立ち読み版／エースストライカー上野真実「悔しさこそ原点」

2021年08月15日 23時03分　
カテゴリ： SIGMACLUB NEWS • 紫熊戦士たちの物語
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歓喜と後悔が渦巻いた初めての国際舞台

パプアニューギニアの青い空に、白いボールがフワリと舞った。

日本代表の白いシャツを着たサッカー少女たちはこの瞬間、誰もが思ったはずである。

「入って！」「決まって!!」

その想いがいっぱいに詰まったボールは、ゆったりとした放物線を描きながら、青いシャツのアメリカ代表ＧＫの頭を越え、サイドネットをパサリと揺さぶった。

ゴールを決め、天に両手を突き上げたのは、上野真実という無名の少女。あどけない表情で控えめな笑顔を見せたショートカットのストライカーに、ラストパスを出した右サイドバックの北川ひかる（新潟）が抱きついた。ゴール前に顔を出していた隅田凜（仙台）も、ゲームキャプテンを務めていた籾木結花（ＯＬレインＦＣ※アメリカ）、59分から登場した松原志歩も、殊勲の18番を抱きしめた。

時間は86分。上野が決めたループシュートは、Ｕ‐20女子ワールドカップの銅メダルを日本にもたらした、３位決定戦（対アメリカ戦）唯一のゴールとなった。

これまでＵ‐14日本代表に一度選出されただけで、それ以降は年代別代表に全く縁もなかったのが、上野真実という少女だ。

「代表なんて、思いもしていなかった。Ｕ‐20ワールドカップの予選も出ていないし、Ｕ‐17の選出経験もなかったのに」

ところが２０１６年５月のパプアニューギニア遠征で突然の抜擢。そこでの親善試合でハットトリックを決めるなど結果を残し、続くドイツ遠征でもボルシアＭＧ戦で２得点。その勢いを評価され、Ｕ‐20ワールドカップのメンバーに選出された。

突破系のアタッカーが多いなでしこの中で、高さがありポストプレーで時間もつくれる上野の存在は確かに貴重。しかし、これまで国際舞台に全く縁がなく、なでしこ２部（愛媛ＦＣ）でプレーする選手を本大会に抜擢するとは。当時、Ｕ‐20日本代表監督を務めていた高倉麻子監督の眼力には、唸らされる。

「初戦前日のトレーニングで自分が主力組に入るまで、先発なんて考えてもいなかった。実際、代表の練習の中でも、自分の足りないところばかりが目について……。もちろん、選ばれたからには結果を残したいけど、試合に出られるなんて思っていなかったから」

不安の中で迎えたグループステージ初戦の対ナイジェリア戦、いきなり想定外の歓喜が少女を包む。

37分、乗松瑠華（大宮）のクロスをワンタッチで合わせてゴール。試合の主導権を握るチーム２点目を決めると、62分・82分と連続ゴール。強豪・ナイジェリアを相手に６‐０の快勝を呼ぶハットトリックを決めた。

上野自身、何が起きているのか、わけがわからなかった。しかしハットトリックは当然、大きな自信になる。

先発から外れた中二日の対スペイン戦は０‐１で敗戦。勝利しか決勝トーナメント進出のない状況で高倉監督は再び上野を先発に起用する。そしてストライカーはまたも、結果を残した。

長谷川唯（ＡＣミラン）のゴールで先制した後の42分、籾木のシュートのこぼれを豪快に叩き込み、なでしこに歓喜を。さらに51分、勝利を決定づける４点目のアシストを記録して勝利をもたらし、日本代表は決勝トーナメント進出を決めた。

だが準々決勝のブラジル戦で試練が訪れる。この試合も先発したものの、後半開始早々に交代してしまったのだ。

前半アディショナルタイムに守屋都弥（神戸）が先制点を奪った場面、上野はクロスに対してニアに飛びこみ、潰れてスペースをつくった。しかし、この時に足首を負傷しプレー続行が不可能に。代わって入った松原志歩が２得点を決めて勝利の立役者となったが、ここまで４得点１アシストでチームを牽引してきたヒロインの負傷は、チームに暗い影を落とすのではと思われた。

それでも上野はきっちりと回復させて、中五日の対フランス戦には先発。鋭いドリブルからシュートを放つなど、得点への意欲を燃やしていた。だが59分、ストライカーは交代を余儀なくされる。

「相手は個の力が強く、フィジカル能力も高い。どうやって駆け引きして得点をとって勝つか、それだけを考えていました。だけど」

結果を出しているということは、当然、マークも厳しくなる。フランスＤＦの厳しいアタックに、ストライカーは倒れた。足首を傷め、試合続行は不可能。上野はそのまま医務室に運ばれ、治療を受けた。

「みんななら、きっとやってくれる」

ずっと、ずっと、祈っていた。

だが日本は延長戦で力つき、１‐２で敗戦。世界一への夢は、ベスト４で潰えた。

悔しくて、涙にくれる選手もいた。しかし、上野は泣けなかった。

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