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苦しんできた男たちが結果を出した/広島2-1C大阪

清武弘嗣のCKが荒木隼人の足に当たってゴール方向に向かい、奥埜博亮に押し込まれる。

この試合がC大阪にとって最後のホームゲームとなるヤンマースタジアム長居のスタンドに、リアルな歓喜はなかった。だが、紛れもない失点。呆然とする広島。思わぬ形の得点に笑顔が弾ける桜色の選手たち。

全てが台無し。

そんな感覚に陥った。

前半、広島は幅をとった攻撃で主導権を握った。柏好文の突破やミドル、藤井智也のカットインシュート、セットプレーからの野上結貴のヘッド。決定的なシーンはことごとくキム・ジンヒョンの素晴らしいプレーに阻まれたが、紛れもなく主導権を握ったのは広島だった。

特にこの試合から復活した3バックは抜群の強さと機能性を見せた。荒木隼人は加藤陸次樹をカウンター時以外は完璧に抑え込み、佐々木翔・野上結貴も全くスキがない。マン・オリエンテッド的な守備であれば、この3人はまさに鉄壁。特に荒木の充実は目立った。

それだけに、この失点は堪える。胸に響く。

まだ後半が始まったばかりで、時間はたっぷりある。だが、4月に入ってからの広島は、先に失点を許すとそれを跳ねかえすことができていない。川崎F戦とルヴァンカップ横浜FM戦だけが、先制を許した後で勝点を拾った試合である。いいイメージが湧かない。チャンスを決められず、最初のピンチで失点してしまう姿を何度見てきたか。このシーンは実は、C大阪にとって初めてのCKだったのだ。

失点直後、広島は前に出た。浅野雄也の突破によってFKを得る。森島司のキックは野上結貴を狙った。しかし、後半から入った瀬古歩夢にクリアされる。

CKだ。

なんとなく、予感はあった。

森島のキックは最近、調子がいい。この日も、得点の香りを漂わせていた。中の選手がしっかりと合わせれば、何かか起きる。

そして、その何かは起きた。

スピードのあるボール。ニアに走った野上がすらす。ファーサイド。

ジュニオール・サントスだ。

バウンドしたボールを足で止める。浮いた。ジュニオールに迷いはない。

右足を突き刺した。サイドネットが揺れた。ゲット。同点。

3月7日対横浜FM戦以来、2ヶ月半ぶりのゴールは、沈みかけた広島の息を取り戻した。

ずっとずっと、苦しんできた。自分も責め続けた。

彼はうまくいかないことを決して、チームや周りのせいにはしない。常に自分の中に刃をむけていた。いつしか、彼らしい笑顔も見られなくなっていた。

だが、仲間たちはそんな彼を決して、見放しはしない。この試合でも柏好文がジュニオール・サントスに向けて盛んに声をかけた。

「ジュニオール、今だ。プレスだ」「ジュニオール、その場所でいい」「いいぞ、ジュニオール。サンキュー」

そんな後ろからの声に励まされ、彼は必死で走り、闘っていた。ミスは相変わらず多い。前半も、シュートの決断ができずに切り返してボールを失った。簡単にパスを出せば決定機になるところでドリブルを選択した。それでも、誰もが彼を支えた。

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