ニイガタフットボールプレス

【頼もう、感想戦!feat.島田徹】~明治安田J2第28節・ギラヴァンツ北九州戦vol.1~「準備段階での戸惑い、“新潟、まるで違うじゃん!?”」

ピックアップしたゲームを選りすぐりの論客と語り尽くす、この企画。今回は、福岡在住ライター島田徹さんと第28節・北九州戦を語り尽くします。ギラヴァンツを深く取材する島田さんとの対話は、まるで試合の“答え合わせ”のよう。そして見えてくる、両チームにとっての「勝点1」の意味合いは?

■ギラヴァンツの思惑

――新潟からすれば、実に痛いスコアレスドローでした。あれだけ攻めながら、無得点……。

「こっちは狙い通りやったね」

――やられたなあ。

「もうさ、伸二さん(小林伸二監督)がそういうサッカーにしちゃってるから」

――負けないサッカー、悪くても引き分けて勝点1を積み上げるサッカーですね? これは、どのチームが相手でもそうなんですか?

「ギラヴァンツはリーグ再開後、町田には耐える時間もあったけれど勝ったんだよ(第26節○2-1)。その前の愛媛戦は先制されたけど一度は逆転して、追いつかれたものの何とか引き分けた(第25節△2-2)。それで前節の岡山戦、今節の新潟戦と2試合連続でスコアレスドロー。

リーグが中断に入る直前に勝てなくなった時期、伸二さんは『とにかく全部、前からボールを取りに行け』というやり方をやめたのね。基本、取りに行くけど、無理だったら中間層で取ることに切り替えて、それも無理ならゴール前に守備ブロックを作って守る。この3つの選択肢を強調し始めた」

――僕は第25節、ニンジニアスタジアムで行われた愛媛対北九州の試合を見に行ったのですが、そこは驚きでした。ギラヴァンツは前から来るんじゃなくて、途中で引っ掛けて速攻を狙うやり方に変えてきたんだ、と。

「何で変えたかというと、90分の内、長時間ハイプレスができないから。今いる選手のフィジカル面、個人戦術を考えても、それは難しいと判断したわけ。

それで新潟戦後、伸二さんの会見の言葉を聞いて『なるほどな』と思ったんだよ。というのも、ギラヴァンツはここから金沢(第29節)、秋田(第30節)、松本(第31節)、群馬(第32節)と、残留を争うチームとの直接対決が続くんだよね。それで新潟に無理に勝ちに行って逆に負けて、そのショックを引きずったまま連戦に向かうより、引き分けでいいという割り切り方で試合に臨んで、実際、勝点1を取った。選手たちは『よし、ここから!』という気持ちになっているだろうし、まさに狙い通りだった。

もちろん、3ポイント取れればベストだったよ。だけど、負けないことがより大事でさ。前節・岡山戦も新潟戦と同様に、最後は失点しないように5バックにしてしのぎ切って、スコアレスドローに持ち込んだ。ここに来て、伸二さんも割り切った戦い方にシフトしているんだよ」

――残留しなければならないですからね。

「そうそう。シーズンの途中までは、若い選手が多いし、きっちり守るサッカーをやろうとしても、まだ無理だと伸二さんは思っていたんじゃないかな。だけど、この2試合で分かったのは、どうやら負けない戦いができそうということで。チームが置かれている状況を考えれば、そういう戦いを選択するのも当然だとチーム全体がまとまって、若い選手も含めてそれなりのプレーができている。伸二さんも、これでいいのかな、と感じた新潟戦だったと思う。

伸二さんは試合のハーフタイムにも、これまで以上に選手の話を聞いているみたい。前半はこういう状況だけど、後半はどうする? といったように。それで選手から、たとえば『ちょっとボールを持つのは厳しいです』という意見が出されたら、『じゃあ、前から行く姿勢を見せつつ、無理だったらすぐ下がろう』と指示を出す」

――そのさじ加減はかなり難しいし、北九州にとって今後の肝にもなりそうですね。一つ間違えると、チームは方向性を見失ってバラバラになりかねない。

「だから今のギラヴァンツのスタンスとしては、もし監督主導で守りに行ってやられてしまったら、そこからチームは崩れてしまうから、選手たちの意見を聞きつつ戦っていこうというものなんだよ。選手たちも納得した上でやっているから、おそらく守備も、嫌々やっているわけではないはず。集中しているのを感じるね。しんどいけど、みんなで耐え切ろう、守り切ろうという部分が見えてきた。残留するために守備的に戦おうと言葉にするのは簡単だけど、実際、勝点を稼いでいるから、いい循環になりつつあるんじゃないかな」

■新潟が読めない

――新潟の攻撃はしのぎ切れる、そこまでは怖くない、という捉え方だったんですか?

「いや、そこはやっぱり警戒していたよ。まず、新潟は負けた試合の後、メンバーを変えてくることが多い。それも水戸に大敗した後だったから(第27節0-4)、余計にメンバーを予想しづらかったと思う。俺たちとの試合で先発を変えてくるだろうけど、読めない。髙澤優也選手を3試合続けて1トップで先発させるのか、鈴木孝司選手や谷口海斗選手を使ってくるのか、とか。そこが一番、不安だと伸二さんも言っていたね。伸二さんは試合前のDAZNのフラッシュインタビューでも、『新潟がどう出てくるか、まずは見る』と話していたでしょ?」

――そうでした。

「この選手が出た場合、この選手の場合……と、ある程度は想定していたと思う。だけど、すべてのパターンに対して準備できるわけじゃないからね。だから、最初は新潟の出方を見よう、という試合の入り方だった。

たとえばロメロ・フランク選手とか嫌がっていたよ、伸二さん。『うちの試合で、いいプレーされるんだよね』って。実際、今回もめちゃめちゃやられてたし」

――抜群に効いていましたよね。

「結局、最後までつぶし切れなかった。嫌な働きをされていた分、交代したとき(72分)はラッキーと思った」

――体力が90分続かないんです。タフで厳しいタスクを求められているから。新潟戦前の練習後の取材は、オンラインだったんですか?

「いや、距離を取って対面でやってもらえる。今回、練習を取材するのは俺だけだったし、『いいですよ』と」

――練習も見ることができるんですか?

「その日はね。オフ明けの練習だから、フィジカルアップ中心のメニューなんだけど、紅白戦を5、6分やるから、それでおおよそのメンバーは見えてくる」

――今回は新潟戦に向けて、こういう準備をしていきそうだな、と感じられる部分はあったのですか?

「いや、これは最近どの試合の前でもそうなんだけどさ、ハイプレスに行くときとミドルゾーンで奪うときのメリハリの部分について、伸二さんは中断期間中からずっと言い続けてきているんだよ。だから、そこの質をアップさせることをやっていた。

後は、本間至恩選手のドリブルへの対応と、新潟か右からクロスを上げてきたときの対応。でもクロス対応も新潟対策というより、これまで自分たちが結構やられていたから、その改善のための練習だと俺は受け取った。新潟対策が何かというところまでは、1日の練習取材だけでは正直、分からなかったね」

――小林伸二監督は、新潟をどう分析していたのですか?

「サッカーが全然、違うじゃん、と言ってたよ」

――水戸戦(第27節●0-4)を見て。

「ライン間が広いしさ、後ろからボンボン蹴るんだよ? と」

――なぜか水戸戦は、そうなっちゃいました……。

「だけど、それをうのみにするのは怖いから、あと2、3試合見るわ、とも言ってた」

――あの水戸戦だけの印象で行って、いざふたを開けてみたら……となるのは怖い、と。

「そうそう。さすがにそこは慎重になってたね。そんなに急激に変わらないよな? と思ったんだろうね」

――僕も水戸戦を見て、びっくりしました。

「空中戦に強い髙澤優也選手を1トップで先発させて、その特徴を生かそうとした結果、ああいう戦いになったんだと思いますよ、と伸二さんに言ったら、『そうなのかなあ?』とぶつぶつ言ってた(笑)」

(つづく)

【プロフィール】島田徹(しまだ・とおる)/広告代理店勤務の後、1997年にベースボール・マガジン社に転職。サッカーマガジン編集部、ワールドサッカーマガジン編集部で2006年まで勤務した後、07年より福岡にてフリー活動を開始。サッカーマガジン時代に担当を務めたアビスパ福岡とギラヴァンツ北九州をメインに、ほぼサッカーの仕事だけで生きつなぐ。現在はエルゴラッソの福岡&北九州を担当。

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