ニイガタフットボールプレス

【頼もう、感想戦!feat.島田徹】~明治安田J2第1節・ギラヴァンツ北九州戦vol.1~「大きかった成熟度の差」

ピックアップしたゲームを選りすぐりの論客と語り尽くす、この企画。2021年もお届けします! 開幕のアウェイ北九州戦は、福岡在住のライター、島田徹さんが登場です。激しい攻め合いが予想された一戦は、新潟が4ゴールを挙げての快勝。ミクスタで現地取材した島田さんは、チームとしての成熟度の差が勝敗を分けたと見ています。

■北九州は最初から仕掛けたかったはず

――2021年シーズン最初の感想戦、よろしくお願いいたします。

「いやあ、まんまとやられたよ。北九州も新潟も、新戦力の4人が先発したんだよね」

――そうでした。

「だから、それぞれチームへの浸透度はどうなのかなあ、っていう目線で試合を見ていたわけ」

――はい。

「試合後にアルベルト監督も言っていたんだけど、チームの成熟度の差を見せられたゲームだったね。ちなみに新潟は、いつ始動したの?」

――1月20日ですが、しばらくは自主トレ期間で。アルベルト監督が合流しての実質的なトレーニングは、1月25日の高知キャンプから始まりました。

「そうなんだ。じゃあ、違いはないね。ギラヴァンツも1月25日始動で、開幕まで1カ月。で、30人の登録のうち、14人が新戦力だから、融合するのに1カ月で足りるのかな、ていう話は『前哨戦』でしたでしょ」

――はいはい。

「始動する前から自主トレするように選手たちは言われていたし、コンディション面はそこまで心配していなかったんだよ。だけど、実践面、連係の部分では、新潟よりも遅れが目立ったゲームになった」

――展開を振り返ると、先に仕掛けたのは北九州だったじゃないですか。後半、ハイプレッシャーを掛けてきて。言い換えると今回は、去年ミクスタで対戦したときのような、試合開始直後から高強度でやり合うような展開にはならなかった。

「うん」

――後半、北九州が前からプレッシャーを掛けてボールを取りに来たとき、崩れなかったのが一つのポイントだったかなと思います。

「それは千葉(和彦)選手も言っていたね。でもね、前半からギラヴァンツはプレスに行こうとしていたんだよ。俺にはそう見えた」

――なるほど。

「だけど新潟のボールの回し方がうまくて、プレスがはまらなかった。村松(航太)キャプテンが言っていたけど、『(前から守備を)はめて、はめて、っていうスタイルでやりたかったけど、新潟の選手たちが中間ポジションをうまく取って、かわされてしまった』と。つまり、連係面だよね。ボランチの高(宇洋)選手、島田(譲)選手、センターバック(CB)の千葉選手、早川(史哉)選手という、ゴール前4人の連係。で、ビルドアップの中心になる彼ら4人のうち、2人が新加入でしょ?」

――そうですね、高選手と千葉選手が。

「ギラヴァンツも前半からプレッシャーを掛けようとしたんだけれど、うまくはがされてしまった。ビルドアップの中心に新加入選手が複数いながら、連係が取れていたということだよね」

■きっちり狙いを表現した新潟

――新潟は後半入りのところで北九州の圧力を受けて、押し込まれました。そこで崩れなかったのは、『自分たちはこういうサッカー、スタイルで行く』というところを、新加入選手含めて自信を持ってやれていたからでしょうね。そして耐えているうちに連続で得点できて、一気に勝機を手繰り寄せました。

「北九州も新潟も、それぞれやりたいこと、狙いがあったと思うんだけど、それを成果として出せたかどうかが差になった。たとえば千葉選手がコーナーキックから挙げた先制点。その前の11分に、高木(善朗)選手がコーナーを蹴って、鈴木(孝司)選手がダイビングヘッドしたじゃん」

――はいはい。

「あの場面もさ、ゴール前にぽっかりスペースができた」

――そうでした。

「後から映像を見直したんだけど、新潟はニアサイドとファーサイドに流れる選手が、しっかり分担されていた。で、北九州はコーナーキックで守るとき、ストーンは置くけど、それ以外はかなりタイトなマンマークなんだよ。だから新潟の選手の動きによって、ゴール前にスペースが生まれた。

千葉選手の得点場面も同じだよね。ゴール前に入っていく選手に違いはあったけれど。だから北九州からすれば、11分のコーナーキックでピンチになったんだけど、それを次に生かせなかった。新潟は連続で狙いを表現できて、その結果、先制点を決めることができた。

狙いを持ったプレーということでいえば、さっきの話だけれど、北九州のハイプレスをかわすところも新潟は意識して準備してきたんだと思う。もちろん北九州も、新潟のハイプレスをかわす準備はしていたはずなんだよ。小林さん(小林伸二監督)いわく、『開幕戦はそこのやり合いになる』ということだったから。

それで試合を見ると、北九州は新潟のプレスを思うようにはがせず、うまくボールを前に運べなかった。だから北九州のプレスをかわし、北九州にボールを思い通りに運ばせない新潟が、前半10分過ぎからボールを持てるようになった。

それから4点中、3点は北九州の左サイドからのクロスから決まったでしょ?」

――そうですね。

「北九州にとって、そこは昨シーズンから、ある意味で仕方ないところがある」

――左サイドから積極的に仕掛けるから。

「そうなんだよ。だから左サイドバックも高めにポジションを取る。後ろのスペースを怖がって上がれなければ、意味がない」

--サイドバックの背後のスペースは、最終ラインでスライドして埋めたかったんですね。

「そうそう。スライドするか、ボランチが落ちてくるか。で、左のボランチがエスパルスから加入した六平(光成)選手。左のCBが佐藤喜生選手っていう、新潟出身の選手で」

――北越高校から桐蔭横浜大に進んで、昨シーズン、北九州に入った。

「うん。その佐藤喜生選手は去年、2試合出たんだけど、41節(○2-0山形)に途中出場してプロデビューを果たして、最終節(●1-2千葉)に初先発したのね。だから新潟戦は先発2試合目だった。顔触れが変わったこともあって、左サイドでマークの受け渡しがうまくいかなくて、何度もやられてしまったんだよね。これも北九州からすれば、やるべきことが分かっているのにできなかった例の一つ。アルベルト監督が言う、チームの成熟度の差が出た」

――試合後、小林監督は新潟の右サイドが起点になるから、そこを抑えたかったとおっしゃっていましたね。

「それもあって、左サイドバックの永田(拓也)選手は守備でもどんどん前にプレスに行こうとしたんだけど、新潟のボールの動かし方がうまくて、はまらなかった。その結果、どこかで守備がズレて、ズレて……となって、サイドを突破されてしまった。そしておそらく新潟は、北九州の左サイドバックの裏を狙っていたのだと思う」

――後半、選手が代わってからも、ずっとボールをそちらに運ぼうとしていましたからね。

「自分たちの狙いに対して、北九州が対応してくることも織り込み済みだったはずなんだよ。で、それを上回るボールの動かし方ができて、チームとして狙いを表現できた。だから完敗だよ」

――41分の北九州のゴールは、狙い通りだったのではないですか?

「開幕戦、唯一の収穫だね。伸二さんは、今年の新戦力は去年よりグレードが高いと言っていたけれど、それを証明したゴールだった。六平選手のミドルパスの精度と、富山(貴光)選手がぎりぎりの駆け引きをして裏に抜け出して決める、という個人能力の高さが出たゴール。北九州にとって、そこは次につながる部分だね」

(つづく)

【プロフィール】島田徹(しまだ・とおる)/広告代理店勤務の後、1997年にベースボール・マガジン社に転職。サッカーマガジン編集部、ワールドサッカーマガジン編集部で2006年まで勤務した後、07年より福岡にてフリー活動を開始。サッカーマガジン時代に担当を務めたアビスパ福岡とギラヴァンツ北九州をメインに、ほぼサッカーの仕事だけで生きつなぐ。現在はエルゴラッソの福岡&北九州を担当。

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