SIGMACLUBweb

【2020SIGMAの戦士】松本泰志/ストロングポイント

2019年から20年にかけて、松本泰志にはツキがない。

日本代表に選出され、南米選手権に招集されるまでは「素晴らしい1年」になるかと思われた。だが、そこで1試合も出られずにコンディションを落とし、戻ってくればレギュラーどころかベンチ外に。以降、試合出場はわずか2試合にすぎず、いずれも途中出場だ。チャンスをつかみかけるかと思えば怪我や体調不良。なかなかトップコンディションにあがってこない中、公式戦では稲垣祥の充実と青山敏弘の復活が目立ち、そこにトップ下にあがった川辺駿が絡んでくるし、柴崎晃誠もいる。広島のボランチは多彩だ。

松本泰志は必ず台頭すると信じている。1試合13キロのランニングを平均して続けられる走力は、他のJリーガーにもない特別な力である。それだけの運動量に加え、技術もしっかりしている。キックも持っているし、ここぞという時にはドリブルで切り込める。将来はゲームをコントロールできる可能性を持つ逸材である。広島の未来を背負える存在だ。

昨年オフ、彼が出場機会を求めて移籍(もちろん期限付き)するのではないかという観測もあった。だが、稲垣の移籍という想定外の事態があったことで、逆に「タイシの移籍はない」と考えた。だが、考えてみれば浅はかだ。稲垣が移籍しようがどうであろうが、広島のボランチは人材過多である。先にあげた名前の他にも、昨年後半から急成長中の松本大弥やルーキーの土肥航大がいる。タイシがどうしても広島に残らなければいけないという理由に、稲垣の移籍はない。

広島に残った理由については、SIGMACLUB本誌でのインタビューを予定しているので、その時にしっかりと聞いてみたい。ここでは「仮」の話として、考察してみる。

松本泰志が持つボランチとしてのストロングは、何か。

例えば青山敏弘ならば、長中距離のパスで一気に局面を変えられる。川辺駿にはスピードがある。松本大弥のフィジカルは強いし、柴崎晃誠には圧倒的な技術の高さと経験がある。

では、松本泰志は?

攻撃にしても守備にしても、戦術的能力にしても、彼には大きな欠点はない。しかし一方で、圧倒的なストロングを見せ付けることができていないことも現実である。走力であれば誰にも負けない。しかしそれは、例えばかつての青山が称された「エンジン」というほどの激しさ、バイタリティがあるかどうか。どこにでも顔を出し、チームの誰よりもボールに触っているという程ではない。カズが「運動量がそれほど目立たない」と表したのは、要はそういうことだ。

走力だけでは、ストロングにはならない。走力はあくまでベーシックなものであり、そこに何かがプラスされて初めて、強烈な武器になる。タイシは、技術も繊細さもあり、守備の意識も高い。能力のバランスを示す図形を描けば、美しい形になっている。しかし、プロとして闘いぬくには、むしろ少しいびつな形になった方がいい。

(残り 2763文字/全文: 3955文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ