山梨フットボール

「”内容より結果”というよりも、上手くいかない時でも”攻守一体”のもとで全員が同じ方向を向いて戦い切れたことが素晴らしい鹿児島戦」【2023明治安田J2リーグ第29節  甲府1-0鹿児島 レビュー】

2024831 甲府1-0鹿児島(18:03K.O/JIT リサイクルインク スタジアム/入場者数 4,792/天候 弱風/気温 24.0℃/湿度 73%/全面良芝)

得点者 23’オウンゴール(甲府) 

格圏にいる栃木(2-1)と鹿児島(1-0)に連勝したという結果には大満足も、試合内容には不安というか、ルヴァンカップ準々決勝、川崎FとのH&Aのあとは横浜FC1位)、仙台(4位)に17位だけど苦手意識があるタケシ熊本、山形(9位)、岡山(5位)と上位陣がほとんど。こういう話になれば、どことやっても大変なのは同じということになるし、直接対決があるという考え方はポジティブだけど、決定機の数では上回られた鹿児島戦を振り返れば不安を感じていた。ただ、オフ明け92日の練習後に林田滉也の話を聞いて少し考え方は変わった。

鹿児島戦はヘナト・アウグストを栃木戦に続いてストッパーでスタメン起用、大塚真司監督就任後しばらくスタメンを外れていた飯田貴敬も栃木戦に続いてスタメン器用で、同サイドのシャドーには三沢直人が入り、専修大学ラインを形成。ワントップにはコンディション万全ではないものの守備でも大きな存在感を発揮する三平和司が入った。前半、甲府がポゼッションをして始まるも、こんなにボール持てるの?と思うほどの高いポゼッション率。ボールを失っても鹿児島が繋げず、すぐに甲府ボールになり、ずっと甲府がボールを握っていた。鹿児島が蹴って来なかったからでもあるけれど、DFラインからのビルドアップは鹿児島のプレスに引っ掛かることはなかった。

の中でも凄いのは右WBの飯田。飯田に何回かボールが入って、そこからの攻撃の展開やバックパスをしたりサイドを変えたりする際に鹿児島の選手がプレスに行ってもボールを奪えない。飯田の低速からトルクがあるドリブルのクイクイ加速するスピードに全く付いて行けないので、鹿児島の選手はーー流石に前に行けば付いて行くけれどーー横や後ろなら余計な体力を使わないように早々とプレスをやめてしまっていた。飯田は「どことやっても大体ああなります」と飄々というし、3バックの真ん中の林田にあんな選手見たことある?と聞くと、「あの空間を作り出せるのはスーパー。安心してパスを出せるし、専大ライン(飯田、三沢)は上手いですね」という。最近は守備の球際でフルパワーを使うし、飯田の能力を最大限に活かせるやり方を発明できれば最高。夏の移籍でサイドの選手を抜かれたJ1クラブが飯田にオファーを出すかもしれないと思っていたが、何か足りない部分が気になったのか。飯田は上手く導いてくれる指導者にもっと若い時に出会っていればA代表も海外移籍もあったはず(当社比)。今、甲府にスーパーな個がいることを喜び、彼のストロングポイントをチームとして活かし、勝利につながることを期待する。 

ポゼッション率に慣れてくると攻撃の手数が気になるというか、ポゼッションすることでカウンターができなくなり、鹿児島の守備のブロックの外でボールを回しているように見えてきた。23分に荒木翔のーーある意味アシストーークロスを鹿児島のDFが処理ミスからオウンゴールを決めてしまい先制。甲府としては内容的に上回っている状況での相手ミスのオウンゴールでアドレナリンがドバドバ出るような先制点ではなかったと思うが、前半のうちにもう1点は取りたい内容と流れ。しかし、追加点がないまま終盤にはバー当たり、ポスト当たりのシュートを打たれるが、鹿児島が決めきれずに1-0で後半へ。

シャドー起用だった三沢直人は上手さと意表を突くプレーが魅力。VF甲府最大派閥の専修大学OB軍団のシーズン終盤の大爆発に期待。

山梨日日新聞でもMVPに選ばれていたが、ヘナト・アウグストが完全復帰に近いところに来たのかもしれない。ケガなしで走り切れるように祈る。

飯田貴敬のドリブルは本当に魅力的でオンリーワン。クロスの精度が更に向上したら最高。

鹿児島ペースになった後半。ハマらなかった甲府は5-3-2に変更して対策。57分に飯田のグレートパスで逆サイドの荒木翔がもう少しでGK11という場面もDFに寄せられてしまう。直後には鳥海芳樹と木村卓斗がワンツーで木村に決定機もシュートはGK正面。この後は鹿児島にミスが出始めて脅威が低下。1点差なのでお互いにエモーショナルになる展開になって行く。甲府は71分にピーター・ウタカを投入していたがこの日はスーパー・ウタカではなく、守備をしてくれない運動量節約気味。最終盤はオープン気味の中、クロス攻勢を受けつつ、主審の判定とも戦いつつの悪いエモーションとも戦った甲府。クロス攻勢を受けている時は鹿児島に1点入る悪夢とも戦っていたが、この試合はヘナト・アウグストが前半から大事なところでスーパーな球際の守備でチームを何度も助けてくれていた。ヘナトの本職はボランチもストッパーで90分間やり切って、チームを助けて勝利したことも収穫になった。そして、林田が「前半クロスしか攻撃の手がないように見えたかもしれないですが、アタッキングサードに入った時のイメージは持ってプレーしていた。それにずっとボールを持って攻撃できるのはプラスに捉えるべき。ああいう攻撃を続けることで相手の集中力が切れることもあるし、ちょっとしたことで点が入ることもある。ずっと攻められるのは怖いし、CBとしてはクロスを上げられるのは嫌だし、鹿児島の選手も嫌だったと思います。それが後半の戦いに響くというか、試合を振り返ればよかったと思えるのでボールは持ちたいです」と話してくれた。攻守一体の大塚ヴァンフォーレがバラバラにならずに同じ方向を見てやり切ったことが正解なのかもしれない。試合が終わった瞬間の順位は10位も、上にいるチームが多いと負けるチームがあっても勝つチームがあるからプレーオフ圏との勝ち点差は1ポイント減の9ポイント差の11位。攻守一体で大きな連勝が必要だということは間違いない。

(松尾ジュン)

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