無料記事 ”主力のゴール裏の迫力・凄み+138ブロックのJサポ連合で盛り上げたACLホーム国立競技場”「”連合は初めてじゃない”。誰かの窮地に駆けつける日本サッカーのサポーター連合が今回はJサポ連合という姿で甲府のACLホームを後押し」【主夫の部屋】
「問題が起こらないであろう138ブロックを選んでJサポ連合を招集」
VF甲府の初ACLのグループステージはあと1節(12/12)で、アウエーでタイの首都・バンコクから300キロ以上離れたブリーラムでグループステージ突破を懸けて戦う。国立競技場開催となったホームゲームについては、山梨県内に開催できるスタジアムがないことが問題になったり、沈黙したり・知らないフリをする人がいたりだが、結果として”国立競技場で開催してよかった”という思いの人が多いのではないか。第2節のホーム、ブリーラム(タイ)戦は90分の長谷川元希のゴールで1-0で初勝利し、入場者数は11,802人。第4節のホーム、浙江(中国)戦は4ゴールを挙げて4-1で勝利し、入場者数は12,256人と増加。第5節のホーム、メルボルン・シティ(オーストラリア)戦は3-3と引き分ける勿体ない試合になったが、入場者数は驚きの15,877人。JIT リサイクルインク スタジアム(小瀬陸上競技場)なら緩衝ゾーンを設ければ確実に入り切らない人数だった。概算で1万人が1試合あたりの損益分岐点という話もあったが、入場料収入はクラブの予想を超えているだろうし、具体的な数字は出ていないと思うがグッズ販売も予想以上だったと聞いている。
クラブが、”Jサポに告ぐ #甲府にチカラを”というキャッチコピーの広告掲示を渋谷駅でおこなうなど斬新なアイディアを打ち出してJリーグのサポーターに訴えたことがメディアやSNSで注目された。Jリーグサイドも”クラブサポート本部クラブ事業・メディアサポート部”が、マスコミやSNSに露出しやすいように効果的にサポートしてくれた。そして、”Jサポ連合”が甲府のサポーター・ファンと共に応援してくれるホームスタジアムをみんなで育て上げた。しかし、クラブが、”自分がサポートするクラブのユニフォームを着て来場することは可能です”と公式に意思表明したことはない。サポーターサイドの動きも”Jサポ連合”の自然結成に大きく影響していた。
甲府市在住で日本代表のサポーターでもある矢部智之さんは、「国立競技場での開催が決まったときから、クラブが負担する運営経費が大きくなることは予想できたので集客に協力できないか考えていました。ホーム初戦は甲府のファン・サポーターが多く来場すると思ったので、僕は日本代表のサポーター仲間40人くらいに声を掛けました。流石に甲府のゴールは避けたほうがいいと思ったので、138ブロック(GATE 5の上)のチケットを買って、そこに集まってもらいました」と、個人の人脈とSNSで発信して集客。特に仲がいい千葉サポーターが有名になった3枚構成のゲーフラ、”J2の誇り”を「ドッキリ的な感じで(矢部さん)」ブリーラム戦に持ってきて138ブロックで掲げてくれた。そして、その周囲にJ1からJ3のユニフォームを着た矢部さんの日本代表サポーター仲間やSNSで取り組みを知って駆け付けてくれたサッカーファン、サポーターが集まり、GATE5の上(138ブロック)が映像でも写真でも抜かれたし、甲府が90分のゴールでACL初勝利を挙げたことの相乗効果で大きく注目された。
「アイディアの源は天皇杯、F東京対ホンダのJFL連合」
こういう取り組みに対してネガティブな感情を持つ人もいるだろうが、J2甲府だからこういう事が進められたと思うし―ーいつ花が咲いたり、芽が出たりするのか分からないがーー何かの種を蒔いたのではないかと思う。矢部さんのこのアイディアには源があって、2016年の第96回天皇杯4回戦のF東京対ホンダ(JFL)の試合を味スタで観戦したときに、ホンダのゴール裏に他のJFLクラブのサポーター・ファンが集まりJFL連合軍のようになっていたのを思い出したそうだ。また、矢部さんに、「2002年の日韓ワールドカップの招致活動中の1995年の鹿島対C大阪の試合にFIFAの視察団が来るとなったが、C大阪のゴール裏のチケットの売れ行きが悪かった。”このままでは視察団の印象が悪くなる”ということで、各クラブのサポーターが自分のクラブのユニフォームを着てC大阪のゴール裏に集まったことを思い出したよ」と話してくれた人もいたそうだ。誰か、どこかの窮地に駆けつける”サポーター連合”が日本サッカー界の伝統になりそうな気がするし、こういうメンタリティは以前からあったということだ。
ホーム2試合目の第4節の浙江戦では、”J2の誇り”のゲーフラを作った千葉のサポーターが、第2段として甲府の胸スポンサーの「はくばく」のステッカーを自費制作。これを顔見知りのサポーター仲間などに配り、彼らが自分のユニフォームのお腹に貼ることで甲府を応援している姿にインパクトがある味付けをした。これもNHKのスポーツ番組がJサポ連合を取材したときに映像に写って注目された。「はくばく」の皆さんがどう思ったか知らないけれど、悪い気はしないと思うし、”ヴァンフォーレ甲府=はくばく”という認知度の高さを知らしめたと密かに喜んでいるのではないかと思う。ACLのユニフォームは1社しかスポンサーを露出できないが、クラブはこのスポンサー探しにかなり苦労していたと聞く。そこで引き受けてくれたのが、”はくばく”だと関係者に聞いたが―ー実際に商品の売上に繋がっているのかどうかは分からないがーー少なくとも認知度としてはかなりのインパクトがあったのではないか。
もちろん、Jサポ連合の皆さんも自分のクラブの胸スポンサーの上に”はくばく”のステッカーを貼るわけにはいかないので、お腹に貼ることにしたんだと思うが、よく貼ってくれたなぁとも思う。そして前出の千葉サポーターの仕掛け第3段が同じフォントで「ばくはつ」と書いてあるステッカーの制作で、メルボルン・シティ戦でデビュー。電柱に「おこと教室」と書いてあるのが、「おとこ教室」に見えるのと同じで、「ばくはつ」をぼんやり見ていると「はくばく」に見えるし、「はくばく」を貼るのに抵抗がある人には最高のアイディア。138ブロックの盛り上がりは矢部さんのアイディアと行動力と千葉サポーターの遊び心が大きく影響している。また、甲府は今季のリーグ戦で千葉にダブルを食らっているので優しくなりやすかったのかもしれない…が、来季のリーグ戦では―ー千葉だけではないがーー甲府のホームゲームで”ACL応援ありがとう”キャンペーンをして感謝の気持を表したい。来季、「はくばく」が、「ばくはつ」という名前の商品を開発してサンプルを渡すなど、みんなが盛り上がってクスッと笑いも出る粋なお礼をしたい(当社思いつき)。
ブリーラム戦では138ブロックの入場者数は約80人だったそうだが、浙江戦は140人近く、メルボルン・シティ戦は試合前日に98%売れていたそうで、この盛り上がりは多くの人が楽しんでくれた証だし、最後はスタジアム全体に広がっていた。知り合いのライターもチケットを買って「青いものを身に着けて応援しました。面白い試合でした」とLINEをくれた。一番最初に矢部さんが日本代表のサポーター仲間に「自分のクラブのユニフォームでもいいと思いますよ」と伝え、138ブロックという問題が起きにくいであろう場所を確保し、クラブも甲府のサポーター・ファンもJサポ連合の皆さんをフレンドリーに受け入れたことで、独特のいい雰囲気ができあがったのが甲府のACLホームゲーム。クラブの”Jサポに告ぐ #甲府にチカラを”のキャッチコピーもよかったし、広告の掲出も―ー最初に渋谷駅を選んだ感覚を含めてーー色々なことが上手く重なり合って国立競技場のACL3試合に繋がった。3連勝できなかったことは残念だけど、甲府の選手が常に1万人以上のサポーター・ファンの前でプレーできたことは2勝1分という結果に繋がっているし、嬉しいなぁと思う。”次はフットボール専用スタジアムが完成(予定無し)した山梨でACLを観たい”とピュアに思うにはーー山梨県知事をはじめとする行政の責任者やクラブの株主の皆さんがこのACLをどう観ているのかに懸かるがーー年を取り過ぎたが、最後のアウエー、ブリーラム戦に勝ってグループステージを突破して、「みんな、ありがとう。国立競技場で勝ち点7ポイント取れたからノックアウトステージに進めました」と言って1年を締めくくりたい。
(松尾ジュン)