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【広島 2-0 鹿島】川村拓夢の広島初ゴールを導いたクオリティと、サッカーを諦めかけた苦難の物語

始まりは、大迫敬介だった。彼のゴールキックからドラマは動いたといっておこう。

その直前、鹿島の左サイドバック=広瀬陸斗のクロスに鈴木優磨がファーポストへと飛び込んだシーンがあった。ミヒャエル・スキッベ監督が試合後、鹿島に与えた決定機としてあげた場面だ。

広島にとっては幸運なことに、彼はクロスを合わせることができなかった。既に足をつらせていたことも要因だったのかもしれない。

無理もない。広島戦での鈴木はまさに鬼気迫っていた。攻撃も守備も、ゲームをつくる役割もチャンスメイクも、あらゆることをやっていた。やろうとしていた。運動量だけでなくその質も高く、スキッベ監督が「もう1つの被決定機」としてあげたアルトゥール・カイキのヘディングシュート(51分)も、彼が佐々木翔の裏をとってあげた高精度のクロスから生まれたもの。鹿島にとって彼ほど頼もしい存在はないだろうし、広島にとって最も厄介な選手だった。

その鈴木がつった足を引きずりながらもポジションに戻ろうとした時、大迫はボールをセットした。

ターゲットはどこか、

若き守護神は、迷わず左サイドを選択した。そこには、同期・川村拓夢がいた。

「たくむ、頼む!」

強い意志がこもったボールは、ピッチに入ったばかりの27番を燃え立たせた。

半身でボールを受けたことは、彼のクオリティ。マーカーは常本佳吾。昨年のホーム広島戦で強烈なミドルシュートを決めきった破壊力満点のサイドバックだ。もし、彼に背を向けた形でトラップすれば、選択肢は後ろだけになる。それでは、攻撃ができない。川村は、自身のファースト・コントロールによって、複数の選択肢を自身に与えることができた。

川村はしっかりとボールを保持し、中へと切れ込む。常本もついてくる。土居聖真と和泉竜司もプレッシャーをかけにくる。3人に囲まれそうになった。いや、実際に囲まれた。

持ち過ぎたか。野津田岳人に出すべきだったか、いや、野津田は当初、和泉の監視を受けていた。ボール保持は成功したとしても、どうしてもスピードは遅くなる。

ボールを持ったら、速く仕掛けろ。

スキッベ監督がベースとしてチームに植え付けた振る舞いだ。そしてそれは「蹴る」ということではない。

「当初は自分たちもボールを持ったら早く蹴って、セカンドポールを狙いにいくのかなと思っていた。でも、監督が合流してみると『どうして繋がないんだ。繋げるだろ、君たちは』っていう。繋いでいいんだって、思ったんです」(塩谷)

川村は、指揮官の想いをプレーで表現した。

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