【S広島R 2-0 マイナビ仙台】松原志歩、涙の数だけ強くなった。
今日、松原志步は笑った。心から、笑った。
前半終了間際、相手のボールをカットしたのはボランチを務めていた志歩だ。高い位置。この試合で何度も見せ、その度にビッグチャンスをつくったハイラインの守備。
右に開いていたのは上野真実だ。クロスを入れた。決定的だ。だが、相手がこのボールを跳ね返す。
そこにいたのは紫の18番。いや、「いた」のではない。彼女は信じていた。自分が飛び込んだ場所にボールが来ることを。
気持ちの強い方に、ボールは転がる。
森山佳郎元サンフレッチェ広島ユース監督の名言を思い出した。
「入れっ」
想いを込めて、右足を振った。
突き刺さったその瞬間、志歩は両手を突き上げた。
抱きしめたのは立花葉。近賀ゆかりが何かを叫びながら、ヒロインに抱きつく。上野が、川島はるなが、中嶋淑乃が、木﨑あおいが祝福する。そして、妹・松原優菜も。
みんな、きっと知っていた。志歩がどんなに泣いていたか、を。その現場をたとえ見ていなくても、想像はついた。
10月10日、対大宮戦。右サイドバックで先発した松原志步は、自分の力をほとんど出しきれず、相手の突破に対してズルズルと引いてしまった。持ち味の積極性を見失った彼女を、中村伸監督は45分で代えた。右サイドバックを彼女のかわりに務めたのは、妹の優菜。その時以来、姉はピッチに立つこともできなくなり、妹は粘り強さに磨きをかけて、開幕時は姉がプレーしていた右サイドバックのポジションを確保した。
特に、次節の浦和戦は姉にとっての屈辱。妹は安藤梢や遠藤梢といった能力の高いドリブラーを相手に必死で闘い、守った。その粘りが、劇的な齋原みず稀の決勝ゴールを呼んだと言っていい。
優勝候補であり、それまで無敗の浦和を破って、チームは盛り上がった。
その場所に、松原志步は確かにいた。だが、ピツチに立っていたわけではない。ベンチから試合を見ることしか、ゴールを決めた齋原を祝福することしか、できなかった。
私は、何をやっているんだろう。
悔しさの中で、自分を責めた。こういう状況になったのも自分の責任だと感じた。
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