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柏好文J1通算300試合出場記念●2015年チャンピオンシップ決勝第1戦ドキュメント「KASHIWAの奇跡」※SIGMACLUB立ち読み版

「J1通算300試合の中で、もっとも印象に残っている試合は、なんですか?」

そんな質問を投げかけられた時、柏好文は躊躇なく答えた。

「2015年のチャンピオンシップです」

もちろん「300」の中に、チャンピオンシップは入らない。だけど、それをわかっていても柏は6年前、熱狂を巻き起こした大試合をあげた。特に第1戦は、今もJリーグ史上最高の試合だとたくさんの識者やサッカーファンが取り上げる試合である。

もちろん、広島側の視点から見れば、この上ない素晴らしい結果だった。そしてこの試合は、広島と縁も所縁もない人たちをも、興奮のるつぼに陥れた。

確かにミスはあった。だがサッカーにはミスは絶対につきもの。手と比較して圧倒的に不安定な足でボールを扱う競技だからこそ、どうしてもミスはでる。あのリオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドですら、ミスから逃れることはできない。サッカーとは人生と同じで、ミスや失敗を許容しながら進めていくもの。そのミスや失敗を乗り越えて成功を手にするからこそ、価値が高い。

繰り返しになるが、柏好文とサンフレッチェ広島が闘った2015年チャンピオンシップは、歴史に燦然と輝く金字塔。柏の300試合という積み重ねにはない試合ではあるが、彼を語る上では欠かせない2015年12月2日の戦いを振り返りたい。

 

記者たちを全員、自分の前に集めてやる

 

1128日、年間王者を決めるチャンピオンシップ準決勝。年間3位のG大阪と2位の浦和が激突したこの試合は、11で延長戦に入った。延長後半12分、自陣で丹羽大輝がバックパス。それが大きな弧を描いて、自分たちのゴール方向へ。必死に伸ばした東口順昭の左足がボールにわずかに触れる。

ポスト。

一瞬、埼玉スタジアムの時が止まったかに思えた。だが、東口は冷静。そのまま右サイドに展開し、一気のカウンター。米倉恒貴のクロスを藤春廣輝がボレーで叩き込み、G大阪が勝ち越した。さらにパトリックもゴールを決め、G大阪が決勝進出を果たしたのだ。

この年の広島はまさに王者の風格。34試合制では史上最多(当時)となる勝点74を荒稼ぎし、73得点(2.15得点/平均)、30失点(0.88失点/平均)、共にダントツで1位。年間勝点では2位・G大阪に11ポイント差をつける大差で、広島はリーグ戦を勝ち抜いた。

本来であれば、ここで優勝。だが、その年のレギュレーションは、あくまでチャンピオンシップに優勝したチームがチャンピオンだ。欧州式のリーグ戦重視の姿勢とアメリカンスポーツのプレーオフ形式を融合しようとした試みは、賛否両論。だが、結果としてこの年は、最高の盛り上がりをこのチャンピオンシップがもたらすことになる。

12月1日。チャンピオンシップ決勝第1戦前日のエディオンスタジアム広島で、選手たちはトレーニングを行った。練習後は取材を受けるために、ミックスゾーンへ。

ドウグラス、青山敏弘、森﨑和幸、塩谷司、柴﨑晃誠、林卓人、佐々木翔。佐藤寿人や清水航平、ミキッチや千葉和彦らは他のメディアに囲まれていたため、筆者はコメントがとれなかったが、いずれにしても過去にあまり例がないほど、選手たちはメディアに囲まれた。サブスタートが濃厚な選手たちも、浅野拓磨や野津田岳人、増田卓也といった選手たちに筆者はコメントをとった。

最後に、森保一監督。指揮官にとっては現役時代に経験して以来の大舞台(1994年)となるが、いつもどおりの冷静さだった。

「全ての試合で勝利を目指してやってきたし、その意識は変わらない。もちろん、全てで勝利することはできないし、勝点1を積み重ねたことで年間1位になれたことも事実。最低でも引き分けてホームに戻ってくるという考えもあります。

ただ、自分たちが思い描いていない状況になることもありうるわけで、そういう状況でも我々は継続力と修正力をもって、シーズンを戦ってきた。選手には、これまでやってきたことを続けて想定した戦いをやりぬくこと、思い通りにいかない時にも辛抱強く修正していくことを、やりぬいてほしい。

どういう状況に陥っても、これまでもたくさんの不利な現状を覆して勝利をつかみとってきた。まずは自分たちができることをやりぬけば、結果はあとからついてくる」

一通りの取材が終わった後、筆者に声をかけた男がいた。柏好文だった。

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