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「カズさんのような存在になりたい」と願った3年前の川辺駿と、そして現在と。

 

誰が出ても同じサッカーができる。

Jリーグが始まった時、指導者や選手、解説者たちがよくこういう言葉を言っていた記憶がある。今も、同じような台詞を言う人もいる。

もちろんそれは、サッカーはチームで闘うスポーツであり、チーム戦術の浸透が勝負を動かすという事実を語っている。

だが現実として考えた時、チームとは選手の能力の集合体であり、その能力を最大限に活かすために戦術は存在する。そういう考え方もある。

例えば佐藤寿人というストライカーは、唯一無二だ。代役など存在しないが、2012年に彼が22得点を奪って得点王となったのは個人能力だけではない。ミハイロ・ペトロヴィッチが発想した戦術の熟成と森保一の調整なくして、ストライカーのゴールチャンスがあれほど生まれるはずもない。一方で、いくらチャンスをつくっても最後の仕上げが確実にできるストライカーなくして、勝利はない。それは昨年終盤の広島が証明している。

得点だけではない。守備も、攻撃も、戦術と個人能力のバランスなくして、成果は出ない。そしてここで考えないといけないのは、そのバランスをどうとっていくか。

もちろん、チーム全体のコーディネートは監督の仕事だ。しかし、試合に入ってしまうと、監督にできることは限られている。戦術的な修正やゲームのリズム構築などもできるが、リアルタイムではできない。ピッチの中で監督の意図を理解し、先回りして選手たちを細かく動かす。「ピッチ内の指揮官」がいるかいないかで、試合のストーリーが全く変わってくる。

森﨑和幸が本物なのは、この「ストーリー構築」ができること。だから彼に対しては、ほとんどの監督が信頼する。森保監督にいたっては、練習が終わった後にほぼ毎日、カズを捕まえてピッチ上に座り、戦術的な相談を行っている。城福浩監督が就任した2018年、彼はほとんど病気のために練習すらできなかったが、戦列に復帰した後はやはり、カズと様々なことを話し合っていた。

カズみたいな選手は、そうは出てこない。彼も最初からできていたわけではなく、経験と研究によって「ピッチ内の監督」の場所にたどり着いた。彼が引退した後、広島にそういう選手は現れていない。青山敏弘は経験豊富で知性もあるが、そういうタイプではない。カズが武将であるとするならば、青山は剣豪だ。

だが2020年、カズの後継者が現れた実感がある。

奇しくも、やはり背番号8。バクスターのステージ優勝を支えたピッチ内の監督が風間八宏であり、森保監督の時はカズ。奇しくも、2人とも背番号8だった。

そして、川辺駿もまた、8番である。

3人の共通点は、まず技術が高いこと。ピッチ全体が見えていること。そしてプレーで回りに「今、やるべきこと」を示せることだ。

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