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【SIGMACLUB1月号立ち読み版・期間限定無料全文公開】「俺たちの円陣プロジェクト」に支援続々。プロジェクトリーダー・森﨑和幸C.R.M、感謝を語る

コロナ禍における資金調達方法としてにわかに注目を集めている「クラウドファンディング」だが、実はその歴史は古い。

そもそもクラウドファンディングの語源とは「群衆(crowd)と資金調達(funding)」を組み合わせた造語。ヨーロッパでは主として出版業において広く使われた形である。

17世紀頃の出版業界では、まずプロジェクトを立ち上げて一般の人々に周知させ、予約金額が十分な数字になって初めて、実際に執筆や出版が行われた。もっとも、この形は実際のお金は本が手元に届いた時に支払われる形で、今のクラウドファンディングとは少し流れが違うことは確かだが。

日本でも、明治30年代に丸善が百科事典の出版プロジェクトを立ち上げ、予約申込金方式で出版・販売する方式を打ち出したという。不特定多数の人々に資金協力をお願いし、プロジェクトを推進する形は、決して新しい話ではなく、特に芸術や出版などではこれまでも行われてきた。

ただ、インターネットの発展と共に「広く薄く」の資金調達がやりやすくなったこと、新型コロナウィルス感染拡大の影響下で特に集客を必要とするビジネスモデルが苦境に陥っていることなどもあり、クラウドファンディングへの関心が高まっていることは時代の流れか。

サンフレッチェ広島がクラウドファンディング「俺たちの円陣プロジェクト」を発表したのは、1120日のこと。1225日までの約1カ月間で目標金額は8000万円。資金使途はチーム強化費・育成費・クラブ運営費・新型コロナウィルス対策費用で、目標金額達成の有無にかかわらず、寄付金を受けとることができる。

このプロジェクトが生まれたのは新型コロナウィルスによる入場料収入など、クラブ収益の悪化が要因だ。既に鹿島や浦和のようなビッグクラブは夏場からクラウドファンディングに取り組み、両クラブとも1億円の目標金額を達成している。

ただ、今回の広島の場合は、他とは少し様相が違う。それは、プロジェクトの発想主体がクラブではなく選手にあるということだ。

プロジェクトリーダーを務める森﨑和幸C.R.Mの説明を聞こう。

「クラウドファンディングの話が持ちあがったのは、9月頃だったと思います」

誰が何かを提案したというよりは、自然な流れの中で「クラウドファンディング」の話は生まれていった。

「僕自身、クラブには本当にお世話になっていたし、広島の人々にずっと支えられていた。それは引退した時に強く感じたし、絶対に恩返ししたいという気持ちは強かったんです。その想いを形にさせてもらったのが、お好み焼き『みっちゃん』とのコラボレーションで、広島の人たちに無料でみっちゃんのお好み焼きを提供しようというもの。あの時もみっちゃんの小林社長をはじめ、多くの方々に協力を頂いてできたことです。

今回の新型コロナウィルスによるクラブ経営の厳しさは、わかっていました。でも、自分に何ができるのか、どんな仕事で貢献できるのか、それがわからない。自分の存在価値に対して疑問すら感じていたんです」

自粛期間、C.R.Mは何もしなかったわけではない。若い営業スタッフと言葉をかわし、パートナー企業のために何ができるかをスタッフと共に考え、そして動いていた。だが、自分自身が何かをやったとか、貢献できたとか、そういう手応えは感じていなかった。

その中で選手たちが自分自身の発想で、クラブのために動き始めていた。佐々木翔の提案によってスクールの子どもたちとのZoomによる対話が実現したり、サポーターと交流したり。林卓人や柏好文が自身の料理をSNS上で発表したり。自分たちができることを懸命に提案し、実行に移していた。

「自分と同じように、選手もクラブのために何かしたいと想ってくれている」

その実感をC.R.Mと選手が共有する中で「クラウドファンディング」という形はどうか、という流れが生まれた。

幸い、C.R.Mに心強い味方がいた。株式会社FiveHangouts(ファイブハングアウト)の淵上優社長だ。今季からクラブのパートナー企業となった同社は、デジタルマーケティングに対する企業のコンサルティングがメイン事業であり、淵上社長は事業支援型トレーディングデスク(広告出稿主のかわりにデジタル広告の運用を行う代行サービス)事業で実績を残してきた人だ。

実は淵上社長は、広島ユースにおける森﨑C.R.Mの1年後輩にあたる。株式会社ファイブハングアウトがクラブのパートナー企業となったのも、社長自身がユース、そしてジュニアユースでお世話になったサンフレッチェ広島に対して、何らかの形で恩返しがしたいという想いから。

「クラブのために、手伝ってほしい」

C.R.Mの願いを淵上社長は快諾、クラウドファンディング事業の骨格づくりをサポートした。

ただ、今回のプロジェクトを立ち上げるにあたり、C.R.M自身は葛藤も感じた。

「サポーターのみなさんには、既に多くの形で支援して頂いている。シーズンパスや年間指定席の払い戻し金を寄付していただいたり、「SAVE HIROSHIMA」Tシャツを買っていただいたり。新しいスタジアムのための寄付もお願いしています。

そもそも、サポーターのみなさん自身の生活も大変な状況にある中で、クラウドファンディングを通じて支援を訴えていいものなのか。その気持ちは今もある」

ただ、それでも彼はプロジェクトの推進にアクセルを踏んだ。

「自粛期間中、サッカーは普通の日常生活があって初めて成り立つものと感じていました。でも今は考え方が変わった。もちろん、日常生活あってのものだけど、自分たちのような存在がいろんな形で希望や元気、勇気を発信することで、暗くなりがちな世の中に光を灯せるのではないか。そういうところで、プロサッカークラブは社会に貢献できるという思いになったんです。でもそのためには、クラブの存続が大前提になる」

選手たちもクラブ経営の厳しさは、理解していた。だからこそ、自分たちでできることを探していたし、その想いが結実したクラウドファンディングという形に希望を感じた。青山敏弘は「この形ができたことは、本当にありがたい」とC.R.Mに告げた。その選手たちの想いが、森﨑和幸の背中を支えた。

サンフレッチェのクラウドファンディングで特長的なのは、返礼品の豊富さだ。他のクラブを見ると、返礼品の設定がなく純粋な寄付行為を求めたり、広報誌に名前を記載するという「名誉」だったり。広島の場合、名誉だけでなく、ユニフォームやシャツ、タオルマフラーなど具体的な商品で感謝の気持ちを表現している。

返礼品の一覧は別表に記載するが、たとえば選手サイン入りの公式試合球(5万円)やサイン入り2020年トレーニングシャツ(11万円)、2020年最終戦使用のサイン入りユニフォーム(15万円)、2021年開幕戦選手サイン入りユニフォーム(15万円)、2020年サイン入りGKピステ(11万円)、そして2021年シーズン限定KAZUシート(38万円)は完売した。他にも人気集中のため、数量を追加した返礼品もある。

また、詳細は決まっていないが、C.R.Mとサンフレッチェについて熱く語り合う座談会も企画。「支援していただいた方のために、たくさんのことを話したい」と森﨑和幸は気合い十分だ。

「そんなに安い金額ではないのに、みなさん自身も大変な中、ご支援を頂いた。本当にありがたい。いかに自分たちが、いろんな方々に支えてもらっているのか、本当にわかります。言葉にならないです」

C.R.Mは金額だけでなく、コメントにも心を動かされている。今、1000件弱の言葉を頂いているが、彼は全てに目を通した。

「サンフレッチェが生きがい」

「お年玉を使って応援します」

こういう言葉の数々に、どれほど勇気づけられたことか。

「どうやってお礼をすればいいのか、まだ具体的には思い浮かばない。ただ、サンフレッチェのサポーターでよかったなと、サポーターのみなさんに感じて頂けるクラブにならないといけない。

試合を観に来てもらうだけでなく、それ以外でも喜んでもらえるような活動をするべきだと考えます。ウチの理念である地域貢献とは、サポーターの方と共に地域を盛り上げるということ。そのために、何ができるか。

そして、もっと応援して頂けるクラブに成長するために、みなさんの心の支えとなっていくために。その意識は僕のような立場の人間が、未来の選手たちに繋いでいく必要があるんです」

今回のクラウドファンディング・プロジェクトの名前に、「円陣」という名前が使われている。この厳しい時期だからこそ、クラブ・チーム・サポーターが肩を組んで、一つになってやっていこうという意識。サンフレッチェ広島の存在そのものがクルマのエンジンのようになって勇気や希望を届け、生活の支えになっていけるような存在になる。そんな強い想いが込められた。

12月24日現在、支援総額は5700万円を越えた。本当にありがとうございます。

〆切は25日23時まで。よろしければご支援、お願いいたします。詳しくは「俺たちの円陣プロジェクト」まで。

 

(了)

 

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