SIGMACLUBweb

【サンフレッチェ広島取材の軌跡】1999年12月26日天皇杯準決勝対V川崎戦/国立の切符は勝ち取った(前編)

それにしても、なかなか厳しい日程である。準決勝から、クリスマスイブ・クリスマスと挟んで中2日、長居スタジアムで準決勝が行われた。相手はヴェルディ川崎。現東京ヴェルディである。

広島が久保竜彦と森保一、吉田康弘を怪我で欠いているわけだが、V川崎はさながら野戦病院状態。中澤佑二、北澤豪、高木琢也、栗原圭介、桜井直人と主力が負傷。外国人選手は契約の関係もあり、全員が帰国してしまっている。特にFWは人材難を極めていた。

監督は松永英機氏が務めていたが、実質的な指揮は李国秀総監督がとっていた。桐蔭学園の監督も務めていた李総監督は、エレガントなサッカーを求める芸術家肌の指導者で、林健太郎・小林慶行・山田卓也・栗原圭介はいずれも高校時代に彼の薫陶を受けたテクニシャン。他にも盛田剛平・森岡隆三・戸田和幸らも彼の教え子である。

この年、V川崎はファーストステージでは年間王者に輝いた磐田につぐ2位。しかも第12節までは磐田に1ポイント差をつけて首位に立っていて、あと3試合頑張ればステージ優勝に手が届くところまできていた。突出した破壊力を持つストライカーはいなかったが小林慶行を中心とするパスワークが冴え、闘いが安定。第4節・鹿島戦から第12節・平塚戦まで9戦連続不敗(8勝1分)と快進撃。広島も等々力で2-0と完敗した。セカンドステージは10位と低迷したが、まぎれもなく実力を持つチームである。

戦力不足となった天皇杯でも、横浜FC・川崎FとJ2組に勝利し、横浜FMにも勝利して準決勝へ。実はセカンドステージでは、久保竜彦・高橋泰のゴールで前半のうちに2-0とリードしながら、PKを二つも与えてしまう「不運」もあり、逆転負け。シーズンダブルを食らってしまう。相性がいい相手ではない。

試合2日前、トレーニング後のエディ・トムソン監督は、こんなコメントを残した。


……コンディションは、いかがですか。

トムソン●問題ない。故障者も少ないし、試合間隔が短くて厳しいのは、V川崎も同じ。

……V川崎にはリーグ戦で連敗していますが。

トムソン●といっても、内容的にはウチが優っていた。アウエイでは、ほとんど支配していたにも関わらず、こちらのマークミスからスーパーミドルシュートを打たれてしまっての敗戦。ホームでは、2-0とリードしていたにもかかわらず、愚かなPK・信じられないPKで、追いつかれてしまったもの。両方とも、本来ならウチが勝つべき試合だった。

……準々決勝では対清水の戦術を用いたが。

トムソン●基本的には、今までのやり方を変えないつもりだ。ただ、清水戦では守備的に戦ったので、あの試合とは若干の変更点はあるがね。

……選手のムードは?

トムソン●グッドだ。試合が進むごとに、自信が生まれている。選手たちは、自分たち自身で自分をケアしている。そこがいい。だから内容も、尻上がりによくなっているんだ。

……勝利への自信は?

トムソン●自信がなければ戦えないだろう?

……天皇杯では、長居で準決勝を2度戦って、すべて勝っている。縁起のいいスタジアムです。

トムソン●それは知らなかったな。それは、いいジンクスだね。


自信に満ちた指揮官。準々決勝での清水を相手にした勝利が、大きな自信となっているのは間違いない。天皇杯のヴェルディ戦といえば1997年1月1日、決勝で対戦し2-0というスコア以上の敗戦を喫した。この時、久保竜彦が出場して相手に脅威を与えはしたが、その久保は今回、出場できない。得点をとらないと勝てないが、シーズンを通して活躍した得点源がいない。ただ、それはヴェルディも同じである。

(残り 1470文字/全文: 2946文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ