SIGMACLUBweb

青山敏弘物語〜逆境〜 第18章/夜明け前

豪雨の広島ビッグアーチ。相手となる水戸には、名前の通った選手は1人もいない。スタンドは寂しく、7000人を切る動員になってしまった。

これが、J2の現実。そして、選手個々の力では明白に上回る相手に苦しむのもまた、J2である。

2003年、初のJ2時代でも広島は水戸に苦しんだ。そして今回も。木山隆之監督(現仙台監督)の徹底的な広島対策もあったのだが、立ち上がりに青山敏弘、そして佐藤寿人の決定的なシュートがあり、決まっていれば問題なく勝利できていた試合ではある。しかし、その「たられば」はサッカーでは通用しない。

39分、髙萩洋次郎が2枚目の警告を受け、退場。54分、相手の決定的なシュートをゴール前で防いだストヤノフがハンドによる決定機阻止で一発レッド。そしてPKによる失点。残り36分+アディショナルタイムを広島は2人少ない状況で、戦わないといけない。67分、後半投入の久保竜彦が服部公太のクロスを押し込んで同点に追いつくが、79分に突き放された。84分に水戸の鈴木和裕が退場するも数的不利は変わらない。

「今季、初敗戦か」

誰もが下を向いたアディショナルタイム、セットプレーから森脇良太が「顔面トラップ→ボレーシュート」という漫画のようなゴールを叩き込み、ずぶ濡れのサポーターを歓喜させた。魂の同点劇。「あの瞬間、何かがおりてきた」と興奮の表情を隠せなかった森脇の姿に、思わず胸が締め付けられた。

だが、この劇的な試合に、心の底から酔えるはずもない。例えば久保の同点弾にしても、もっと強かで経験豊富なチームなら、2人も多い状況でリードしている中で、簡単にカウンターを許すはずもない。最後のセットプレーにしても、勝利を目前にした相手のマークが甘かったという現実もある。粘り強さ、諦めない気持ちを選手たちが持ってくれていたことは、確認できた。だが、根本的なサッカーの内容を改善しないと、J1復帰は覚束ない。2003年、開幕から11戦負けなし、10連勝という破竹の勢いから一転して苦戦が続き、J1復帰に向けての大ピンチが続いた。そのトラウマが、広島にはある。

そして案の定、チームは難しい状況に陥った。

(残り 1658文字/全文: 2552文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ