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【THIS IS FOOTBALL】コラム/いつもどおりが、一番強い

そもそも,FC東京は広島戦を、広島側ほどの強い意識では捉えていなかったはずである。3試合連続完封で川崎F戦の0-3から立て直し、首位も独走気味。チーム力から考えても、広島にホームで負けるはずはない。彼らがそう思っていたというエビデンスはないし、試合後のコメントを見ても「広島が強かった」と選手たちは認めている。しかしハーフタイム、FC東京の記者たちには余裕が見え、広島の記者たちには不安が募っていた。それはピッチ上も同じ情景のように見えた。

知り合いからの電話が鳴る。

「G大阪戦の方がよかったように見える」

「いやいや、相手が強いんですよ」

そう応えた自分が、情けなかった。

ここ最近の広島は後半が強い。湘南戦以降の8試合で前半の得点が3点に対し、後半は11点。8試合負けなしは後半の強さが生み出していることは言うまでもない現実だ。しかし、FC東京の守備を見ていると、とてもではないが打開できそうな空気はなかった。ボールを保持できているのにチャンスを生み出せない。具体的にゴールに迫ったのは森島司のCKから野上結貴がヘッドで叩いたシーンくらい。期待を込めた東俊希は天皇杯での強烈なミドルを放つチャンスも与えられず、1本のサイドチェンジで才能の片鱗を見せた程度だった。

これまでは、確かに後半、立て直した。しかし、FC東京の守備を崩せる予感に乏しい前半を見せ付けられると、後半の広島に期待を込めたくても現実味に乏しかった。

余裕は間違いなく、FC東京に感じた。引いて守り、得意とするロングカウンターを発動させれば、いつでも点がとれる。実際、荒木隼人のパスをカットしてのショートカウンターでチャンスもつくった。後半、きっと広島は前にかかる。ボールをつないでいるが、いずれミスもでる。その時がチャンスだ。広島の攻撃で失点なんてしない。

そんな空気感がスタジアムを包んでいた。それもまた、エビデンスはない。しかし、感じる。考えるよりも先に感じてしまった。ブルース・リーなら、きっと感じたことが正しい。しかし「考えるな、感じろ」がすべて正しいわけではない。凡人の感覚は、周りに影響されるものだ。流されるものだ。感じるとは、決して第六感とかではない。多くの場合は、純粋な「感じる」ではなく、どうしても「考えて」しまうのだ。しかも、浅い考えなのである。だから、先ほどの言葉である「感じてしまった」という言葉は訂正しないといけない。「浅く考えてしまった」のだ。サッカーは90分の設計で決まることは、頭ではわかっていた。しかし、頭の中によぎる浅い考えは、どうしても否定できなかった。

後半、選手たちが出てきた。てっきり、東俊希が交代させられると思っていた。何もできていない若者をこのままピッチに置いておいては、勝てるものも勝てない。ハーフタイム、青山敏弘のアップが熱を帯びていた。後半頭から「キャプテン・青山」が登場するのではないか。そんな予感がした。しかし、予感など当たるはずもない。何もなかったかのように、前半の11人が登場してきた。

そうか。そういうことか。

城福浩監督は、いつもどおりの戦いを選択した。札幌戦でもG大阪戦でも、あれほどパンチを浴びせられながら、指揮官は我慢し、後半に立て直した。FC東京戦でも、同じように彼は臨んだのだ。それが勝因だったと筆者は思う。これもまた、浅はかかもしれない。しかし、筆者はそう感じた。周りの雰囲気に流されたわけではない。正真正銘、感じたことだ。

かつて2度にわたって指揮をとり、いずれもシーズン途中で解任された。最初の時は上位争いも経験していたし、カップ戦で優勝も経験した。しかし2度目はACLでベスト16に進出した後、チームが苦戦に陥った中での解任だった。その是非について、ここでは語らない。当時の情報を取材したわけではないし、過去のことである。筆者に論じる資格はない。しかし、城福浩監督の立場に立ってみれば、愛着という感情も含め、FC東京というクラブに対して「意識しない」わけにはいかないはずだ。それが、人間なのである。そして、意識していることを認めたくない。それが勝負師というものだ。

FC東京に勝利したい。彼がその意識を否定すればするほど、周りは「強い意識」を感じた。しかし不思議なもので、その強い意識が力になる時と堅さになる時があり、今までは堅さにつながってしまっていた。昨年のアウェイ決戦など、まさにその堅さが災いしたといっていい。相手は力んだ広島をいなし、隙を見つけて得点を奪っていた。

今回も過去の戦い同様に、広島側に堅さが存在するのかと思っていた。それほどに前半、広島は相手を崩せなかったし、ビッグチャンスも得なかった。しかし、それでも城福監督は動じなかった。

「(前半は)たぶん2シーンくらい、我々が焦れて一発を狙うパスを中盤で引っ掛けられて危ないところまでいったことがあった。なので、「逆に、焦れるな」と「相手の方が嫌がっている」と言いました。相手はボールを奪いに来れないので、一発のパスで何かやるのではなく、何十本も繋ぐ覚悟で、最後に崩して行けと言いました」

つまり、前半にやっていたサッカーを変えるな、焦れるなと、指揮官は指示したのである。

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