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☆☆☆無料記事☆☆☆~「アルビを想像し、大学サッカーの舞台で」衝撃受けた笠井佳祐の、この1年~【取材ノート】Text and Photo by 杉園昌之(スポーツライター)

新潟デビューとなったルヴァンカップの秋田戦では、松田詠太郎選手の右からの折り返しを、ゴールを背にしたまま右足インサイドで捉えて軸足の後ろを通すトリッキーなシュートを披露。来年の加入が内定している笠井佳祐選手の技術とアイディアの豊かさが、とても良く伝わってくるシーンでした。試合後、「とにかく楽しかったです!」と満面の笑みを浮かべていた笠井選手。新潟で受けた刺激を、大学4年のシーズンにどのようにつなげたのでしょうか。スポーツライターの杉園昌之さんのリポートをお届けします。タイトルカットで見せるユニークなポーズは、鼻の下に貼っていた絆創膏を隠すためだそう。この記事は無料でお読みいただけます。


■彼らはパスで会話する

 今年5月、ルヴァンカップ3回戦のブラウブリッツ秋田戦で新潟デビューを果たしており、すでにプレーする姿を目にしたファン・サポーターもいるだろう。180cm、71kgのスラリとしたスマートな体型ながら、球際で戦える。中盤からゴール前に飛び出していくダイナミックな動きも持ち味だ。2025年度からの加入が内定している桐蔭横浜大の笠井佳祐である。秋田戦は、特別指定選手としてプレーした。

 11月16日の関東大学1部リーグ最終節。日本大学戦では2トップの一角として先発出場していた。前線で精力的に動き回り、足を止めずにプレッシング。狭いスペースでもボールを呼び込み、わずかなスキを見逃さない。ペナルティーエリア内でスッとフリーになると、今季5点目のゴールをマークした。

 冷静なフィニッシュワークは、FW然としている。秋田戦では4-1-4-1のインサイドハーフで出場し、大学リーグのシーズン序盤はボランチでプレーしていたのが幻か何かのようである。プロの舞台では、どのポジションで勝負していくつもりなのか。試合後、ロッカールームに引き揚げていく途中に本人に聞くと、苦笑しながらの答えが返ってきた。

「それ、毎回のように聞かれるんです。僕としては、FW、ボランチともに自分の良さが出せると思っていますし、面白さも感じています。前でもあれば点が取れるし、中盤で守備するのも好きなので。どちらでも高いクオリティーを求めていきたい。どのポジションでもプレーできるユーティリティー性は、僕の強みだと思っています」

 4年生を迎える前に新潟のキャンプに参加したときは、ボランチのポジショニングについて秋山裕紀らから助言を受け、FWの動きは田中達也コーチにアドバイスされた。あらためて、サッカーの奥深さを知ることができたという。

「ここまで考えてサッカーをしているのかと驚きました。新潟の練習に参加してから、大学でもより頭を使ってプレーするようになったんです。『ここに立てば、相手が食いつくから、パスが入る』とか、自分の動き方、立ち位置ひとつで、相手を動かすこともできるんだな、と。この1年間は、いつもそういうところを意識してプレーしてきました。もしも新潟のキャンプに行くことがなければ、ずっとアバウトにプレーしていたままだったかもしれません」

 新潟で受けた衝撃は、あまりにも大きかった。24年春に正式なオファーを受けると、すぐに快諾。考え尽くされた緻密なパスサッカーをつくり出す練習環境に何よりも惹かれた。

「新潟の選手たちは言葉を交わさなくても、パスの強弱だけで会話している感じなんですよ。ここで練習すれば、僕も成長できるだろうと思いました」

 内定してからは、欠かさず新潟の試合をチェックしている。パスを出す、ボールを受けるタイミングには舌を巻くばかり。昔からサッカーは見るよりもプレーするほうが好きだったが、来年1月から加入するチームの試合だけは別だ。映像でイメージを膨らませて、大学サッカーの舞台で実践を続けた。思うようにプレーできないときは、試合の視察に頻繁に訪れる本間勲スカウトに意見を求めることもある。

「具体的なシーンを例に上げ、『あそこでプレスがかけられたときに、どのように剝がせば良かったと思いますか?』と自分から勲さんに質問することもありますね」

 ルーキーイヤーから試合に絡んでいくには、いま以上のレベルアップは必要不可欠。シーズン終盤のJリーグを見れば、どうしても目がいく同期入団となる東洋大の稲村隼翔は、ひと足早く新潟のレギュラーで活躍している。特別指定選手としてルヴァンカップ決勝にも出場しており、目に留まらないわけがない。

「刺激を受けている反面、悔しさもあります。僕も点を取って新潟の勝利に貢献したいと思いますが、まずは試合に出るところからですね」

 年が明ければ、すぐに新シーズン開幕に向けてのキャンプが始まる。これからスタートするプロサッカー人生。22歳の笠井は、どのような将来のビジョンを描いているのか。

「うーん、あまり先のことは……。僕はいつも大きな目標を立てないんです。プロに入っても、目の前の1試合に集中し、最善の準備をしていきたいと思います」

 焦らず、慌てず、一歩一歩進んでいくことを誓っていた。

【プロフィール】杉園昌之(すぎぞの・まさゆき)/スポーツライター。ワールドサッカーマガジン、週刊サッカーマガジンの編集記者、通信社の運動記者を経て、フリーランスに。サッカーマガジン時代、2012年11月24日のユアスタで取材した新潟の試合は、今も忘れられない。当時、担当だったベガルタ仙台は初優勝の望みが消え、一方新潟は奇跡の残留を果たすきっかけに……。現在はサッカーの他に陸上、ボクシングなども取材、発信している。

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