「新潟らしさを、攻守どちらも」【頼もう! 感想戦 feat.小林忠】~明治安田J1第37節 vs ガンバ大阪vol.1~
試合の難しさと残留を決めるプレッシャーの中で、新潟の選手たちのプレーぶりは決して積極性を欠いたものではありませんでした。しかしG大阪戦で出た課題として、攻守とも連動性を高め、よりコンパクトに戦う必要がありそうです。
■難しい試合になるのは分かっていたが
――結果を引きずらず、次に切り替えることが一番なのは分かっています。ですが、それがなかなか難しいG大阪戦(第37節●0-1)になりました。
「僕もなかなか切り替えられません。試合を取材している段階で、『うわー……』と途方に暮れていく感じでした」
――いつもなら普通にできることが、できないことも起こり得る。試合を見ながら『残留争いの難しさは、こういうところに出てくるよな』と、にわかに緊張感が高まっていきました。
「前節の柏戦(第36節△1-1)から3週間と、かなり空きましたよね。その影響もあったのでしょうか。
ガンバは1週間前に天皇杯の決勝を経ての試合。準優勝に終わった悔しさをそのままぶつける新潟戦でもあったでしょう」
――失点シーンはエラーと不運が重なったような、何か魔が差したような感じがありました。
「難しい試合になることは、選手たちは百も承知だったはずです。その難しさを断ち切るように、選手たちは積極的にプレーしていたのは間違いありません。
失点シーンも、ガンバがゴールキックからつないでいこうとするところにプレッシャーを掛け、一度はGKにボールを下げさせたところから喫しました。GKのフィードを橋本健人選手がはじき返しましたが、小見洋太選手が自分たちのボールにし切れず、舞行龍選手がディレイ(遅らせる)の判断をするのではなく、スライディングに行って、奪い切れなかった」
――最後は、ガンバの選手を捕まえきれずに失点してしまいました。
「気になるのは、新潟はミドルブロックを敷いてコンパクトに守ろうとするじゃないですか。それが非常に効果を持つ一方で、場合によっては相手のミス待ちというか、なかなか自分たちからアクションを起こしてボールを奪いに行けない状況に陥ることもある。
そのあたりをガンバ戦の後、舞行龍選手に聞いたんです。『相手にボールを持たれたとしても、そこまで怖くはなかった。それよりも、自分たちのセカンドボールへの反応が良くなかった』というのが舞行龍選手の答えでした。運もあるけれど、球際でガチャガチャッとなった後のこぼれ球が、ガンバに転がってしまった、と。
試合の流れ、展開もあります。ですが、あまりにも引いてしまうと、攻撃に出ていくときやっぱり大変ですよね。後半の決定機は、長倉幹樹選手のポスト直撃のシュートくらいで」
■ギアを上げ切れず
――新潟の選手たちの動きが鈍重だったかというと、まったくそういうことはなくて。たとえばトップ下で先発した長谷川元希選手は非常にエネルギッシュで、何度もスプリントを繰り返して背後へ動きだしたり、二度追い、三度追いしてプレッシャーを掛けていて、コンディションがかなり良さそうだと感じました。
ただ、そのアクションにチーム全体がタイミングよく呼応していたかというと、必ずしもそうではなかったかな、と。ボールを奪いに行く、行かないの判断がチームで共有できずにコンパクトさが失われていく現象は、リーグで4連敗していたときに露呈した問題でもあります。
「確かにボランチ2人含め、ラインを押し上げてうまく連動できていたかというと、物足りなさがあったかもしれません。ピッチの中で意思の疎通を図りたいところですが、やはり残留争いという重圧が難しくさせている部分があるのかもしれませんね」
――2カ月前、第33節の鹿島戦(●0-4)で4連敗を喫した後、チームはルヴァンカップ準決勝第1戦・川崎F戦までの短い準備期間にコンパクトさを取り戻しました。このとき、松橋力蔵監督は守備のときの“目線”を合わせることで状態を改善しましたが、今回も最終節・浦和戦までの1週間で何か手立てを講じたいところです。
「今の攻撃に関して、これは記者としてではなく、1人のファンとしての意見なんですが、チームの中でリーグで最も点を取っている谷口海斗選手と、ルヴァンカップで得点王となった長倉幹樹選手がベンチスタートなのは、なぜなんだろう? というのは率直にあります。もちろんいろいろなことを考慮した上で、監督が決断されていることではありますが」
――ガンバ戦の後半は、選手交代によってチームのギアが上がり切りませんでしたからね。ルヴァンカップ決勝とは対照的に。
「サッカーは、本当に奥が深くて難しいですね。僕たちのように外からあれこれ言うのは簡単ですが」
――ガンバ戦の後、小島亨介選手は『こういう状況だけれど、大胆さ、勇敢さが必要だ』と話していました。確かに前半の小野裕二選手の決定機も、秋山裕紀選手が思い切ってボールを奪うところから始まりました。ひとたびスイッチが入れば、そこから先は半ばオートマティックに崩せた場面でした。
「あのビッグチャンスは人数をかけてフィニッシュまで持ち込み、『新潟って、これだよな!』と感じられました。ですが、それ以外はなかなか人数をかけた攻撃が見られなかったのが気になります。後半、長倉選手がポスト直撃のシュートを放った場面も、ペナルティエリア内に1人入っていったくらいで。
ゴールに向かっていく人数が、勢いが足りない。クロスが上がっても、スタンディングで待っているような印象で、もっとゴール前にグワーッと何人もなだれ込んでいくような場面をたくさん見たいです。ガンバ戦に限らず、今シーズン、たびたび感じるところでもあります。
新潟らしい攻撃ということでいえば、キーパーのプラスワンを、なかなか使わせてもらえなかったガンバ戦だったかな、と」
――そこは小島選手も言っていました。「自分のところまでプレッシャーを掛けてくれば、それを剝がして数的優位を作れる。でも最近の対戦相手と同じように、自分のところまでボールが下がるとガンバの選手は取りにくるのではなく、ミドルゾーンにポジションを取って構えてしまう」と。
「コロンビアの伝説的GK、イギータになるしかないですね、小島選手が。ペナルティエリアを大きく飛び出してビルドアップに参加して、スコーピオン(※)でパスをつないで」(※腹ばいでエビ反り、両足裏でボールを蹴る)
(つづく)
【プロフィール】小林忠(こばやし・ただし)/新潟県阿賀野市(水原町)出身。7歳でサッカーの魅力にとりつかれる。レフティーで、北越高校では左右のMF、トップ下と中盤でプレーし、セットプレーも担当。1年時の関東遠征で新潟のレジェンド安英学氏(当時立正大学4年)に吹っ飛ばされ、心を折られる。2年時に全国選手権16強入りを経験。ケガと不整脈を理由にサッカーと距離を置き、高校卒業後は保育の道へ。専門学校を経て地元のこども園で12年半勤務した後、ひょんなことから2019年途中に日刊スポーツに入社。20年からアルビレックス新潟担当となり、再びサッカーに浸る。憧れの選手は元日本代表の中村俊輔さん。