ニイガタフットボールプレス

【頼もう!感想戦 feat.北條聡】~第8節vsアビスパ福岡vol.1~「前半、新潟は苦しんだ」

まさに極上のエンターテインメント。これほど劇的な結末があるだろうか? 伊藤涼太郎選手のハットトリックで最後の最後に試合を引っ繰り返した第8節・福岡戦の勝利を、北條聡さんと語り尽くします!

■忘れがたいゲームに

――第8節・アビスパ福岡戦。すごい決着の付き方でした。

「ニイガタフットボールプレスの読者の皆さんは、良い週明けを迎えられたんじゃないですか?」

――いやもう最高ですよ。

「あんな結末、ある?」

――映画のシナリオでも、なかなかないかもしれませんね。もし書いたとしても、その途端にリアリティを失いそうな。それほど劇的でした。

「いやあ、驚いた。あれをビッグスワンで見せられたら、サポーターはたまらないよね。もうね、あの2失点も演出に含まれてるからね」

――後半アディショナルタイムへの伏線、という。

「俺が思ったのはさ、多くの新潟サポーターが人生最後の瞬間に思い出す試合になったんじゃない? ってことでさ」

――走馬灯のように思い返す中の、欠かすことができない一コマ。

「そうそう。それくらい強烈だった。伊藤涼太郎選手がとにかくすごすぎた」

――すごかった。前半は福岡の前にほとんど何もさせてもらえなかったのに、後半あの大爆発。

「一人舞台って、ああいうことを言うんだろうね」

――国語辞典の「ひとりぶたい」という項目の例として挙がりそうですね。この試合の涼太郎選手は。

「本当にそう。だけど、今シーズンの涼太郎選手のできからすれば、こういうことが起こっても不思議ではないんだよね。たまたまハットトリックしました、という感じでは全くない」

――同時に、試合後のフラッシュインタビューにおける松橋力蔵監督は、選手のがんばりと結果を褒めつつも、内容に目を向ければ不甲斐ないと、決して表情を緩めませんでした。

「エンターテインメントとしては最高なんだけれど、当事者からすれば3-0で快勝したかったはずだからね」

――新潟の不甲斐なさというのは、福岡の強さの表れでもあったはずです。なぜ、彼らは3位でビッグスワンに乗り込んできたのか。それをよく理解できました。特に前半ですね。

「今シーズンのアビスパは3-4-2-1と4-4-2を併用していて、だけど基本的にやることは変わらない。アビスパに限らないんだけどさ、最近は『奪取速攻型』のチームが強いんだよね。J2もそうなんだけど。前線からしっかり圧を掛けて、敵陣に押し込んで、ボールを奪って速く攻める。で、点を取ったら堅守速攻に切り替わる、という。しっかりブロックを敷いてね。

単に堅守速攻なだけじゃなく、ボールを奪いに行く守備ができるかどうか。そこを追求する福岡に、前半の新潟は苦しんだ」

■そこで基点を作れないと

――ミドルゾーンを越えて、なかなか深い位置までボールを運べませんでした。

「これまで新潟は、自陣に押し込まれても裏返すことはできていたじゃない。守備をはめられて自陣にくぎ付けにされて相手を裏返せないというのは、猛反撃を受けた広島戦(第2節〇2-1)の後半と、名古屋戦(第6節●1-3)で舞行龍選手が退場になった後くらいで。

福岡戦の前半はそこまでではなかったにしても、自陣で攻められる時間がちょっと長かった。思うようにはがせなかった感じだよね。

それにはいくつか理由があると思うんだよ。で、チーム全体の問題ではあるんだけれど、福岡戦に関してはダニーロ・ゴメス選手と太田修介選手の両翼のところだよね。

左に回った太田選手は点を取ってもいるんだけれど、基本的には右サイドで出ることがこれまで多かった。だから右がダニーロ選手、左が太田選手というのはチームがチャレンジしていることの一つだと思う。

太田選手を左に回すということは、ダニーロ選手が右の方がいいだろうという判断の反映であるはずでさ。『全員が戦力』という力蔵さんのスタンスから考えても、チーム内の競争を活性化させるためにメンバーを固定化しないことは重要だよね。誰かがけがをしたり出場停止になっても困らないように、選手みんなが練習からモチベーション高く取り組んで試合に臨む状況を作る。その文脈での福岡戦の両ウイング起用だと思うんだよ。これでモノになってくれれば、チーム力がさらに上がるのは間違いないからね。

ただ、ダニーロ選手はまだチームにフィットしていない感じがある。俺は新潟の練習を見ることはできないから実力のほどは分からないけれど、ボールロストがやっぱり多い。周りとのコンビネーションもスムーズとはいいがたくて。彼が周りをまだ深く理解できていないし、周りも彼が何をやりたいのか十分には把握できていない印象を今の時点では受ける。

『まだ、ちょっと微妙だな…』と見ていたらさ、後半、相手のひじが入ってピッチに倒れて、プレーが止まっちゃったじゃん」

――はいはい、ありましたね。1点差に迫って新潟が反撃のギアを上げた後半。

「新潟の選手たちは、『チャンスなんだからプレーしようよ』的な雰囲気を出しているようにも見えた。正直、前半の出来からすればハーフタイムで代えるのかな? と俺は思ったんだよ。2点差を追いつき、引っ繰り返さなきゃいけないからね。

だから力蔵さんのダニーロ選手へのメッセージなんじゃないかな。何としてもいい感触をつかんでくれ、という。それって、実はある意味で厳しさのある采配でもあるんだけれど。彼は助っ人選手だから、何とかチームの力になってほしい。そういう思いを込めた起用だったと思う。

福岡戦に限れば、ちょっとうまくいかないままダニーロ選手は交代することになっちゃった。チームからすれば、立ち位置を変えながら外と内と両方でボールを受けてほしいというのはあるだろうね。

どちらで受けるにしてもあまりうまくいかなくて、右サイドバックの藤原奏哉選手はポジションを取りづらそうだった。そのあたりも、前半の新潟が少し苦しんだ原因としてはあるんじゃないかな。

正直いうとさ、この試合のアビスパの2トップはちょっとサボり気味に映ったんだよ。俺の目には。特に新潟ボールのとき。

もちろん前半の内に2点リードして、ブロックを作ったのも関係しているかもしれない。いずれにしても、いつものような圧はなかった」

――リードした後の福岡は、ブロックにボールが入ってきたところを強く潰しに来ました。

「そうそう。入ってきたところへのアプローチは強かった。新潟のパスの出し手はそこまで苦しくはなかったはずだよ。だから、あとはタイミグをどう合わせて、ボールを受けるかということだったと思う。前半の新潟は、右も左もそこがちょっとうまくいってなかったね。

左の太田選手も、内側に入ったときには少し苦労していた印象だった。だけど、そこは新潟に来てのチャレンジだと思うんだよね。ボールを受けられるだけのポテンシャルが太田選手にはあるはずで。

ただ現状、左サイドでのプレーに慣れることも必要だし、相手の出方によって難しさも変わってくる。ライン間でボールを受けるのは、そもそも難しいからさ。相手を背負った状態で、どう体を半身にして角度を作ってボールを呼び込むか、という特殊な作業だから。そこはちょっと苦しんでいたよね。ただでさえ、アビスパはボールが入ってきたところへの圧が強かった。だから、なかなかボールを受けられない時間が長かった。

それは1トップの鈴木孝司選手にもいえることで。当然、そこにボールが入るときの当たりはかなりきつかった。孝司選手もライン間に落ちてきてボールを引き出そうとするんだけれど、アビスパのセンターバックもしっかり追いかけてきてつぶされてしまう。

サイド、1トップのところで基点を作れないと、新潟としてはなかなか苦しい。そういう前半だったよね」

(つづく)

【プロフィール】
北條聡(ほうじょう・さとし)/フリーランスのサッカーライター。Jリーグ元年の1993年にベースボール・マガジン社入り。ワールドサッカー・マガジン編集長、週刊サッカーマガジン編集長を歴任し、2013年に独立。古巣のサッカーマガジンやNumberなどに連載コラムを寄稿。2020年3月からYouTubeでも活動。元日本代表の水沼貴史氏、元エルゴラッソ編集長の川端暁彦氏と『蹴球メガネーズ』を結成し、ゆる~い動画を配信中。同チャンネル内で『蹴球予備校』の講師担当。2021年3月から”部室”と称したオンラインサロンも開始。もう何が何だか……。

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