ニイガタフットボールプレス

【Voice of the Pitch】~トーマス・デン インタビュー~vol.3「まさに『いま』がそのとき」

ローテーションは今季のチームの大きな特徴で、そこにはCBも含まれる。そのラストピースとしてシーズン終盤に登場すると、守備でも攻めの姿勢を貫くチームの戦いを大いにバージョンアップさせた。コンディションを整えるまでに時間を擁したからこそ、持てる力を思う存分、爆発させるつもりでいる。

■乗り越えられた理由

――11月にカタールで開催されるワールドカップでプレーすることは、トーマス選手の大きな目標だと思います。しかしコンディションのことを考えると、そこから逆算して今シーズンここまで準備していくことはとても難しかったのではないでしょうか?

「新潟の選手としての初めてのゲームは、8月の栃木戦でした(第31節○2-0)。シーズン開幕から半年かかったわけですが、心掛けていたのはトレーニングをしっかりして、日々、向上していくことです。サポーターのみなさんやメディアのみなさんは、私が普段、どれくらいハードにトレーニングしているか見ることができないので、なかなか伝わらないとは思います。ですが栃木戦までの2カ月間、かなり激しいトレーニングをしながらしっかりコンディションを上げることができました。『あとは試合でプレーするだけ』という状態で、一日ずつ成長する。それによって、難しい状況を乗り越えることができました」

――少しでも早く試合に出たいという気持ちと、しっかりコンディションを整えなければならないという気持ちと、そのせめぎ合いの難しさもあったと思います。松橋力蔵監督とはどのようなコミュニケーションを取っていましたか?

「特に難しかったのは、シーズンの初めのころです。けがをして、治って、またけがして……という状態を繰り返したのですが、そのころリキさんが何気ない感じで『2週間でも2カ月でも待っているから。気にするな』と声をかけてくれたんです。非常に心強かったですね。それからサポーターやチームメート、スタッフが、けがを乗り越えようとする自分を支えてくれましたから。今の自分がやるべきことは、みなさんにプレーで恩返しすること。そのことだけを考えています」

――J1の浦和からJ2の新潟と、今シーズンはカテゴリーを一つ下げてプレーすることになりました。決してそれが遠回りではないということをトーマス選手がプレーで証明してくれるはずだと、サポーターみんなが信じていると思います。

「去年の終わりに代理人から『次はJ1ではなく、J2でプレーすることになる』と聞かされたとき、正直に言えば失望もありました。でも新潟に来てみて、それはすぐになくなりましたね。サッカーをする環境がすばらしく、チームのフィロソフィー、雰囲気もとても良かったですから。人生において、目標から後退しているように感じても、実は近づくための道であるというのは起こり得ることで、まさに『いま』がそのステップを踏んでいるときなのだと思います」

――ところで先日のオーストラリア代表での活動中に、ミッチェル・デューク選手(岡山)とJ1昇格争いの話にはならなかったのですか?

「しましたよ、もちろん。彼に言ったのは『自動昇格に関しては、君たちはノーチャンスだ』です(笑)。それからデュークからは、彼らが金沢に負けたあと(第39節・金沢3-1岡山)、『これで新潟の昇格はほぼ決まったね』というメッセージが来ました。新潟のサッカーは魅力的だと、デュークはよく言っていますよ」

――今回のトーマス選手の代表復帰に関するオーストラリア・メディアの記事を読むと、予想以上にアルビレックスの情報が盛り込まれていて、ちょっと驚きでもあります。

「新潟がオーストラリアで注目を集め、その歴史や今の状況を広く知ってもらえるのは非常によいことです。そしてそうなっているのも、新潟がJ1昇格目前で、J2のチャンピオンになる可能性が非常に高いから。今シーズンは、あと3試合。しっかり戦っていきます。

J2のどのチームも新潟を倒すことはできません。自分たちの強み、フィロソフィーを発揮できれば何も問題はない。そのために自分自身を含め、しっかりやっていきます」

(了)

【プロフィール】
Thomas Jok Deng / 1997年3月20日生まれ、ケニア / オーストラリア出身。182㎝、73㎏。DF。背番号3。スピードとジャンプ力、しなやかな身のこなしを生かしてボールを奪い去り、積極的に攻撃にも関わっていくCB。メルボルンビクトリー(オーストラリア)、PSVⅡ(オランダ)、メルボルンビクトリー(オーストラリア)から2020年、浦和レッズに加入。22年、アルビレックス新潟に完全移籍で加入した。ナイロビ(ケニア)で南スーダン出身の両親の間に生まれ、6歳でオーストラリアに移住、本格的にサッカーを始める。年代別のオーストラリア代表に選出され続け、昨年はU-24 代表キャプテンとして東京オリンピックに出場した。今年9月の親善試合で4年ぶりにA代表に選出され、11月のワールドカップ出場も期待される。

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