「川崎フットボールアディクト」

AFCさん、そこに正義はあるの?【コラム】

■突然のリリース

それにしても酷すぎやしないか。

主催者がどこかの独裁国家ならまだしも、世界に6つしかない大陸連盟のうちのひとつ、アジアサッカー連盟(AFC)の発表なのだから呆れて物が言えなかった。

大会としての格を上げようと、ACLをACLEliteとして新大会方式に再編。その最初のシーズンとして開催されたACLElite 2024/2025のベスト8が出揃い、3月17日に組み合わせ抽選会が行われるというタイミングの4日前。3月13日にAFCから突如として以下のリリースが発表される。

#ACLElite draw to reveal epic Finals showdowns(ACLEliteの組み合わせ抽選会が、壮大な決勝ラウンドの対決を明らかに)
https://www.the-afc.com/en/club/afc_champions_league_elite.html/news/aclelite-draw-to-reveal-epic-finals-showdowns-1

■シードの概念が突如出現

AFCは上記のリリース中に、突如としてシードの概念を登場させた。

すなわち、東西のリーグステージの成績について大会レギュレーション(Competition Regulations)の第8条3項(8.3)に基づき順位付けし、東西の首位、アル・ヒラルと横浜FMをシードすると発表。勝ち点22のアル・ヒラル(8試合)が、勝ち点18の横浜FM(7試合)よりも優れた結果を残したと認定した。その結果、アル・ヒラルが準々決勝第1戦で戦う1Aのポジションが与えられることに。また、横浜FMは準々決勝第3戦に出場する3Aのポジションに割り振られると発表された。


トーナメント表


クラブ分け

この決定がまずおかしい。

そもそもレギュレーションの第8条リーグステージ(LEAGUE STAGE)にはリーグステージの成績が決勝ラウンドに引き継がれるとの規定が書き込まれていない。

また第9条ノックアウトステージ(KNOCKOUT STAGE)にはシードの話は書き込まれていなかった。

■試合日を増やす

さらにAFCはACLEのノックアウトステージの日程まで勝手に変更してしまった。

当初の予定では4月25日と26日に準々決勝を2試合ずつ実施することになっていた。ところが新たに準々決勝の第4試合を行う27日の試合日を設定するという暴挙に。

何が酷いかと言うと、この結果、試合間隔に著しい不利益が生じてしまうのだ。

4月25日 準々決勝第1戦(QF1)アル・ヒラル
4月26日 準々決勝第2戦(QF2)、第3戦(QF3)横浜FM
4月27日 準々決勝第4戦(QF4)
4月28日 -
4月29日 準決勝第1戦(SF1) QF1の勝者 vs QF2の勝者
4月30日 準決勝第2戦(SF2) QF3の勝者 vs QF4の勝者
5月1日 –
5月2日 –
5月3日 決勝

つまり、1Aのアル・ヒラルと東地区のチーム1Bが対戦するQF1の勝者は準決勝(SF1)を中3日で戦えることに。ちなみに対戦相手のQF2の勝者は中2日でSF1に臨まざるを得ない。さらにSF1の勝者は決勝を中3日で戦えることになる。

その一方、QF4に割り当てられた4Aと4Bは準決勝のSF2を中2日で実施。ここを勝ち上がったとしても、決勝は再び中2日での開催になってしまう。

なぜこうなったのかというと、組み合わせ抽選会4日前に急遽、準々決勝第4戦が行われる第3試合日の27日が出現したため。

もうめちゃくちゃだとしか言いようがない。

さすがに抽選会の結果を操作することはできないと信じたいが、すでに東の首位チームとして3Aのシードが割り当てられたQF3の横浜FMは準決勝を勝ち抜いたとしても、決勝が中2日になることが確定。高温多湿のジェッダでの中2日の日程は過酷で回復はかなり大変だろう。

過密日程が確定している26日のQF3の西チームの3B、そしてさらに過酷な27日のQF4を戦う4Aと4Bは、どのクラブが割り当てられるだろうか。

ちなみに元々のレギュレーションでは、第9条4項に準決勝についての記述がある。

SF1: QF1の勝者 vs QF2の勝者
SF2: QF3の勝者 vs QF4の勝者

この記述の下に、わざわざ「誤解を避けるために言っておくが、上記のリストは必ずしも時系列を表しているわけではない」との注釈を書き添えてあるのだ。当初予定されていた形式で組み合わせ抽選会を実施する際に、準決勝の順番を動かせるようレギュレーションの中にその根拠規定をわざわざ書き込んでいたとしか思えないのだ。

今回AFCの誰かが、リーグステージの順位を使えば狙い通りの試合順を実現させられることに気がついた。レギュレーションには書かれていないが後出しジャンケンが登場した理由はそういうことだったのではないかと考えている。舐められているということなのだろう。

■そもそも山東泰山

繰り返しになるが、そもそもリーグステージの順位がノックアウトステージに引き継がれるという条項は無かった。だから7試合を終え、リーグステージ4位以内を決めていた神戸は、最終節の上海申花戦でメンバーの入れ替えを決断。当然だ。レギュレーションにはその不利益は書き込まれていないからだ。そして、敗戦。その翌日の山東泰山の撤退とその後の手続きはレギュレーション通りに行われ、山東泰山は大会に居なかったことにされてしまう。その結果、既に持っていた勝ち点3も消えることとなり順位を5位にまで落としてしまった。

AFCのご都合主義がもろにでた裁定だった。ここはレギュレーション通りでなくて良かったのではないのか、AFC。最終戦の山東泰山の0−3の不戦敗でいいじゃないか、AFC。

ちなみに山東泰山の撤退により恩恵を受けたのが敗退寸前だった上海海港と、メンバーを落とした最終節の神戸に勝利した上海申花だった。

時系列で振り返ると、2月18日にACLE最終節の1日目が終了。上海申花が神戸に勝利して勝ち点を10に伸ばしていた。

山東泰山が撤退を発表したのは蔚山との対戦当日の2月19日のこと。

ACLEのリーグステージでは、同国勢は対戦が回避されるため、山東泰山との対戦が無かった中国勢は8試合の試合結果が維持される一方、山東泰山との試合結果が抹消される他国のチームが影響を受けることに。

上海申花は19日の上海海港の試合結果によっては山東泰山と上海海港に抜かれ、9位に転落する可能性があった。

上海海港は、山東泰山が撤退したことで、順位を一つ上げ、さらには横浜FMとの最終節に敗北しながらも、勝ち点3が抹消された浦項を上回り8位に浮上することに。

最終節第1日目が終わったあとの撤退発表に疑惑の視線を送らざるを得ないのは、レギュレーション通りに山東泰山の全ての試合結果を抹消した場合、一部のクラブに有利に働くことが明らかだったからだ。

なお、山東泰山の撤退を、光州戦における山東泰山サポーターの不適切な行動と結びつける論調があるが、裏ではもっとエグいことがあった可能性を想像せざるを得ない。

それにしても、情けない。大会の格を上げようと大会名称やビジュアル、大会方式まで変更し、優勝賞金を吊り上げて始まった大会にもかかわらず、初回からこの有り様だ。本当に腹立たしい。そんなAFCの横暴をよそに、選手たちは健気に与えられた環境と向き合っている。佐々木旭が言っていた。

「ここに居る選手だけじゃなく、天皇杯優勝からつながっている大会なので。全員でしっかり、ACL初タイトル取れるようにやっていければいいかなと思います」

振り返るとフロンターレが出場権を得た今回のACLEは、2023年6月7日の栃木シティ戦を起点に始まった戦いだ。ラウンド16の高知戦では控え組が奮起。ベンチ組を盛り上げる瀬川祐輔の言葉を受け、その期待に応えた佐々木の一発で勝ち上がり。準々決勝の新潟戦は、延長後半アディショナルタイムに追いつかれる苦戦を強いられたが、PK戦をものにした。準決勝では長谷部茂利監督が率いていた福岡を下し、柏との決勝へ。

この柏戦は鬼木達前監督が「内容は完敗」と認める苦戦ではあったが、0−0で迎えたPK戦でチョン・ソンリョンが活躍。10番目のキッカーとしてPKを決めたソンリョンが柏のGK松本健太のPKをストップして勝利。ACLEの出場権を得た。薄氷を踏む思いで掴んだ勝利の裏には、倒れればDOGSOがもらえた可能性が高い細谷真大が見せたストライカーとしての矜持があったことも書き残しておきたい。嫌味などではなく、純粋に感謝したい。

その天皇杯決勝の柏戦と、先日の上海申花とのラウンド16第2戦に共に先発していたのは脇坂泰斗ただ一人だった。そうやって、いろんな選手が関わり、そうした選手たちのひたむきさの先に、2年越しにたどり着いたノックアウトステージの対戦が特定のクラブが有利になるよう操作されることが疑われる現状はどうなのだろうか。

そこにスポーツマンシップがあると言えるだろうか。それが公正だと言えるのだろうか。

フロンターレがACLEの出場権を手にするために戦った天皇杯の試合数は6試合。この試合の中にもドラマが詰まっていたのだから、34試合のリーグ戦を勝ち抜き、優勝して今大会の出場権を手にした神戸の無念さはいかばかりか。想像することすら困難だ。

横浜FMにしても急に作られたシードの結果、決勝戦進出時に不利になる26日の試合日が割り当てられたのだから気の毒だ。

本当に、腹立たしい。

と、恨み節を書き連ねたところで、大会が終わったときに、歴史に刻まれるのは勝者の名前だけ。

正直、今のAFCにも、今回のACLEにもうんざりしているが、我々としては、与えられた環境で全力を尽くすのみ。選手はすでに切り替えているのだから、戦う彼らを後押しするしかない。とにかく頑張ってほしいと思う。

最後に余談だが、アル・ナスルのサポーターも、アル・ヒラルが有利になるような決定がなされた今大会についてはうんざりしているとのこと。まあ、そういうことなのだろうなと。

(文/江藤高志)

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ