「フロあがり」の選手たちの活躍を喜ばしいと歓迎する鬼木達監督【コラム】
今季限りでの退任が発表された鬼木達監督に、聞いてみた。今や日本代表で戦うフロンターレ出身選手たちがフロンターレに居続けてくれたらなと、思うことはないのか。
「(そういう)思いはないですね。逆に、そうやって自分たちの目の前で活躍してた選手が、また世界の舞台で活躍するっていうのは、やっぱり非常に嬉しい、喜ばしいことだと思いますので」
指導してきた選手たちがハイレベルな場で躍動する、その姿を率直に喜ぶ。そんな鬼木監督の姿勢は、選手ファーストのいつも通りのものだった。
フロンターレのトップチームの在籍経験を持つ、いわゆるフロあがりの代表選手が5選手先発する中、ワールドカップ最終予選が行われた。10月15日に埼玉スタジアムで開催された日本代表のオーストラリア戦でのことで、Jリーグ史上に残る2020年シーズンを戦ったのは板倉滉を除く4選手。現代表のフロあがり率の高さが際立っていた。また、ベンチには旗手怜央も入っており、2020年、21年シーズンの特異さを改めて実感した。
そんな背景もあり、試合会場では「元フロンターレ勢すごいね」といった声がけを受けたが、逆に言うと国際的に通用するだけの選手たちがフロンターレを後にしたということで、22シーズンから下降線をたどる成績はある程度説明できるもの。鬼木監督としてはそこに原因を求めてもいいはずなのだが、そうしないところにらしさが滲んでいた。
改めて鬼木監督に2020年、21年シーズンのチームの完成度を聞いてみたが「完成度という表現でいいのかどうわからないですけども、やはり選手の、、、。もちろん今代表にみんなが顔を出しているくらいですので。クオリティというところでは、非常にあったと思います」としつつ「そういう選手がいたから、どうこうではなくて。やっぱりそういう選手たちのクオリティをそれぞれがやっぱり、出せる環境をそれぞれが作っていたというか。やっぱりそこらへんは競争もありましたし」と、当時のチーム内の環境に言及。
「それこそ、守田(英正)であったりとか。そういう選手も出れない時期もありましたし。そういう意味で言うと、そういういい競争が非常にあるというのが、非常にクオリティが上がっていく要素だと思います」と当時のチームの強さの理由の一つを指摘していた。
なお「まさしく今の日本代表もそういう要素が非常にあるのかなと思いますね。なので、今非常に見ていてもやっぱり面白いですし。そうですね。そこらへんはやっぱり、向上心っていうところですかね。やっぱり」と現代表についても言及。強さの原動力として向上心を上げている。
最後に余談になるが、現状、日本人選手の中で、Jリーグが「あがり」で無くなっている。Jリーグからさらに高いレベルのサッカーを目指し、世界に打って出る選手が年々増えている。そうした状況について「切磋琢磨して努力して海外にも行こうとする選手はこれからどんどんどんどん増えてくると思います」と話す鬼木監督はそうした時代背景について「今の流れとしては仕方ないという表現があってるかは分からないですけども。やっぱりそういうものなんだろうなと思っています」と受け入れていた。
ただ、そうした現状に少しでも抗うために「リーグとしてとか、クラブとしてとか。そういうものに対応していくことが重要なのかなと思います」と話す。一つは「選手の価値というものですかね。やっぱりそこをもっともっと日本にいる間から、価値があるというところをしっかり示さなくてはいけない」という観点。海外に出た後にその選手の価値を追認するのではなく、Jリーグでプレーしている時から凄さを見極める必要があるということ。そうすることで「リーグとしての魅力を増やしていかなきゃいけない」と話していた。
そう考えると、史上最強チームの一つだった2020年、21年のフロンターレがコロナ禍での活動を余儀なくされたのがいかにも残念でならない。また、昨今ではサッカーにおける情報戦の高度化や酷暑もあり、リーグ全体で、練習公開日やファンサービス、取材対応に制限がかかる傾向にあり、なかなか選手の価値を伝えるのは難しい状況にある。そうした環境下、どのように選手の価値を伝えていくのか。難しい舵取りがJリーグや各クラブには求められているとも言える。
(取材・構成/江藤高志 写真/金田慎平)