「川崎フットボールアディクト」

塚川孝輝「涙の決別と、決断を後押しした言葉」1/3【インタビュー】【無料公開】

2022年のシーズン中にFC東京へと移籍した塚川孝輝に関して、人づてに聞いていたことがあった。チームメイトに移籍を告げるとき、大泣きしたというのだ。そのことがずっと頭に残っていた。どんな思いの移籍だったのか。そんな疑問に対し、FC東京さんの協力もあり、塚川が時間を取って答えてくれた。
全3回でお届けする。

■涙の別れの意味

塚川孝輝は、喋ることができなかった。涙が、止まらなかった。

あまりに泣きすぎて別れの挨拶ができない塚川の姿に、その場に居合わせたチームメイトは爆笑するほど。湿っぽい別れにならなかったことがせめてもの救いだが、塚川にとって、それほどまでにつらい別れだった。7月18日のことだった。FC東京への完全移籍をチームメイトに報告した。

「確実に泣くと思ったので。今でもちょっと思い出すと泣きそうなぐらいなんですけど。本当になんか、(フロンターレは)すごい感謝しているクラブでしたし、チームメイトもいい人ばかりで、こういう形で出て行っちゃうってなって。なんか、すごい、悔しさが強かったっていうか。で、ちゃんと伝えたいと思ったので。泣くと本当に何を言ってるのか分からなくなると思ったので。紙に書こうと思って、前日の夜に書きました」

この時、塚川と共に田邉秀斗も千葉への期限付き移籍を報告。先に挨拶した田邉の挨拶を今どきの若者という思いで見ていた塚川は、その田邉の言葉が、涙で詰まる様子を見て正気に戻ったと話す。

「シュウトが最後に少し涙声になって。それで、僕びっくりしたんです。シュウト、泣くんだって。なんか、クールな感じがありますよね。それで、泣かないんだろうなって思って、最初も淡々と話してたんですが、最後になんかちょっと涙ぐんで。ありがとうございましたみたいな感じで。そこでなんか、シュウトが泣くんだっていう感じで、スンと自分に戻ったんです」

田邉のおかげで落ち着けて話せると思った塚川だったが、結局、自分の想像の斜め上を行く状況になったという。

「何かみんなの前に立った瞬間に、一言も喋る間もなく泣きました」

涙でろくにしゃべれない塚川と、それがツボに入ってしまったフロンターレの選手たち。その対比は想像しただけでも微笑ましいが、塚川にとっては別れの挨拶をまともにできないほどの思い入れがあるチームだったということでもある。

「今回の移籍の経緯や、この1年半の思いなどを伝えさせていただいて、最後はありがとうございましたって思いを伝えました」

号泣しながら感謝の気持ちを伝えたのは完全移籍だったから。片道切符である以上、チームメイトとして話せる最後の場での振る舞いからは塚川の誠実さがにじみ出ているように感じた。

■決断

そんな塚川は今回の移籍については本当に悩んだのだという。

「相当悩みました。日本一のチームで、自分が成長しているという実感があった中で、川崎で結果を出すことが自分の選手としての価値を上げられるっていうことも分かってましたし。ポジションを勝ち取りたい気持ちもあって。オニさん(鬼木達監督)しかり、ミツさん(戸田光洋コーチ)しかり。すごくお世話になった人がいて。何も返せずに出ていくのかっていう悔しさもありました」

オファーに対し悩み続けた塚川だったが、その背中を押したのはある人物の言葉だったという。

「『サッカー選手は、どこに行ってもサッカー選手であって、結果を出す場はどこでもいいんだよ』って言われて。『別に、チームにこだわる必要はなくて、そのチームに行って結果を出すことが、お前のサッカー人生のプラスになるんだったら全然いいんじゃないか』っていう言葉を言ってもらえて」

そんな言葉をもらった塚川は、「川崎で結果を残さなければ」といった執着心のような思いが解けたのだと話す。

「川崎フロンターレで結果を出さなきゃって固執してたものっていうのがあったんです。それはやっぱりお世話になった部分もありましたし。自分が成長させていただいたものを還元したいという思いもあったので。でも、違った形でもいいんじゃないかっていうお話をいただいて。その時に、そうだなっていう思いにもなって。それで」

移籍を決断した。

つづく(12月27日午前7時公開予定)

(取材協力・写真提供/F.C.TOKYO 取材・文/江藤高志)

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