「川崎フットボールアディクト」

裏切らなかった練習。昇格初年度の快挙達成/プレミアリーグ第20節 vsFC東京U18【レポート】

■中村憲剛の言葉

川崎U18が昇格初年度のプレミアリーグ2022EASTの優勝を勝ち取った。強度の高いFC東京U18の守備に終始苦しめられる試合展開の中、84分の決勝点は選手たちが年間を通して続けてきた練習が結果として出たものだった。

途中交代出場で流れを変えた柴田翔太郎が振り返る。

「木曜日(11月17日)ぐらいから(中村)憲剛さんが練習に来てくれた時に、自分が入った時のプレーをいかに集中して、自分のプレーを出せればいいという話をもらって。自分的にはアグレッシブに、とにかくゴールにゴールに、というところを意識してやりました」

柴田の特徴はドリブルでの仕掛け。練習中に柴田が見せていたそうした特徴について中村さんは「それを続ければいいよ」と声がけしたという。実際に試合は後半64分に志村海里からバトンを引き継いだ柴田の投入で動く。

「自分は縦に行くという推進力であったりを武器にしているので。0-0だったので。点に繋げられるプレーが何かしらできればなというふうに思っていたので。そこの部分では良かったです」

柴田は投入直後から特徴を見せる。マッチアップした右サイドバック、宮﨑奏琉を圧迫。複数回縦に抜き去り、クロスを入れてチャンスメイクした。

「やっぱり柴田が入ってきて、柴田が縦に仕掛けるところでやっぱりチャンスを多く作れていたので」

そう振り返る大関は、柴田を使うイメージを膨らませていたと話す。

「柴田もいいイメージでできていたと思いますし自分も柴田いっぱい使おうと思っていたので。相手の右サイドバックの選手も嫌がってたんで」

84分の先制点は大関からの柴田へのパスが起点になっていた。ピッチ中央の大関からのパスを左側のコーナーポスト付近に布陣した柴田が受ける。この時柴田には、二つのオプションがあった。

■練習の成果

1つは左サイドで縦に並ぶ同級生のサイドバック土屋櫂大を使うイメージ。そしてもう一つが、自ら仕掛けてのクロス。しかし自ら仕掛けてのクロスは、それまでに縦を何度か見せていたということと、深い位置だったこともありためらいがあった。

「自分自身、ちょっと仕掛けようかなというというところもあったんですけど。結構縦見せてたんで。深い位置でしたし」

縦への仕掛けが成功すれば会場は沸く。ただしプレー成功の確率は必ずしも高くはない。一方、土屋を使うパスには練習でのイメージがあったのだという。

「そもそも自分があそこの深い位置まで行って、(土屋)カイトに戻して、カイトがインスイングのクロスっていうのは、1年間通してクロスの練習っていうのをしてきて(中略)カイトが呼んでたので、練習の形が頭に入ってて。落ち着いてそこはできたかなと思います」

公式記録的にゴールスコアラーとなった五木田季晋も、土屋との練習を思い出していた。

「土屋がサイドでボールを持った時に、あそこで持った時にやっぱりクロスが来るっていうのは練習の中でずっとやってるので。あそこに来るだろうなと思って走り込んだら、いいボールが来て。あとは気持ちで押し込みました」

ちなみにゴールシーンについては、話を聞いた選手たちの記憶はあやふやだ。

五木田はゴールが決まった直後、大喜びする大関のゴールだと思っていたという。

「最初(大関のゴールかと)思ったんですけど、喜びに行った時に『誰のゴール?』だって聞いたら、『俺(五木田)』って言ってたんで、俺だなと思いました(笑)」

ちなみに自らのシュートが相手に当たったあと、五木田はどうやってゴールが決まったのかわからなかったという。

起点となった柴田は「正直、もう何が何だか分からなくて。とにかくサポーターのところに走ってたんで。ゴールは試合が終わってからでないと、キシンくんが決めたってわからなかったんですが」とのこと。ゴール裏に走ったのは、サポーターの応援が嬉しくて飛び込んでいったのだという。

■松長根悠仁の指示

なお、あの場面でクロスを入れた土屋が高い位置を取っていたのは松長根悠仁の指示があったから。

「柴田が何回か仕掛けてて。土屋がちょっと後ろ(の位置)にいたので。自分がもうちょっと掛かっていいよ(前に出ていっていいよ)っていう風に言って、そこからあのクロスを上げられたので。ちょっと嬉しかったです、自分は」

柴田の仕掛けがあってFC東京U18の陣形が右肩下がりになっており、また最終ラインの松長根、信澤孝亮のCBコンビにGKの菊池悠斗を加えた守備陣を中心に守れる自信があったからこそ、土屋を一列前に押し出す指示が出せた。守備陣は、CBの高井幸大とGK濱﨑知康がそれぞれ代表招集されており、通常とは違うセットだった。それでも前に出ていけたのは日頃の練習に裏打ちされた自信があったからだ。

ちなみにベンチの長橋康弘監督は先制直後、アップ中の浅岡飛夢の名前を呼んですぐに対策。試合終盤にFC東京U18がパワープレーに出てくることを見込んでの高さ対策の意味があったという。

「(FC東京U18には)大きな選手が結構いてですね。セットプレー、含めて、私らはちょっと身長は低いんですが、いいプレーヤーなんですけど。ちょっとセットプレーにちょっと自信がないところもあったので。あのタイミングで浅岡を投入して、そういった部分もちょっとチームの力になってくれたらなと思いました」

この時間帯よりも少し前。0−0の終盤に、攻撃的なサイドバック、元木湊大の名前も呼んで準備を促し攻撃のテコ入れを狙っていた長橋監督だが、最終的に元木の出番はなかった。すなわち、局面の変化に応じて采配を変化させていたということだった。

■初優勝

試合は終盤、1点を追いかけるFC東京U18が猛攻を仕掛ける。

松長根は「受けに入らず、相手陣地でサッカーすれば、自分たちのゴールからは遠ざかるので。そこはみんなで話し合ってました」と振り返る。

五木田は「凄い時間が長く感じたというか。そういうところがあったんですけど。もう本当に、気持ちで。何とか勝ちきるっていうことだけを考えてやってました」と苦しさを表現。そして勝利の瞬間、1年間の努力が報われたと大関、松長根は共に涙して喜んだ。

試合前に横浜FMユースが勝利しており、勝たなければ優勝が決まらないという状況の中、ホームゲームできっちり勝利。コロナ禍での初めての声出し応援のサポーターを前に初優勝を決めた。

最後にサポーターに対しての感謝の言葉を紹介しておきたい。まずは大関友翔。

「(試合に)入る前から、スタッフの方だったり、運営の方が集客に尽力してくれていたのは知ってましたし。そういったところでも、僕たちが来た時にはもうサポーターの方がいるような状況だったので。そこで自分が絶対やってやろうって気持ちにもなりましたし、試合中も声出し応援ありってことで、やっぱり声援聞こえていましたし、チャントも作ってくれて。やっぱりすごい力になったので。国立も同じように応援してほしいと思いますし、そういった方々の思いを、今日優勝という形で恩返しできたと思うので。そこはすごく良かったなと思います」

柴田翔太郎は、サポーターの応援の第一声を聞いた瞬間に鳥肌が立ったという。

「初めての声出し応援だったんですが、最初の第1声聞いた時は本当に鳥肌が立ちましたし、この人達の応援があってプレーできて、本当に後押し、自分たちを後押ししてくれましたし、最後もう1個勝ってファイナルで皆さんと一緒に喜べるように、自分たちもがんばりますので。またそこで力をもらえたらなと思います」

ふたりとも国立競技場にて12月11日に開催される「高円宮杯JFA U-18サッカープレミアリーグ2022ファイナル」に言及している。ぜひともサポーターの皆さんにはファイナルを戦うU18を応援すべく、国立競技場に足を運んでいただきたいと思う。きっとフロンターレ欠乏症な時期の、いい薬になると思います。

(取材・文・写真/江藤高志)

※写真は、あらためて追加します。

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